少女との同居
要塞国家リグレジア。その下に広がっている大規模な街。
第一章の舞台はそんな常夜の世界、地下街になります。
どこからか綺麗な笛の音が聞こえてくる。
透明でいて繊細なその音色は、俺の心だけでなく体の傷までも癒してくれそうで、とても心地いい安らぎの調べだった。小川のせせらぎを連想させるそれは、眠っていた俺の意識の中にまで染みわたっていった。
だが、そんな俺の快適な眠りを妨害したのは、他の誰でもない俺自身が負った傷の痛みだった。天国から地獄とはまさにこのことで、俺は一気に現実へと引き戻された。
目が覚めると、そこは小汚い物置のような部屋だった。
辺りには埃の被った箱や書物が散乱しており、黄ばんだ壁紙も半分以上が剥がれ落ちている。足の踏み場のないその部屋で唯一、俺が横たわっている部分にだけ白い布団が敷かれていた。
体のあちこちが痛み、少しでも体を動かそうとすると、まるでナイフで突き刺されたかのような激痛が全身に走った。まあ、実際に拳銃で撃たれたのだから当然の結果なのだろうが。
俺はまだ生きていたのか。正直なところ、それが目覚めて最初に感じた事だった。生きてる実感が湧かなかったのだ。何故ならあの時、俺は確実に死んだはずだったのだから。
キルネスに足場を破壊されて地上へと落下した俺は、奇跡的にゴミ捨て場のゴミの山に落下の衝撃を吸収されて一命を取り留めた。だが、生き延びたとはいえ体はボロボロでまともに動くことすらできない。警邏が俺の死体を確認するために追いかけてくることは明らかだったから、すぐに体を引きずってその場を移動するも、手当たり次第に近くのマンホールに飛び込み、地下街に落ちていく最中に気を失ってしまった。
いったい誰が助けてくれたのか。傷口は包帯で丁寧に手当てされている。
俺がそう不思議に思っていると、その答えはすぐに部屋の扉から現れた。
これまで俺は復讐を成し遂げるために、エリア間を渡り歩き、多くの人々と出会ってきた。だから俺は、扉から現れた彼女の容姿を見て驚いた俺自身に驚いた。
綺麗な、可愛い、美しい程度の形容詞で表現できる女性になら今まで何度も会ったことがある。復讐に生きてきた身とはいえ、そういう女性に見惚れてしまうことがなかったわけではない。でも、今目の前にいる女性、いや少女は過去に会ったいわゆる美少女と呼ばれる人々とは何かが違った。理由は俺にも分からない。あえて、何らかの形容詞をつけるなら、そう彼女は───
───人外の、神秘的な美しさを纏っていた。
同じ人とは思えないような万人を魅了するであろう美貌。
透き通った肌は触れることが不可能だと錯覚してしまうほど滑らかに見える。
しかも多種多様な容姿の人間が暮らすリグレジアでも、彼女のような髪と瞳の色はかなり希少だ。特に、髪の毛。仄かに光沢を放つ艶のある白銀の髪は肩より下まで伸びていてしなやかに揺れている。鮮やかな瞳は澄んだ赤色。キルネスの光眼のような毒々しい輝きは微塵もなく、芯のある彩りをしていて、まっすぐ俺を見ていた。
……そう、見ていた。完全に目があってしまっている。
「…あ、っと……」
殺し合いや取引以外で人と会話をする機会など絶えて久しく、一般人かつ初対面の少女を前にして言葉に詰まってしまった俺を誰が責められよう。
何か気の利いた一言はないか。
こんな時は、挨拶か? 自己紹介か? それとも……脅迫?
