表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
復讐讃歌 〜青き瞳が世界を塗り替えるまで〜  作者: 抹茶堂
第2章「仮面を剥がされし者達」
20/25

真相_____キルネス視点

タイトルですが、

「復讐少年×喪失少女×要塞国家」から

「復讐讃歌〜青き瞳が世界を塗り替えるまで〜」に変更しました。

 キルネスは、輝かしい冒険譚を語る冒険家のように、堂々と胸を張り、満面の笑みを浮かべていた。


「君の記憶は失われたのではない。封印されたのだ。誰でもない、君自身の力によってね。そう、その力が覚醒したのは、六年前に起きた『青き悪魔の反乱』の最中だった。記憶の無い君もこの事件については知っているようだから、公式の情報は省かせてもらうよ。公式の情報はね。そう、この事件には裏があったのだよ。恐ろしいほど歪んだ裏の事情がね。警邏の隊長をしている私が言うのはおかしいかもしれないが、断言しよう。国家から公示された情報はその八割が嘘。偽の情報だと言っていい」


「な、なにを言って、いる、の」


 それを聞いた時、あたしは呼吸が止まった気がした。


「この事件の内容を知った時、違和感や不自然さを感じなかったかい? あのノード財団が本当に反逆なんて企んでいたとしたら、あっさり国家に知られて警邏に殲滅されるような下手な真似するわけがないだろう。ノード財団の陰謀。それは国家がでっち上げた事実無根の嘘偽りなのだよ。秘密の会談というのも実際は、レグノード家とミロノード家の単なる交流の食事会だったらしい」


 偽の、情報……でっちあげ?


 ノード財団は五つの家系から成り立っていたらしいけど、財団の構成員は関係者も含めるため、総勢七百人を超えていたと聞く。そんな多くの人間の命が国家の都合で消されてしまったというの?


 開いた口が塞がらないとは、まさに今のあたしを指す言葉だった。

 キルネスは滔々と話を続けた。


「国家、というよりは王家と言った方が正しいだろうが、とりあえず、ノード財団は大きくなり過ぎたのだ。各界に及ぼすその強大な影響力は王家にとっては脅威以外の何物でもなかったはずだ。そして、なにより危険視されたのはノード財団が有する光眼使いの数と力だ。ノードの血を継ぐ者は必ずと言っていいほど高確率で光眼を持っていた。例外的に継がれない場合もあるが光眼は遺伝の影響を強く受けるからね。財団の人間としか交わらない習慣もあったとも聞く。とくに、ノード財団には例の亡霊ではないが、青の光眼を持つ者が多く、当時、国内の青の光眼使いの九十九パーセントがノードの人間だったらしい。青の光眼の能力は『侵入』。他人の意識を支配することができるという全ての光眼の中で二番目に危険とされる能力だ。最早、王家と国家にとってノード財団を滅ぼすことは熾烈な生存闘争を勝ち抜くための必須事項だったのだろう。そして、国家はノード財団の抹殺を決め、それが実行に移されたのが、レグノード家とミロノード家の食事会が開催された夜だった。セア=レグノードといったか、あの亡霊もおそらくその食事会にいたことだろう。くく、まったく何の因果だろうね。君とノードの亡霊は運命の赤い糸ならぬ悲劇の黒い糸でつながっているとしか思えないよ」


 胸が急に締め付けられた。セアの名前を耳にしただけで、窒息死してしまいそうなほどに胸が苦しくなる。死んでしまいたくなる。


「もういいわ、やめて、聞きたくない」


 キルネスの話は真実なのだろう。根拠はないけど、そんな気がする。優しいセアを残酷無慈悲な復讐者に変えてしまうほどの事件は一体何だったのか、これではっきりした。セアはその事件の日に、愛する家族を含めた大切なもの全てを失ったのだ。セアの年齢は知らないけど、見た目からして多分あたしと同じくらいの歳だと推測できる。もしそうなら、セアは十代前半くらいの歳で国家によって家族を殺されたことになる。セアが国家を恨む理由も理解できるなんて言ったら怒られるかもしれないけど、キルネスに話を聞かされた今になって本当のセアの気持ちを垣間見ることができた気がする。


「駄目だ。言っただろう。これは上からの命令なのだよ。それに、君はあの亡霊に対して自分がどれだけのことをしたか、まだ全体の半分程度しか知らないのだ。君には知る義務があると思うのだがね」


