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復讐讃歌 〜青き瞳が世界を塗り替えるまで〜  作者: 抹茶堂
第2章「仮面を剥がされし者達」
19/25

囚われの2人

更新が遅くなりました(>_<)

今回は、前半がセア、後半がユーリ視点になります。

どうぞお楽しみ下さい。

 目が覚めた気分だった。

 長い悪夢から解放されて、眩しい現実に適応しきれていない感覚だ。

 体中が痛む。さっき警邏の連中に拷問されたからだろう。殴る蹴るは序の口。徐々に警邏のサディストな心は膨らみ、終いには火で炙られたり鈍器で殴打されたりした。左手にいたっては痛覚が麻痺して感覚すら残っていない。


俺は死刑の中でも極刑の国外追放『メシュラキスモス』によって処刑されるらしい。冷たい鋼鉄の拘束具で手足と目を封じられているため、逃走も不可能。刑の執行日は明日だ。俺は明日、死を迎える。


 テロットが『直感』した喪失の予感とは、俺がユーリを失うのではなく、命を失うという意味だったのだ。選択肢も、ユーリを助けるという選択が間違っていて、ユーリを見捨てるという選択が正しかったのだろう。

 ユーリの裏切りを知った時、不思議と怒りがこみ上げることはなかった。清々しささえ感じたくらいだ。驚かなかったと言えば嘘になる。傷つかなかったわけがない。でも、なんでだろう。ユーリを憎いとは微塵も思わなかった。


 復讐は果たせなかった。一族の無念を晴らすため、俺はずっと戦ってきた。復讐を誓ったのは五年間だが、絶対的な権力を誇る国家に対して、当時まだ十三歳だった俺にできることなど皆無に等しい。だから、俺は足掻いた。サーカスで身に着けた体技を応用して、戦闘に特化した俺独自の体術を習得した。地下街を彷徨い、武器を売ってくれる商人を探した。最初は俺が餓鬼だったせいか、不良品を買わされたり、法外な価格で売りつけられたりもして、散々な目にあった。当時はまだ光眼使いとしても未熟だったから、光眼を自在にコントロールできるようになるまで鍛錬を重ねた。警邏を圧倒できるようになる実力をつけるまでの約二年間は地獄の日々だった。何度死を覚悟したかわからない。泥と血が混ざりあったあの味は今もなお舌に残っていて消えてくれない。


そんな俺の復讐人生ももうすぐ終わる。

 たった一人の少女を信じてしまったばかりに、俺は処刑される。

 少し前の俺なら怒りに悶え苦しみ、発狂していたかもしれない。

 簡単に諦められるほど、俺にとってこの復讐は軽くも小さくもない。

 じゃあ、頭が異常なほどに冴えているのは何故だろう。

 まだ国家への復讐心は消えてないが、今は胸の奥底に静かに沈んでしまっている。驚くほど冷静な自分がここにいる。

死ぬ直前になって、復讐者の極意を体現したというわけか。

 三年前、警邏に抗える実力をつけた俺は国家に対して破壊活動を開始した。その矢先のことだ。俺と似たような過去を持つ一人の復讐者に出会った。その男は俺が復讐者だと知ると、鷹のよう鋭く鮮烈な瞳で睨みながら、たった一言だけ俺に言葉を残し、去っていった。その男曰く―――

 復讐者が糧とするものと、復讐者に求められるものは違う。

前者は、無限の復讐心だ。尽きることのない燃えたぎる復讐心。

後者は、不動の精神力。常に冷静に動じずに復讐を成し遂げる強靭な精神力。

熱を持つ前者と冷めた後者は一見相反するようにも思える。そのため、両者を同時に兼ね備えることは容易でない。だが逆に、無限の復讐心と不動の精神力の両方をもつことができたなら、その復讐者は無敵であろう。その復讐者こそ、真の復讐者と呼ぶにふさわしく、復讐の完遂も可能だといえよう―――