頭がパニックになる。女性に対して告白ならまだしも脅迫は無いだろう。いや、告白もあり得ないが。
俺が視線の置き場所に困り、どうしたものかと迷っていると、それまできょとん、とした表情だった少女の顔が突然明るくなった。
「起きたのね。体はまだ痛む?」
少女の高い声が沈黙を破った。
想像以上に親しげだ。
「あ、ああ。君が助けてくれたのか?」
少しぎこちなくなってしまうが、かろうじて返した。
「そうよ。ま、正確にはあたしが倒れている君を見つけて、ヴァンゼがここまで運んできたんだけどね。実は、その手当もヴァンゼがしたの」
私は手当なんてできないからね、と少女は淡く微笑む。
「そうだったのか。それにしても、助かったよ。君が見つけてくれてなかったら、俺はそのまま多量出血で死んでいた。本当に感謝している」
俺は命の恩人に感謝の意を述べた。警邏関係者以外の他人に対しては基本的に礼儀正しく振る舞うようにしているのだ。後で、ヴァンゼって人にもお礼を言わなくては。
「そんなに畏まらなくてもいいわよ。君を助けたのも手当てしたのもヴァンゼの気まぐれみたいなものだから。ここは地下街だし道端に誰かが倒れているなんてこと、日常茶飯事だしね。あとちなみに、ヴァンゼはこの酒場の店主よ」
そういうと少女は散乱している荷物を無理やりどかして、俺が寝ている布団の真横まで来ると、そばにあった箱に腰を掛けた。
ふうっ、少女のぷるんとした唇から吐息が漏れる。
俺は必然的に少女を見上げる形になってしまい。色々と目のやり場に困った。少女は黒の薄いシャツ一枚に、風通しのよさそうな短パンをはいてるだけだ。
何故こちらに来たのか不可解だ。扉の前からでも十分に会話はできたというのに。彼女は太ももの下に両手を挟んで、上体をやや前に倒してこっちを見てくる。
俺が慣れない状況に困惑していると、少女はおもむろに口を開いた。
「そういえば、君その体どうしたの?ヴァンゼが君の傷口を治療しているのを横で見てたんだけど、すごい重症だったわよ。見ているこっちが痛くなってきたわ」
少女の赤い瞳がきらきら輝いている。どうやらその瞳にはたくさんの好奇心が詰まってるようだ。なんというか、厄介な展開になったものだ。
これは昨夜警邏の本部を襲撃した時に受けた傷だ、なんて口が滑っても言えない。命の恩人である少女を騙すのは少々胸が痛むが適当に誤魔化すしかない。
「ああ、これは―――」
「無理にとは言わないけど、できるだけ教えてほしいなあ。ほ、ん、と、の話をね。無理にとは言わないけど、無理にとは。ね?」
何かがおかしい。頭の中の少女のイメージが急速に変化していく。いうまでもなく、良くない方向へ。
「ちょ、ちょっと待った。それは質問という解釈で間違いないか? 気絶していたせいかな、尋問に聞こえたよ」
額に汗を滲ませながら俺は訊いた。思わず顔が引きつる。
すると、少女は満開の笑顔を咲かせて答えた。
「質問でも尋問でも好きな方を選んでくれていいわよ。ほんとのことを教えてくれるならねー」
外見に反して、いや外見以上に積極的な少女のようだ。
少女の有無を言わさぬ勢いにたじろぐ俺。まともに身動きの取れないこの状況。ここまで追い詰められてしまっては逃げるなんてできるはずもなく、下手な嘘をついてもすぐに見破られることは分かりきっていたから、俺は潔く抵抗を諦めることにした。
まったく厄介な少女に助けられたものだ。まあ、文句を言える立場ではないが。
俺は変に他人行儀で接するのをやめる。少女が赤の他人であることには変わりはないし、陰の世界で生きる復讐者として必要以上に誰かと密に接するのはあまりよくない。でも、この清楚なのか図々しいだけなのかあやふやな少女にこれ以上行儀なんてものを使ってたらこっちが参ってしまう。精神衛生上よろしくない。少し投げやりな気分になる。