 なんて気持ち悪い嫌な奴だ。あたしはキルネスに対して率直にそう思った。

 あたしがセアに罪悪感を抱いて苦しんでいることを知っていながら、もっとあたしを追い詰めるために話を聞かせようとするなんて。先ほどの事件の真相にしても、これでは何が正しくて何が間違っているのか分からなくなってくる。 

 キルネスは再び話し始めた。

 どちらにせよ抵抗する術を持たないあたしは聞き続けるしかなかった。


「食事会の夜、警邏第一番隊によるノード財団の殲滅が始まり、約一日かけてノードの人間のほとんどがこの世から姿を消すことになるわけだが、ここで、一つ不審な点があげられる。君も感じなかったかい?何故、王家に次ぐ力を持っていたノード財団がいとも簡単に滅びてしまったのか。くくく、ここにこそ君の記憶の謎が隠されているのだよ。といっても、ノード財団が容易く滅びてしまった原因は一つではない。それには、奇襲をかけられ不意をつかれたことや、警邏に子供を数名人質に捕られたことなどが原因としてあげられる。だが、そんなのは所詮些細なものだ。当時の食事会の現場には当然、青の光眼使いも多数いたらしい。そんな状況で、警邏がノードの人間を圧倒できた大きな理由が二つある。一つは、第零番隊の三大特殊部隊の一つ『渡獲』の介入だ。王家からノード殲滅の命を受けた警邏は第一番隊だけではなかったのだよ。暗殺部隊『渡獲』。人殺しのプロフェッショナル達の参戦により、戦力差が大きく開いてしまった。だが、これももう一つの理由に比べれば小さいものだ。そこにはノードを圧倒的不利な状況まで追い詰めた何かがあったのだ。……そう、それこそが、ユーリ、君の存在だ」


 口の中が干からびたかのように舌が動かず、何も言い返すことができない。それ以前にキルネスの言っていることの意味がわからない。分かりたくない。

 何で、そこであたしの名前がでてくるの?

 まるで、まるであたしが当時、その現場に居合わせたかのようだ。

 介入した第零番隊の警邏が『渡獲』でなく、『密罰』だったらそこにあたしがいたとしても不思議ではない。でも、『密罰』は隠密部隊で実際の戦闘には向かない部隊だ。キルネスも先程、はっきりとその場にいたのは『渡獲』だと告げていた。じゃあ、どうしてあたしの存在がノードを滅ぼす原因になるのか。


「そんな顔をしてもらっては困るね。くくく、君が苦しむことになるのはまだまだこれからだ。では、話の続きをしようか。実は、警邏が食事会に乱入して、会場が激しい戦場に変わった当初、まだノード側はそこまで劣勢ではなかったようでね、戦況は五分五分だったらしい。青の光眼使い達と警邏の精鋭が繰り広げた殺し合いは血肉飛び交う壮絶な戦いになったと今でも警邏の中で語り継がれているくらいだ。その殺し合いに変化が訪れたのは、とある少女が両親の死に様を目撃してしまった瞬間だった。まだ光眼を開眼する前だったその少女は凄惨な光景を目にすることによって無意識のうちに、自らの潜在能力を強制的に覚醒させてしまった。通常ではあり得ない方法で覚醒した少女の光眼は、暴発して、その場にいた光眼使い全員の光眼を使用不可能な状態へと封印してしまったのだ」


「ちょっと待って。光眼の能力を封印する光眼なんて聞いたことがないわ」


 全九種実在するという光眼の能力すべてを把握しているわけではないけど、どんな能力があるのか噂くらいは聞いたことがある。完全記憶能力や予知能力など色んな能力があったはずだ。でも、キルネスの言っていたような能力なんて一度も聞いたことが無かった。


「それは当たり前だろう。青の光眼使いを多く輩出してきたノードの子供が、どうしてこんなレアな光眼を宿すことができたのか真実は未だ誰にも分かっていない。なにせ、少女の開眼した瞳の色は、世間的には実在しないとされている第十種目の光眼、虹の光眼なのだからね」


「虹…そんな光眼は全部で九種のはずじゃ……」


「言っただろう。世間的には実在しないとされていると。虹の光眼の能力。それは『封印』だ。すべての光眼の中で最も危険とされている能力だよ。その虹色の輝きを目にした光眼使いは自らの能力を半永久的に封印されていまい、ただの人間になってしまうというのだからね。しかもその時、少女の光眼は暴走していたせいで、無差別にその能力を行使してしまった。そしてこれがノードの滅びる決定的な原因となった。光眼の力を失ったのはノード側も警邏側も同じだったが、基礎戦闘力は警邏が圧倒的に優勢だったため、瞬く間にノードの人間は殺害されてしまった。奇跡的に逃げ延びた数名の子供を覗いて。このうちの一人がセア=レグノードだ。さて、いい加減気づいたのではないか?ユーリ。いや、ユーリ=ミロノード。私の言わんとしていることは、もう理解してくれたかな?」


