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「では妹様達は私について来てください」
ミミルがそう言ってみんなを連れて部屋を出て行った。
と思ったらミオはすぐに部屋に帰ってきて一礼した。
ミオの案内で食事の席につく。
今のうちに宮廷作法のスキルを手に入れよう、食事の作法で恥をかくことになるし、みんなにも恥をかかせてしまう。気をつけよう。
「ここでは現実通り僕がホストで地位の高い者、平民の君は一応僕より目下の貴族という設定で進んでいく。ちゃんと役を演じてくれよ?」
そんなことを言いつつも動きはとても優雅だ。さすが王子のお遊び役、ちゃんとした教育を受けたのだろう。
みんなに恥をかかさないようにと必死になっていたらなんとなく次にしなければならない行動がわかってきた。
『スキル【宮廷作法】を習得しました』
よし! ゲット! このスキルは作法に限り、必要な場面場面の知識や動きがわかる特殊なスキルみたいだ。
便利は便利だが、普通の貴族なんかは自国の作法だけ知っておけばいいので特に必須というものでもないのだろう。
このスキルを得てなんとなくわかってきたのだが、ミオの対応は俺に丁寧過ぎないか? ロールプレイをわかってる?
ミオが礼をして去っていくと次は見たことがない、ミオたちと変わらない年代と思われるヒト族の女の子が出てきた。
ソラが育てているメイド候補なのだろう。
ミオたちには劣るもののかなりの美形だ。
いや、これは親バカ? 兄バカ? でそう思うだけか?
よくわからなくなったが、それ程のレベルだということだ。
メイドとしてなのか澄ました表情なので美形という感じを受けるが、笑うと可愛い子なのだろう。
橙色の髪と瞳の女の子で、髪型は前髪パッツンのツインテールだった。
うん、俺が二次元で見たメイドに近いあざとさを感じる。
ソラの感性は時代を先取りし過ぎていないかね?
『鑑定』
名前 アウラ
種族 ヒト♀ Lv35
うん、文句無しに強いと思う。作法の方も問題なさそうだし、これは大変だぞ。
その子と入れ替わりでクオンが入ってきた。
緊張しているのがまるわかりだが、頑張ってくれている。この緊張だって俺に恥をかかせてはいけないという気持ちからきているのがなんとなくわかる。
そんなことを思っているとソラが食器を落とした。
素早く対応するクオンを見ながら、多分今のはわざとだろうなと感じた。
ハプニングは起こるものだが、わざとやった後に起こると恥ずかしい。
それを気にせずやったということは作法は完璧だという自信があるのだろうか?
こういうところが調子に乗っていると思われているのか?
いやでもこれ、調子に乗っているというより……
クオンの後に入ってきた子は灰色の髪と瞳を持つ、獣人の女の子だった。
この子も前髪パッツンのツインテールだ。
この子もさっきの子に負けず劣らずの美形だ。
その子の後にリュミス、すごく真剣な表情でお転婆な雰囲気が鳴りを潜めた彼女を見て、その美しさにちょっと背筋に寒気が走った。
なんというか人外の美しさというか、そういうものに囚われそうな怖さを感じたのだろう。
次に緑色の髪と瞳を持つ他と同じ髪型のヒト族の女の子、リオ、茶色の髪と瞳を持つ他と同じ髪型の獣人の女の子、チカ、紫色の髪と瞳を持つ前髪パッツンで三つ編みの獣人の女の子という順で登場した。
『鑑定』
名前 ラーウ
種族 獣人♀ Lv30
名前 ウィリデ
種族 ヒト♀ L33
名前 ブルル
種族 獣人♀ Lv29
名前 ウィオラ
種族 獣人♀ Lv28
順に鑑定していくとこういう結果になった。
みんな負けず劣らず容姿が良かった。
その上、鍛えられた作法に戦闘能力だ。
容姿に騙されたらすぐに殺されてしまうだろう、味方としたらそれは心強い存在だ。
これは需要がありますわ、王家も支援するわな。
意外だったのが獣人の女の子の方が多かったことだ。
「獣人が多いことが意外か、平民?」
「……はい」
「確かに差別もあるが、強い奴を使わない理由はないさ。奴隷として置いている貴族もいるのだから変にも思われない。ただ王宮などには獣人など置いておけないからヒト族もいるのさ」
なるほど。
「ふん、平民の癖に頭も回るじゃないか。妹たちにもちゃんと教育しているようだ。容姿も良い。なるほど、へぇー」
ちゃんとに力を込め、へぇーで、何やら面白そうに俺を見てくるソラ。
「なんですか?」
「いやなに、面白い教育だと思ってね」
なにを言っているのかわからないが、ニヤニヤと楽しそうだ。なんかムカつく。
「それでは結果発表をしますか」
俺たちの様子をずっと見ていたツナ伯爵が判定役だったようだ。
なにやら俺に向かって苦笑いしているのが……
「裏近衛メイド部隊の合格基準で判定して、クオンさん、アウラ、ウィリデが合格、他が不合格ということで一対二で宮廷作法対決はソラの勝ちとなります」
あっれぇ? ミオもリュミスも結構いい感じだと思ったんだけどな……
俺が不思議そうな表情をしていたのかツナ伯爵が苦笑いで理由を語ってくれた。
「えー、ミオさんとリュミスさんなんですが、ユーさんへの対応が、その……なんというか王族を迎えるような仰々しい態度で今回の設定に反するということで……不合格となりました」
……はぁ? いやいや、確かに丁寧に感じていたけど。
というかミオはまだわかる、まあヤンデレになる可能性があったくらいだから。でもリュミスまでとは思わなかった。
「え、えっと、兄様ごめんなさい」
「にぃ、ごめんね」
「にぃにまけちゃったよ〜」
「ユーしゃま申し訳ごじゃいましぇん」
口々に謝られてしまうが特に問題ない。
模擬戦で勝てば良いのだ。
「大丈夫! まだ模擬戦があるから頑張ろうね」
そういってみんなの頭を撫でる。
でもこれでさっきのソラのセリフの意味がわかったな。
どうやらソラは、俺が妹たちに自分を王様扱いするように教育したと思ったわけだ……
ちゃんとに力を入れたのは皮肉だったわけだ、その誤解だけは解きたい!!
また現れたミミルの案内で使用人用の食堂へ向かった。
とりあえずむしゃくしゃしたのでミオたちとも昼ご飯を食べ、お腹がパンパンになった。
食休みをしてミミルの案内で模擬戦の会場である修練場へと向かった。