「了解、なるほどな。了解した」
俺は素の声音で答えた。もう構ってられない。適当に対応することにする。
「へえ。何を理解したというの? 興味あるなあ」
「俺は無い。そして去らてもらう。邪魔したな」
俺は簡潔に述べる。恩人に対して少々酷い気もするが、已むを得まい。どちらにせよ、本当のことを話すわけにもいかないし、警邏に追われている俺なんかがここにずっと滞在していては、逆に迷惑をかけてしまう。
無理やり体を起こす。激痛が走りぬける。体が震えた。
洒落にならないぞ、なんだこの痛さは。
「なっ、なによいきなり。酷くない? ちょっとくらい教えてくれても減るもんじゃないと思うんだけど」
少女はやや語調を強めて言った。
「減るよ。なんていうか俺の気力が削られる。それも大幅に削減される」
「それってつまりは、あたしと会話するのが面倒くさいってことよね?」
「あたりま───いやいや、そんなことないさ。全然快適だ」
「今、当たり前って言おうとしたでしょ! あと全然って、何かを否定するときに使われる言葉よ。嫌なら嫌ってはっきり言えばいいじゃない」
少女はどんどん身を乗り出してくる。少女の完璧さは何も顔に限った話ではない。スタイルも抜群で、適度に出るべきところが出て、凹むべきところが凹んでいる。
だから、目のやり場に困るのだ。もう勘弁してもらいたい。
俺は気のせいか頬が熱くなるのを感じた。いや、間違いなく気のせいだろう。気のせいであることを切に願う。
少女は今にも突っかかってきそうな勢いだ。
「まあまあ、楽しいかどうかはともかく、話すのが嫌なんてことはないから。───とりあえずこっちに近づくのやめようか」
そういうと、少女はにやりと笑った。否、嗤った。
「嫌じゃないってことは好きってことでしょ?」
「それは少々結論が早すぎるな。だいたい会話に好き嫌いなんてないだろう」
「頭が固いわね。もしかしてこうして女の子と話すの初めてなの?」
「そういう問題じゃない。君みたいなタイプが初めてなだけだ」
「あたしみたいなタイプってどんなタイプ? 興味あるんだけど」
少女との慣れないやり取りで動揺していたせいか、失言してしまう俺。
素っ気ない態度をみせることによって握っていた会話の主導権を、再び少女に奪われてしまう。…やられた。
「適当に言っただけだ。本気にするなよ」
意地を張ってみせる。いつのまにか手に汗握る自分に気付く。
少女はクスクスと笑いながら俺に王手をかけようとしてきた。
どんなに表情を変えようともその魅力は変わらずハイレベルなのが卑怯だ。
「じゃあ、お世辞かどうか、もっと近くで確かめてみようかなあ」
俺が女性に耐性の無いことをわかってやってやがる。完全に俺をからかっている。黙っていれば聖女のような容姿なのに、これではまるで魔女だ。
上体は起こせたものの、激痛が休むことなく体を苦しめ続けているため、立ち上がるのはまだ無理そうだ。
「あ、よくみると君、結構かわいい顔してるのね」
俺の横に体育座りをして、顔を覗いてくる。
少女の甘い香りが鼻孔をくすぐる。
俺は身をよじって離れようとするが痛みが走ったので断念する。
どうやって退散しようか。そんなことを考えていた時、今少女が言ったセリフを思い出し、あることに気が付いた。
馬鹿か俺は。素顔を見られているってことは仮面を外された、もしくは失くしたということだ。しかも、よく見れば外套も見当たらない。
もし少女とヴァンゼとやらに仮面と外套を目撃されていたら、俺の正体がばれるのも時間の問題だ。
「そういえば、俺の荷物知らないか? 上着も見当たらないんだが」
焦らず落ち着いて少女に尋ねる。
「ん? 荷物に上着ねえ、あたしは知らないけど……あっ、もしかしたらあのワインレッドの塊のこと?」
