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「止め!」

 俺のギブアップ宣言を受けてツナ伯爵が模擬戦を終わらせた。

「ライカ、よく頑張ったよ!」

「らいちゃん、次は勝てるように鍛えましょう」

 などなどライカはみんなに慰められながら、一部は違う気がするが、こちらに帰ってきた。

 そして俺の顔を見ると俯き、肩を震わせた。

 え? 俺の顔を見るまではまだ普通だったよな?

「……あ、あに、じゃ……すん……もう、しわけ、ありまぜん……」

 涙を必死に堪え、声が震えないように喋るライカ。そんなに負けるのが悔しかったんだな。ん? いやそれもあるけど俺の前で負けたことがもっと悔しかったのか……

 リンカと比べると大人っぽいライカだけど、そういうところもあったんだな。

 途端にすごく可愛く見えて抱きしめた。

「申し訳なくなんてないよ。ライカは負けちゃったけど一生懸命戦ってくれたよ。一生懸命だから悔しいよな、これからも一緒に頑張って強くなろう。今はいっぱい泣いていいから」

 そういって優しく背中を叩いてあげると強く抱きしめられた。

 そうして泣いたままコアラのように抱きついたライカをそのままに席に戻り、膝の上に乗せさせた。

 リンカには悪いけどライカと位置は交代で。


 そんなことをしていたらミミルさんにじっと見られていた。

 待たせているのはわかったが、少し気になることがあり、ちらりとソラを見るとウィオラと話していた。

「……タイミングが……あれでは……運任せに……」

 微かにしか聞こえてこないがどうやら切り札を切るタイミングのことで説教しているようだ。

 確かにあと少し遅ければウィオラの負けだったであろう。

 だが、ギリギリのタイミングに間に合ったとも言える。

 ここを褒めるか叱るかは人それぞれだろう。


 今度はクオンを見ると準備万端だった。

 こちらに顔を向けて俺からライカに視線を移す。

「妹の負けは姉が取り返すものです」

 と気合も十分だった。

 ミミルに目で合図を送った。

「ラーウです、よろしくお願い致します」

「クオンです、よろしくお願い致します」

「それでは始め!」

 そうして模擬戦が開始された。

 灰色の髪をもつラーウはどうやらネズミの獣人らしい。他の子より小さい身体ながらそのスピードは素早い。

 手に持つはショートランス? っぽい木でできた軽量の槍。

 ランスは本来馬上で使う物だが、彼女は自身のスピードを生かし、突き刺すのだろう。

 小さいから体重もなさそうだし、武器の選択が合っているのか悩ましいが器用に扱っている。

 だが

「ハァ! フッ! テヤ!」

 力、素早さ共にクオンが優っている!

 攻撃全てを籠手で弾き、身体に触れさせない。

 しかしラーウも戦い慣れているのかクオンの間合いには入らず、弾かれ体勢を崩されても反撃を受けないように立ち回っている。


 そういえばクオンが金属製に見える籠手を使っているのにソラは何も言わなかった。こちらの情報を持っていたのか? 予め調べていたと考えるのが自然か。

 そんなことを考えていると次第にラーウが焦りだした。

 それはそうだろう。素早さを生かし突きを繰り出しているラーウの方が体力の消耗が激しい。

 クオンの方は地力があるので焦らず相手の消耗を待てば良い。いや、違う! そうじゃない! 相手に全力を出させそれに打ち勝つつもりなのだ、ライカのために。

 泣いて抱きついたのが恥ずかしかったのか、または泣き顔を見られたくないのか、泣き止んでも抱きついたままのライカの頭を撫でる。

「クオンお姉ちゃんがライカの為に頑張っているよ」

 そして俺はクオンの方に視線を固定する。ライカの方を見ないようにする為に。


 そうしたところで模擬戦に動きがあった。

 ラーウが限界ギリギリ、壁の方まで下がった。

 一発逆転のための何かをする! みんながそれを理解し、真剣な表情になった。クオンも何があっても良いように構えを改めた。

 そしてラーウが一気に走る! クオンに向けて一直線、速い!

 そしてそこからの投擲!

 凄まじい速度からの投擲でショートランスは一瞬のうちにクオンに迫る!

 クオンは少し驚きながらも左右の籠手を段になるように構えた。

 ━━キン! キン!

 金属同士がぶつかったような音が二度してショートランスは上方に逸れた。

 うまく防げたがクオンはショートランスを上方に逸らした際にバランスを崩し、後方に仰け反ってしまう。

 そこにラーウが迫る!

 ラーウはショートランスを手放した瞬間、袖から二本の剥き身の、寸鉄のような形状の木片を取り出し、追撃に入っていたのだ!

 そして二本の寸鉄が牙の様にクオンに迫った。

 だがここでクオンは後方に仰け反ったのを利用し、ラーウに蹴りを放った。

 その蹴りは寸鉄を砕き、ラーウを捉えた!

「止め!」


 ……最後は圧倒される展開だった。この世界に来る前の俺なら何が何やらわからないままに決着がついたと感じたことだろう。

 それにしても今のは模擬戦だから可能だったがもしこれが本物の刃のついた寸鉄ならばクオンの足が切り裂かれ、相討ちもしくは負けていたかもしれない。

 まあその場合はクオンも蹴りを選ばなかった可能性もあり、たら、ればは言ってもしょうがないことなので今は純粋に勝ったことを喜ぼう。

 しかしまだ二人しか見ていないが、ソラの育てた子たちはちゃんと流れを変えるための必殺技を持っている。これは相当な教育なのではないだろうか?

 必殺技、これがあるとないとではこんなに違うのか。

 本当に参考になった。

 そして参考になったから思う。調子に乗った次期当主を懲らしめる? そんな必要があるのだろうか? これは何か別のことに利用されている気がしてならない。


 そんなことを考えていたらクオンが戻ってきていた。

 なんだか褒めて欲しそうにこっちを見つめていた。

「良い戦いだったよ、流石俺のメイド! そしてお姉ちゃんだ。頑張ったな」

「ご主人様と妹の為なら一生懸命頑張ります!」

 クオンはそんな可愛いことを言って満面の笑みを浮かべた。

 ━━ドキ! 健気で可愛いクオンに少し心ときめいた。危ない! これでクオンが年齢通りの見た目なら落ちていたかもしれない。

 いや別に落ちても構わないのか、合法ロリだし。まあそれは心の問題だし考えてもしょうがないか。


 そうしているうちに次の試合の準備ができていた。

 ちなみにクオンは顔を隠しているライカにちょっかいをかけて無視されている。頑張ったのは認めるけどお姉ちゃん、今はそっとしておいてあげて!


「ブルルです、よろしくお願い致します」

「チカれしゅ、よろしくお願い致しましゅ」

「始め!」

 三回戦、チカとブルルの模擬戦が始まった。

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