 俺は独房で独り呟く。

真の復讐者、か。もう俺には縁のない話だったが、復讐が打ち砕かれたことで復讐者として完成するなんて皮肉な話だ。

まあいい。復讐が果たせないことは無念だが、俺は自分の選んだ選択肢に後悔はない。それは間違っていたのかもしれない。とるべきではなかったのかもしれない。でも、それでも俺はユーリを助けに行った俺自身を誇ることができる。拷問で全身を傷だらけにされ、独房で拘束されてはいたが、俺は笑えてしまうほどに穏やかで爽快な気分だった。


 だから、そいつが独房を訪れた時も、俺は平然としていられた。

眠りかけていたせいか、気が付いた時にはそいつは目の前にいた。やけに馴れ馴れしくて、変な奴だった。性別はわからない。警邏の関係者であることに違いないだろうが、今まで会ってきた警邏の連中とは雰囲気が異なり、一種の狂気のようなものを感じた。

そいつは、まず俺が拷問で受けた傷を見るなり尋常でないほどに怒りを露わにした。次に、俺がユーリに対して憎悪を抱いていると勝手に決めつけて、ユーリを侮辱し始めた。俺が目下に否定すると、そいつはいきなり笑い始めた。   

そして、俺に一言―――


「また会おうね」


と告げると瞬間移動でもしたかのように一瞬でその場から気配を消した。

また会おう、なんて死刑囚に言うセリフではない。単なる嫌がらせだろう。

再び意識がまどろみの底へと沈んでいく。

死刑が執行される翌日の朝まで、俺は静かに寝ていることにした。






「ちょっと、何するのよ! 何の権利があってこんなことするの?」


手足の縄はきつく縛ってあってとても解けそうにない。


「権利だと?それは私のセリフだ。得体の知れない娘が何の権利があって第零番隊の隊員を名乗っているのか教えて欲しいものだね」


キルネスは地面に横たわるあたしを、椅子の上で優雅に足を組みながら見下ろしていた。


昨日の昼、第四番隊隊長キルネスは、部下を引き連れて、突然酒場『ハチミツ』を訪れた。用件はあたしの逮捕だった。ヴァンゼは抵抗を試みるも警邏に取り押さえられ、無力なあたしはすぐに捕まった。第四番隊本部に連行され、その日は本部にある牢屋で一晩を過ごした。日が変わって今日になり、キルネスから話があるということであたしは司令室に呼び出されていた。


「おかしなこと言うのね。あたしは第零番隊の隠密部隊『密罰』の一員よ。信じられないのなら、上に掛け合って確かめてみたら?」


身をよじり、下からキルネスを睨みつける。


「確かに、第零番隊には三大特殊部隊がある。『密罰』もそのうちの一つで間違いない。だがね、その名簿リストに君の名前は載っていないのだよ、ユーリ」


「はあ?馬鹿なこと言わないで。もう何年間、『密罰』として任務についてきたと思っているの?何を企んでいるのかしらないけど、あたしに手を出したら上から睨まれるのはあなたの方よ、キルネス。第零番隊は全隊の頂点に立つ組織。きっと後悔することになるわ」


 あたしがそう言うと、キルネスは何がおかしいのか、いきなり声をあげて笑い始めた。その笑い声は醜く、聞く者すべてに嫌悪感を抱かせる声だ。


「くくく、では教えてもらおうか。君はいつから正式に『密罰』として配属され、どのくらい任務をこなしてきたのか。もっとも、昔の記憶の無い君には無理な話だろうがね」


「……何が言いたいの?」


「おやおや、答えないのかい?ふん、まあいいさ。私も忙しい身なのでね、手短に話させてもらうよ。そうだな、まずは君が失っている記憶については話そうか」


 あたしの記憶について、何故キルネスが知っている?