ワインレッドの塊、おそらくそれは俺の外套だ。
「いまその塊がどこにあるかわかるか?」
そう訊くと、少女は窓の外にみえる電柱を指差した。
少女の家に寄り添うようにして立つ電柱から出ている杭の一つに、それは引っ掛かっていた。地上から落下してきた際に落としたのだろう。
早く回収しなくては。
悲鳴を上げる体を無視して、俺は無理やり立ち上がる。歯を食いしばり激痛を耐える。そして、窓を開け放ち、周りの壁や突起物を利用して数回跳躍。ワインレッド色、正確にはそれよりやや黒が強いダークレッドの外套を奪取した。
窓の淵に跳んで戻ると、少女がぽかんと呆けていた。
「……君、いったい何者なの?」
大分目立ってしまったようだ。
ちなみに上から見ても仮面は見当たらなかった。この近くにはないのかもしれない。とりあえず、部屋に戻ることにする。
「ねえ、君。さっきからあたしに喧嘩を売ってるわけ?無視しないで答えてくれるかな?」
こめかみにしわを寄せながら少女が催促してくる。
不機嫌そうな様子の少女に俺は適当に返す。
「実は俺、大道芸人なんだ」
「嘘、絶対に嘘」
「全否定か……半分くらいは本当のことなんだが」
「じゃあ、半分は嘘ってことじゃない。ていうか、半分本当ってどういうこと?」
やたらと質問の多い少女だ。自重してもらいたい。
俺は少女が座っていた箱に腰を下ろす。
「俺の一族は昔からサーカス一座を営んでいたんだ。それで俺も小さい頃は曲芸とか色々教わってたから、普通の人よりは身軽に動けるだけだよ」
これは真実だった。六年前のあの事件が起こるまでは、俺はサーカス一座の子役として、ありとあらゆる訓練を受けていたのだ。
「うそっ、凄いじゃない! せっかくだからなんかやってみせてよ。曲芸」
少女はまたもや目を輝かせてお願いしてきた。半ば、命令に近いが。
「絶対言うと思ったよ。だから言いたくなかったんだ」
「いいから曲芸やってよ!やっぱ火の輪潜りとかかな?」
「それは動物用の曲芸な」
「じゃあ、剣を飲み込むやつとか?」
「それ、曲芸じゃなくてただのマジックだから」
その後も、少女から浴びせられる質問や命令を、俺は精神的ダメージを負いながらもなんとか受け続けた。
誰かと喋るってこんなに疲れるものだっただろうか。相手が女性だからか。
俺は不思議と自分の気持ちを整理できずにいた。
まあどうせあと少しの付き合いだ。痛みがもう少し引いたら、撤退させてもらおう。俺自身のためにも、少女のためにも。
ゴホンっ。
唐突に誰かの咳払いが部屋に響いた。
振り向くと、肌の黒い四〇代くらいの髭男が部屋の入口に立っていた。髭男はブラウンの短髪で穏やかな灰色の瞳をしており、こちらをじっと見ていた。
「お取込み中悪いが、ユーリ。そろそろ時間だ。厨房の方を手伝ってくれないか」
髭男がそういうと、少女は不満そうな顔をしてとぼけた。
「あれ、もうそんな時間?」
「ああ、そうだ。急いで着替えてこい」
男は手短に要件を述べ、今度は俺のほうを向いて優しい声音で言った。
「俺はこの酒場の主のヴァンゼだ。それにしても随分と回復したようだな。今日明日は安静にしているといい。なに、怪我人から金を取ったりはしないから安心しろ」
この髭の濃いおじさんが俺を助けてくれた人か。声が低く見た目もごついせいで近寄りがたい印象を受けるが、中身は優しいおじさんといった感じだ。
「ああ、傷の手当までしていただき本当に感謝している。ただ、お心遣いは有難いが、俺は今夜中には自分の家に戻ろうと考えている。だから泊めていただかなくて結構だ」
俺はできるだけ丁寧に自分の意思を述べた。
「そうか。それは構わないが、家からだとここまで来るのに手間がかかるだろう。それを考慮して、俺は住み込みでの労働を勧めたんだがな」
ろうどう? ……どういうことだ?
