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復讐讃歌 〜青き瞳が世界を塗り替えるまで〜  作者: 抹茶堂
第1章「本物の仮面者」
12/25

蠢く悪意

今回から時々、物語の語り手がセア以外の人物になることがあります。

ただ基本は主人公のセア視点になります。変わるのはあくまで時々、ほとんどないと思います。

 要塞国家リグレジアには大規模な地下街があることは誰もが知っている周知の事実だが、その更に下に隠されている闇の中の闇の巣窟───通称・地獄街の存在を知る者は少ない。

実際、俺がまだ第六番隊隊長として権力を振りかざしていた頃も、噂として耳にしたことはあったが決して信じてなどいなかった。それにしても、まさかこの俺がこんなクソッタレな場所で暮らす羽目になるとはな、ああ、思い出すたびに腸が煮えくり返りそうになる。あの亡霊野郎が。あの忌々しい瞳さえなければ……結局は力だということか、畜生め。


警邏第六番隊隊長としてエリア6の支配権を握っていた俺は、一年前に起こった『ノードの亡霊事件』の全責任を取らされた。俺は地位、名誉、財産の全てを尽く剥奪され、挙句の果てには罰則として両目を切断されて、二度と光を拝めない体になった。露頭を彷徨い、地下街にさえ居場所のなかった俺が最終的に行き着いたのがここ、地獄街だ。

俺は頭の出来の悪い連中を束ねて犯罪集団『ハイエナ』を結成した。

目が見えないせいで碌に身動きが取れないが、指示を出すことくらいはできる。まずは地獄街のクソ共を支配下におさめて、いずれ俺をこんな目に合わせたあの亡霊野郎をぶち殺すことが最終目標だった。


「うおい!酒が足りねえぞ!殺されたくなかったらとっとと持ってこいや!」


 部下を怒鳴り散らすのは気分がいいものだ。こればかりは警邏にいた頃も『ハイエナ』のボスとしてゴミ共を率いている今も変わらない。


「んで、なんつったっけか?仲間殺られて尻尾ふって逃げ帰った負け犬が。もういっぺん吠えてみるか、ええ?」


 正面で土下座してるであろうそいつに俺は問いただす。唾を飛ばしてやりてえとこだが、今の俺にはそんな繊細なことできねえ。ああ、虫唾が走る。ノードの生き残りめ、ぶっ殺してやりてえ。

 俺がイラついていると、前から聞き取りづらい喋り声が聞こえてきた。


「あ、あ、あの、お、お頭、す、すいやせんした!野郎、卑怯にも拳銃を持っていやがって、あっという間にみ、みんな殺されちまいまして、そ、その、自分も気絶させられ―――」


「もういい!頭の悪い馬鹿の話を聞くことほどつまんねえもんはねえ。こいつは蛇の穴に捨てちまえ。詳しい話はデオノス、てめえがしろ」


 俺は側近のデオノスに指図する。デオノスはチャラチャラしてて喋り方も軽佻な阿呆だが、他の馬鹿よりましだ。

 どうやら土下座していた馬鹿は例の処刑場に連行されたようだ。耳障りな悲鳴が聞こえる。ふん、馬鹿は死ねばいい。


「了解しましたぜ、お頭。んまあ、ちょー簡単に説明しちまうとですねえ、あの馬鹿ども四人が女を犯そうとしてたら、黒衣の男が急に現れて三人を即射殺しちまい、今引きずられていった馬鹿も蹴飛ばされて気絶しちまったと、そーゆーことっぽいですぜえ。んまあ、生き残った馬鹿ももうすぐであの世行きなわけですがねえ。

んで、その黒衣の男の特徴をちょいっと調べさせたんすけどねー、どうも現場を目撃してたちょーレアな男がいたっぽくてですねえ、今連れてきてるんで、俺的にはそいつから聞いた方がいいんじゃないかって思っちゃったりしちまってるわけなんですよー」


 デオノスの気味の悪い声を耳にするのは癪だが、これでも要点をまとめるのは上手い方だ。この地獄街にいるクソ共の中ではまだましな奴といえるだろう。

 俺は部下の一人が差し出した酒瓶を奪い取って、のどに流し込む。ああ、不味い酒だ。警邏にいた頃飲んでた高級酒が飲みてえな。今度盗みにいかせるか。


「お頭、どうしますかー」


「ああ、いいだろう。ここに連れてこい。黒衣の男ってだけじゃ、情報が少なすぎるからな。俺らハイエナの恐ろしさをその黒衣の野郎に思い知らせてやるためにも、もっと詳しい情報がいる」


 腕で口元についた酒を拭いながら、俺はその情報提供者の入室を許可した。

 ドアの軋む音がする。ああ?音からして、てっきり部屋に入ったものかと思ったが気配がねえな。どういうことだ。


 両目が見えなくなってから、俺は生き物の気配を敏感に察知できるようになった。勿論、初めからできたわけではなく、生き物を気配だけで感じ取りその動きを読み取る技術を身につけるまで、並大抵でない苦労を重ねた。危うく死にそうになったこともあったくらいだ。これは盲目の俺が地獄街で頭としてやっていくためにも欠かせない能力だった。ここでは弱い奴は例えどんなに権力を持っていても寝首をかかれる危険がある。今も部屋のどこにデオノスがいて、他の部下共が立っているか、俺には手に取るように分かっていた。だが―――


「お頭、連れてきましたぜえ。こいつが黒衣の野郎を見たってレアな男ですぜ」


 もう部屋にいるらしいそいつの気配だけは全く感じ取ることができなかった。

 おいおい、まさかそこにもういるってわけじゃあるまいな。


「はじめまして、僕が君たちの探している黒衣の男を目撃したレアな人間さ」


 その中性的な高い声は、そいつが部屋に存在しているという証明としては充分すぎるほどによく響く声だった。

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