 それを聞いた時、あたしは驚かずにはいられなかった。

 そんなことあり得るわけがない。あたしの記憶はあたしだけのものだ。


「くっだらない。あなたの妄言なんて聞きたくないわ。早く解放しなさい」


「ユーリ。君のその自信がどこからくるのか、理解に苦しむね。まあ、とりあえず聞きたまえ。これは上からの命令でもあるのだからね。それこそ、君が本当に警邏の人間だというなら、素直に従うべきだ」


「…上ですって?」


 第四番隊隊長のキルネスより上の人間なんて、警邏にもごく僅かしかいないはず。

 キルネスは戸惑うあたしを無視して、卑しい笑みを浮かべながら喋りだした。

 その気の遠くなるほど長い話は、五年前のとある有名な事件の真相について語るところから始まった。

 


 青き悪魔の反乱。またの名称をノードの反逆。

 この事件を知らぬ者はリグレジアにはまずいない。

 六年前に起きたこの事件はリグレジア全土に大きな波紋を呼んだ、らしい。

 あたしには過去の記憶がない。だから『青き悪魔の反乱』の詳細は月に数回、地下街中に張り出され配られる常夜新聞に特集されていた記事を読んで知った。

 事件の首謀者はノード財団。

当時、王家にも匹敵する権力と巨万の富を有していたノード財団は、この事件によって完全崩壊し、リグレジアから抹消された。

あまりにも有名な事件なので、当事者ではないあたしにとってもその内容は鮮明に記憶に焼き付いていた。情報源の常夜新聞の特集では、『青き悪魔の反乱』の真相に迫る!、などと派手に銘打たれて事件の詳細が掲載されていた。



〈特集 『青き悪魔の反乱』の真相に迫る!〉

「かつて王家にも劣らない栄華を極めたノード財団だったが、数年前、とある事実が発覚したことをきっかけに一気に没落することとなった。その事実とは、ノード財団のレグノード家とミロノード家が王家を乗っ取ろうと陰謀を企んでいるというものだった。詳しく調査を進めると、その陰謀にはノード財団全体が関与していることが明らかになった。これを知った国王は、王家を守護する第一番隊の精鋭に、「陰謀の中心人物であるレグノード家とミロノード家の人間を全員抹殺すること、ノード財団を解散させ二度と大きな力を持てぬよう再起不能な状態になるまで破壊すること」を命じた。

任務遂行はレグノード家とミロノード家が秘密の会談を設けるという日に決定。ノードの家系の人間には遺伝的に青眼の能力者が多数いるため、第一番隊の精鋭たちは当初、この任務の遂行には多くの犠牲と時間を伴うものと考えていた。だが、実際に任務が開始されると国王の命令はたったの一日で、しかも少ない犠牲で達成されてしまったのであった。

後日、抹殺の対象外だった他家のノードの人間は国家に対して反乱を起こすも、既に警邏隊によって財力も権力も何もかもが壊滅状態に晒されており、すぐに武力で鎮圧された。

この事件に関しては我々広報機関にも少ない情報しか伝わってきていないため、詳しく記述できないのが無念である。これ以上知りすぎてしまうとノード財団の陰謀の核心部分に触れてしまう恐れがあるため、国家が情報を遮断しているのであろう。

ここは要塞国家であると同時に監視国家であり警邏国家である。一度警邏に目を付けられたら逃げ道など存在せず、ただちに牢獄かあの世行きである。長生きをしたいのであれば、質素に静かに隠し事をせず暮らしていくことである。我々も命が惜しい。この一件について記述するのはこのくらいにしておこう。」

                          〈常夜新聞社〉


 これが『青き悪魔の反乱』の真相のはずだ。

 はずだったのだ。でも、キルネスの口から紡がれる悲劇は、常夜新聞の記事とは大きく異なるものだった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

次の更新ですが、今日明日中にできればと思います。

また、感想や評価を頂けたら嬉しいです。


次回、物語の真相に近づきます。

どうぞお楽しみに!

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