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 チカは自前の盾と杖、ブルルは素手だった。

 そしてブルルはこれまでの獣人と同じくスピードタイプかと思われたが、どっしりと構えていた。

 これはおそらく相手の動きに合わせた合気道的な武術か、相手を掴んでからの柔道的な武術のどちらかだろう。

 ただ、両手の指が開かれているところを見るに、柔道的な掴む武術なのではないかと思われる。


 今までの試合展開とは異なり、チカが動き回り、盾をぶつける、杖で殴る、離れるの繰り返しでブルルを倒した。

 強力な魔法を使えないらしい獣人との相性は相当良いのがわかる。

 獣人相手なら勇者とステータスが変わりないだろうし。

 それと間合いがお互いに近いというのもチカに有利となっていた。

 だが、ブルルの方もなんとか掴もうとしていた。

 それに決め技もやはりあったようで掴んだと誤認したときは髪を逆立てて頭突きのような動作を見せていた。


 なんとなくそんな気はしていたが、やはりハリネズミの獣人だったか。

 なぜだかわからないけどウィオラのときもブルルのときも髪に違和感を感じたんだよな。

 これはこっちに来るまで好んで多く見てきた動物番組のおかげなのか、大学で学んだことのおかげなのか悩むところだ。

 でも大学の先生の域には達していない、あの人は飛んでいるトンボを素手で即捕まえることができたからな。

 曰く

「あのトンボの種類ならここに飛び込んでくると思いまして」

 だからな。

 片腕で飛んできたところをキャッチできるあの域に達したらモンスターの動きなんかも予測できると思うんだけどなぁ。

 俺も動物の動きやそれに対する物理的な働きなんかもその先生の元で学んだのだが、そんな超人にはなれなかった。

 でもまさか大学で学んだことがこっちで活かされるかもしれないなんて。

 本当に何が役に立つかわからないものだ。


 また何やら考え事をしてしまった。

 やはりチカはもうこちらに帰ってきていた。

「チカ、お疲れ様。やっぱりチカは強いね」

「ありがとうございましゅ、れしゅがゆらんれきない相手れした。相性が良かったらけのけっかれしゅ」

「確かにそうかもしれない。でも相性が良いからと油断せず、攻めたチカの力でもある。とりあえずおめでとう」

 そう言って頭を撫でながらリュミスたちを見つめる。

 ……あれ? 何やら彼女たちの瞳に炎が見える。

「にぃ! 強いのはチカだけじゃないんだよ!」

「兄様! 私たちの活躍もしっかりと見ていてくださいませ!」

 あ、あ〜、俺が、『チカはやっぱり強いね』なんて言ったから対抗心を燃やしたのか!?

 ま、まあ悪いことじゃないし、良いよね?


「ウィリデです、よろしくお願い致します」

「リュミスです、よろしくお願い致します」

「始め!」

 そうして副将戦が始まった。

 ウィリデの武器は両手に持つ二つの杖のようだった。

 ヒト、ということで魔法を警戒すべきだろうがまあリュミスにはそんなことわかっているだろう。

 リュミスも魔法が使えるのだが、相手の魔法を警戒し、距離を詰めて仕留めようとした。

 だが相手も護衛を生業とする者、近づかれた際の対処も出来ないと話にならない。

 二本の杖を逆手に持った剣のように扱い攻撃を弾いていく。

 そうして弾きながらも小声で何かを話しながら風魔法と思われるものを発動していく。

 おそらく詠唱をしていると思われる。

 俺たちと発動の形式が違うのだろうか?


 ウィリデも副将に選ばれるだけあって強い。

 見た目通りの年齢だとしたらどれほどの鍛錬をしたのか、生半可な鍛錬ではなかっただろう。

 しかし相手が悪かった。リュミスが相手なのだ、鍛え上げられたと思われる攻撃でも通用しない。

 風爪(ウィンドクロー)で杖を削られ、遂には折れた。

 魔法はことごとく風弾(ウインドバレット)などに弾かれ、詰め寄られ、ソラがギブアップを宣言した。

 意外に思ったが彼女は防御力に少し不安があるのだろうと当たりをつけた。

 彼女だけ必殺技を使う様子が窺えなかったのも、本来の戦闘スタイルによるものではないかと思う。

 きっとウィリデは魔法を得意とし、大火力で放つ固定砲台役なのではないだろうか。そのため、護身術や護衛術は修めていながらも、ステータスの防御力には不安があるのではないか。いや、不安があるからそんな鍛え方をしたのか?

 とりあえずそんな風に戦闘を見ていて感じた。

 俺がそう感じただけだが、もしあっていたとしたら彼女の真価は集団戦で発揮されるということか。


 リュミスがこちらに帰ってきた。

「わかってるよ、たぶん彼女は純粋な魔法使い、壁があってこその人だよ」

 俺が何か言おうとしたのを見越したリュミスがそう言う。

 戦いながらもそういったところに気づいたようだ。流石強者龍、慢心せずしてとは違い、油断なくその持てる力を使い勝利してきた。

「やっぱりそうか、それにしても本当に安定感が増して心強いよ。リュミス勝利おめでとう」

「にぃ……これからも頑張るね!」

 ……なにか本当に言いたいことを隠したのかな? ここでは言いにくいことなのだろう、後で聞こう。


「ユーさん、少しよろしいですかな?」

 大将戦を前にツナ伯爵からお呼びがかかった。

  話をまとめると、現在3勝1敗で模擬戦での勝利は確定したのだが、このまま続けたいということだった。

 マナー対決が1勝2敗なので合計で4勝3敗、ミオが勝てば俺たちの勝ち、負ければ俺とソラを大将とした5対5の集団戦で決着をつけたいそうだ。

 正直、HP以外俺はソラに勝てていないと思う、だからミオに託した。

 ステータスでリュミスやチカに負けてしまったかもしれない、だが俺は一番一緒にいて辛いときを支えてくれたミオに一番の信頼を寄せている。

 他のみんなを信頼していないわけではない、だが何かあればミオがなんとかしてくれるという、漫画の主人公に寄せる信頼のようなものを俺はミオに抱いている。

 そしてその俺の信頼をミオなら、『スライムなので』とか、『忍びなので』なんて言って答えてくれるだろう。

 ミオを見ると力強く頷き返してくれた。

「はい、それで大丈夫です」

 そうツナ伯爵に返事をし、みんなで模擬戦を見守った。


「アウラです、よろしくお願い致します」

「ミオです、よろしくお願い致します」

「大将戦、始め!」

 大将戦が始まった。

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