10. 平凡
平凡
「おはようございまーす。」
いつも通り朝一番に出社した俺はカワセのいつもの掛け声のような挨拶に耳を傾けた。
今日は無事だ。
そしてしばらくすると課長が出社。すぐに俺の席まで来て、「こっちに来い。」
あー金曜日寝坊して出社してないんだった。笑
すっかり忘れていた俺は長いきつい課長の説教にただしょんぼりとした顔をして、聞いて見せた。
「次やったらクビだからな!!」
最後の言葉だけはしっかりと聞き取り、さすがにまずいと反省した。
カワセの死を確認する前にクビになるわけにはいかない。いや!死ななくてもクビはまずい!他の仕事なんてまっぴらごめんだ。
他の仕事を一からやるくらいなら死んだ方がマシさ。
俺は早く夜にならないかと、そればかりを思い書類に手をつけた。
相変わらず営業には行かせてもらえない。
その日の夜の事務所はひどく冷えた。
そしてひどい虚無感に襲われた。
木曜日から色々な事があり、突然平凡な毎日に突き返されたからだ。
何も面白い事なんて起きない毎日。今までよく過ごせてこれたなと我ながら感心した。
仕事もひと段落した頃が21時頃だった。
相変わらず職場のパソコンからは殺人サイトにアクセスできない。
方法はただ家のパソコンのメールからだ。このまま職場に残っても仕方がないと思った俺は珍しくそのまま帰る事にした。
職場から家まではバスで10〜2,3駅の所。電車を使うには近く、歩くには少し遠い。だがそのバスに乗って帰るのも本当に珍しい。
いつもは遅い時間に帰るため少し歩いて疲れたらタクシーで帰るんだ。
バスの中はスーツを着た男女がポツポツと席を離れて座っている。
みなくたびれてスマホをいじる余裕も無さそうだ。ただ頬杖をついているおじさんにカックンカックンと首が落ちそうになるOL。
みんな馬鹿の様に真面目に働いて帰っているんだ。
こんな風に人間観察しながら帰るのはなんだか新鮮で世の中を少しでも知れた気がして胸が気持ち良かった。
それにしても俺には本当に趣味と呼べるものがない。友達も女もいない。だから今はただあの殺人サイトにのめり込んでいる。
気になって仕方がないんだ。
俺は家に着くとすぐさまテレビをつけた。この辺の事件の事を何か話してないかチェックするんだ。
すると例のヒロセを殺した犯人が未だ逃亡中との事。近隣住民が顔と声にモザイクをかけ取材していた。
早く捕まってくれないと俺が安心できないだろ!心の中ではそう思いながらコップに焼酎を注いだ。
グッと軽く口の中に入れて、味を確かめる。別に高い酒ではないが唯一の娯楽だからしっかりと味見しながら飲みたいんだ。
ゆっくりのんびりと口の中に入れた酒を飲み込むと一気に眠気が襲ってきた。
ここ最近突然の眠気がよく襲ってくる気がする。きっとバタバタして疲れているんだろう。さっさとシャワーに入って食事も取らずに、時計のアラームをセットしてベッドに横になった。
それから何分がたったか。ウトウトとしていると隣の家から「ギャーーーッッ」とこの世の終わりの様な声が聞こえてきた。その女性の叫び声がこの辺一帯に響き渡った。 それはいつもヒステリックな声を出す女性の家だった。
俺は気になってカーテンを少しだけめくり、向こうの家にジッと目を向けた。