 吐き気がした。キルネスの言葉の意味を解読したあたしは、頭の中が真っ白になって、気が狂ってしまいそうなほどに絶叫した。

 嘘だ。そんな、そんなことって……

 なんてことだ。あたしが、まさかノードの人間だったなんて。

 ユーリ=ミロノード。その名を告げられた時も体に電流が走るほど衝撃を受けた。でも、一番ショックだったのは、あたしがセアをセアの家族を―――

 あたしが、ノードを滅ぼした原因だと気づいてしまった。

 あたしが、セアを復讐者なんて孤独な破壊者に変えたんだ。

 あたしが、すべての争いと悲しみを作り出してしまった張本人だった。


「くくくくっ、ああ、いいね。いいよ、その絶望の底に落ちていくかのような表情。たまらないね。おっと、まだ話は終わっていないのだった。うっかりしていたよ。まだ君が何故記憶喪失になっているのか話してなかったね。事件後、虹色の光眼を覚醒させた君は警邏第零番隊に引き取られ、実験体にさせられるはずだったのだが、ここでいくつかの不都合が生じた。光眼を暴発させた際、君が力を無制限に使いすぎてしまった反動で虹の光眼を使えなくなってしまっていたこと、そして、家族を殺されたショックで重度の記憶喪失に陥っていたことだ。第零番隊の連中もさぞかし君の処分に困ったことだろう。君は光眼を封印してしまう驚異的な存在なのだからね。いっそのこと、殺してしまおうという意見もあったようだ。だが、それは実現されなかった。ある日、誰かの手によって君が攫われたからだよ。警邏の誰にも勘付かれることなく君を攫った誰かは、君を『密罰』として隠密任務に就かせて、警邏から完全に隠してしまったのだ。『密罰』は隠密部隊という特性上、警邏自身にも隊員が今どこで任務に就いているか不明で、これといって居場所を効率的に探す手段もなかった。この広いリグレジアから誰かの手によって隠されている少女を見つけることなど不可能に等しい。そうして『青き悪魔の反乱』の生き残りであり、ノード殲滅の切り札となった君は、闇に姿をくらませてしまったのだ」


「そんな、いったい誰があたしを……」


「まあ、君を助け出した犯人についてはまだ調べがついていないが、おそらくあの酒場の店主か、その関係者の誰かだろう。もっとも、こうして君を捕えることができた今、犯人が誰かなんてどうでもいいことだがね。くくっく、ひひひひひ、そう、この私が国家がずっつ探し続けていた虹の光眼使いを発見したんだ。これでエリア1への配属も夢ではないぞ、くあっはははははははは」


 キルネスは喜悦の声をあげて引き裂いたような笑みを浮かべていた。

 キルネスを見上げるのをやめ、冷たい地面に頬を付ける。


 あたし最悪だ。最高なくらいに最低だ。

 偽物とはいえ、自分の家族を殺した警邏の仲間になってしまった。

 覚えていないけど多分、あたしの大切な人達を、あたしが光眼を暴走させたせいで、殺してしまった。

 そしてなにより、セアに酷いことをしてしまった。

 セアの家族を奪っただけではない。勝手に記憶を失ってのうのうと暮らしていたあたしは、セアを騙して家族の敵である警邏に差し出してしまったのだ。

 こんなことって、こんな残酷な真実が他にあるだろうか。

 もう、心が折れて、泣き叫ぶための声も涙もでなくて、あたしは心臓が止まりそうなくらいに苦しかった。もし手を縛られてなかったら、自分の首を絞めて死んでしまっていたかもしれない。

 あたしはセアを悲しませて、弄んで、裏切ったのだ。

 罰があたったのだろう。警邏に掴まるのも無理はない。

 もう何も考えられなかった。何もかもが嫌になった。

 生きた屍とは今のあたしみたいな人間のことを言うのだろう。


 その後も、キルネスはあたしに向かって何かを喋り続けているようだったが、全然耳に入ってこなかった。もう限界だった。

あたしの世界はただ絶望の一色に塗り潰されて、この世に存在する希望と名の付くすべてを否定していたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