12. 生
生
俺の体はブルブルと震えている。
それは、もちろんこの季節に暖房もつけず飯も食べずにいるから。というのもあるが、あの男だ。見られていることに気付いた上であえて紙を窓に貼り付け、俺を脅してきた。
なぜ殺さない?そればかりが頭をよぎる。
あいつが俺の窓に紙を貼り付けてからどのくらいが経っただろうか。俺は未だにこの場から動けない。恐怖で脚は固まり、腰は抜けてしまっている。あの男はまるで、俺の心をもてあそぶかの様にあざ笑って見えた。
あの笑顔の意味はなんだ?
とにかく時間を確認しよう…
時計は近くに無く、ベッドルームには自分の携帯があることは分かっている。重い腰をどうにか上げてヨタヨタと歩きドシンとベッドにもたれかかった。途中で棚の角に足の小指をぶつけてしまったが痛みなど忘れるほどに体は強張っている。
携帯で時間を確認すると午前4時をさしている。
あの紙によって恐怖感と同時に少しの安堵感もあった。なぜなら、すぐに殺される可能性が低いから。すぐに殺すならいちいちそんな紙に字を書き、見えるように貼り付けたりしないだろうと。
とにかくなんなんだあいつは。
俺の周りで一体何が起きているんだ。
殺人サイトを発見してから今までロクな事が起きてない。
だが俺は。不謹慎なのは承知だが。
ここ数日間、実に(生)を感じた。
俺は色々な事件に少なからず関わっている。だけど、俺は今生きている。
この生きている、という実感は本当に何年振りなんだろうか。
朝飯を食べ、仕事に行き、また飯を食べ、帰宅し、射精し、また飯を食べ、風呂に入り、寝る。次の日はまたこれの繰り返し。
休みの日にはこれに掃除や家事などが入るだろう。
こんな日々に果たして意味があったのか?
俺は少なからず今は、(今)を生きている!
そして今、死に対して恐怖している!
生きようとしているんだ!
何の為に?
あのサイトはたぶん、おそらく本物だ。あのサイトを利用して俺は今生きているこの世界に自分の生きた爪痕を残してやる!!
そう決めた男は、冷や汗でビシャビシャになった寝間着を洗濯カゴに入れて冷水でシャワーを浴びた。タオルを頭に巻き、新しい寝間着を羽織ると一言呟いた。
「あー…寒すぎる」