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復讐讃歌 〜青き瞳が世界を塗り替えるまで〜  作者: 抹茶堂
第2章「仮面を剥がされし者達」
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極刑「国外追放」

 人生最期の日が訪れた。

 こんなに頭が冴えてるのは、あと数時間で死ぬことが確定しているからだろう。


昔、本で読んだことがある。確かタイトルは『死刑囚エルベックの手記』だったか。迫りくる死を間近に控えた死刑囚の心理状態が事細かに描写されていて、当時小さかった俺は少なからず衝撃を受けた。

その本には、生きる理由が無い死刑囚ほど惨めに泣き叫び、生きる目的がある死刑囚ほど最期は落ち着いて自らの死を受け入れると書かれていた。まさにその通りだと、死刑囚になった今だからこそ確信して言える。


 正午、俺は独房から出され、天国まで続いているのではないかと錯覚させるほど長い間エレベーターに乗せられ、やがて壁の上に辿り着いた。

 そこは尋常じゃないほどに風が強く吹き荒れ、悍ましい唸り声のような風音が響き渡っていた。乾燥した空気が塞がりきっていない傷跡を刺すように刺激する。さすがは死界とリグレジアを遮断している壁の境目といったところか。まるで別世界にいるようだった。

 警邏に連れられて、壁の淵まで連れて行かれる。死界に近づけば近づくほど、闇の向こうから湧き上がるうなり声は大きくなり、体に重く纏わりついてくる空気は俺を壁の外へと引きずり込もうとしているみたいだった。

 どうやら拘束は外されないまま処刑されるらしい。視界も奪われたままだ。俺の光眼を危惧してのことだろう。今更抵抗なんてしないというのに、そんなに警戒しているのか。まあ、俺が警邏に対してしてきたことはそれだけ過激で破壊的なことだったのだから仕方ない。せめて壁の外の景色くらいは拝んで死にたかった。壁の外にまつわる噂を信じているわけではないが、少しだけ興味があったのだ。


 警邏に、五歩だけ進め、と短く命令される。

 それに従うと、二歩目から足の感触がしなやかな素材に変わった。これはおそらく、木材の板か何かだろう。足場が不安定にぐらぐらと揺れる。ちょっとでもバランスを崩したら倒れてしまいそうだ。ということはもうここは壁の外ということになる。淵から死刑囚が飛び降りるための板のようなものを設置しているのだろう。体に吹き付ける風がまた一段と強くなったような気がした。


 俺の死刑執行人となる警邏は厳かに宣言した。


「これより、死刑囚一〇四八八番、セア=レグノードの死刑を執行する。

刑の内容は、極刑・国外追放『メシュラキスモス』。

死界へとその身を投げ捨て、国家に対する重大な反逆罪を贖うものとする。

質問、異議、遺言の類は一切受け付けない。

それでは、国王の名に下に、極刑・国外追放『メシュラキスモス』を執行する」


 背後で拳銃の撃鉄を引き起こす音がする。

 なるほど、ここで射殺してそのまま死界へ捨てるつもりか。

 人を散々拷問しておいてまだ痛めたりないのだろうか。

 俺は深く呼吸をした。拳銃が身体を貫くその時まで、何度も何度も。

 約十八年間。短い人生だった。

この人生、果たして俺は幸せだったといえるのだろうか。

 国家によってノード財団が滅ぼされるまでは、裕福で温かい家庭に囲まれてなかなか幸せな時間を過ごしていたといえる。すべてを失った六年前からは、地べたを這いずり回るゴキブリのような惨めで報われない人生だった。家族を殺した国家を恨んで、憎んで、呪って、ただそれだけの日々だった。復讐を忘れたことなんて一刻もなかった。これは誇張ではない。真実だ。

 だがつい二週間くらい前、そんな俺の闇に閉ざされた人生に一筋の光明が差し込んだ。その灯の名はユーリ。君だ。一族を惨殺されて復讐を誓ってからたったの一度も揺らぐことのなかった俺の復讐心が、君と喋っている間だけは、触れ合っている間だけは、まるで太陽にかき消された影のように、透明に消えてなくなっていたのだった。最初は、病気か何かと勘違いしたほどだ。


「ユーリ」


 喉は震わせず口だけを静かに動かす。

 もう二度と会うことのない少女に向けて。

 その温もりで俺を亡霊から人間へと戻してくれた少女に向けて。

 想いを伝えることなく、別れてしまった少女に向けて。

 もう何年間も流れることが無かったそれが頬をつたうのを感じながら。

 俺は限りない感謝をこめてその言葉を少女に捧げる。


「ありがとう」


 そう言い終わると同時に、銃声が、吹き荒れる風を貫いた。

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