俺はヴァンゼの言葉の意味を理解できなかった。
すると、少女は不敵な笑みを浮かべて言った。
「あ、ごめん。まだ君に倉庫のこと言ってなかったわね。うっかりしてたわ」
「倉庫?」
俺は首をかしげた。何のことだろう。
「君、自分がどこに落ちてきたか覚えてないでしょ。まあ、気絶してたみたいだから当然でしょうけど。倉庫よ、倉庫。さっき窓の外に出た時に残骸が見えなかった? 君はこの店の倉庫に落ちてきたってわけ」
すぐに返事をせず、数秒考える。
倉庫。落下。残骸。酒場。手間がかかる。労働。
この、俺にとって不吉でしかないキーワードから導き出される答えは―――
「ということで、少年。君には、君が壊した倉庫とその際に割れた酒瓶の代金を払い終えるまで、ここで働いてもらう」
唖然。
もう驚くしかなかった。
「なっ、俺が働くだと」
誰か冗談だと言ってくれ。
「当たり前だ。人様の家の一部を壊して、商品まで台無しにして、怪我の看病までしてもらっておいて、はいじゃあ好きなタイミングで帰っていいですよとでも言うと思ったのか」
それは…その通りなんだが。
「ま、そういうことよ。観念してあたしに雇われることね」
待ってくれ。俺には時間がないんだ───
「ユーリ、雇うのはお前ではなくこの俺だ。お前はさっさと着替えてこいといっているだろう。給料減らされたいのか」
俺には殲滅しなくてはいけない奴らが―――
「はいはい。一度言えば分かるわよ。急かさないでくれる?」
一族の無念を果たすために俺は―――
「さあ、一階に戻るぞ。早く夜の支度をしなくては───」
「ま、待ってくれ!」
俺は立ち上がりヴァンゼに言った。
「詳しくは言えないんだが、その、俺にも事情があり───」
「却下だ。異議があるなら力づくで説得することになるが、構わんか?」
優しいおじさんなんてとんでもない。こいつ、とんだ石頭だ。頑固おやじだ。
手負いの体でも光眼を使えば、こんな髭男の一人や二人相手ではないが、それは賢明な判断とは言えない。俺の全財産では到底、酒瓶代と倉庫の修理代を弁償するには足りないだろうし……これはもう覚悟を決めるしかないようだ。
ああ、頭がくらくらしてきた。
「……了解だ、すまなかった。しばらくの間世話になる」
俺はしぶしぶこの酒場で働くことを了承した。そうするしかなかった。
「よし。それでいい。ところで、君の名前は何ていうんだ?」
ヴァンゼに訊かれて、まだ名前を名乗っていなかったことに気が付く。
ため息交じりの自己紹介をする。
「俺は…セア。セアっていいます」
簡潔にファーストネームだけ教える。
すると、少女も自己紹介をしてくれた。
「セア、ね。覚えたわ。あたしはユーリ。よろしくね」
絶賛、意気消沈中の俺には少女─――ユーリの笑顔は眩しすぎた。
「さて、俺は一つやることが増えたからユーリは先に下に行ってろ」
ヴァンゼはそういうと、散乱している荷物をどけてこちらに歩いてくる。
俺に何か用があるのだろうか。
「どうかしたの?」
ユーリもヴァンゼの意図が読めないと言った様子で首を傾げている。
「さっき大きな物音がしたが、セア。お前は今、自分の容体がどれだけ深刻か認識できていないようだな」
俺はヴァンゼの指差した自分の体を見て絶句した。
外套を取りに行った時、激しく体を動かしたせいだろう。
左脇腹を中心に、腹部に巻かれていた包帯が血で赤く染まっていた。
「なる、ほど。道理でさっきから頭がくらくらす、るわ───」
視界が暗転する。
そして、情けなくも俺は再び気を失ったのだった。




