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朝練を終えて、朝ご飯を食べていると領主館から迎えの馬車が来た。
ご飯を食べ終わってから馬車に乗るとメイドさんがいた! いや、秘書とメイドさんがいた。
本物のメイドを見るのは初めてだったが、佇まいからして違うものなんだな。それにネコ耳メイドだ。
……そう、ネコ耳メイドなのだ!
『鑑定』
名前 ミミル
種族 獣人♀ Lv53
秘書や伯爵に比べるとレベルは低いが獣人特有の身体能力の高さもあり、十分に脅威となり得るだろう。
「初めまして、ユー様。今日一日ユー様御一行付きのメイドを務めさせていただきます、ミミルと申します。宜しくお願い申し上げます」
……語尾が、『ニャ』じゃないだと!? そういえばリンカとライカも違うじゃないか……いや、ライカはそもそもが最初から鳴き声が、『ガウ』だったしな。
完璧なネコ耳メイドだと思ったのに……。
「ユー様がツナ伯爵邸に滞在中は彼女が付き添いますので、何かありましたら彼女に申しつけください」
「初めまして、ミミルさん。こちらこそよろしくお願いします」
そうしてみんなで挨拶と自己紹介を交わし、雑談をしながら数十分、ツナ伯爵の領主館に到着した。
馬車から降りると執事とメイドたちの出迎えを受けた。
そこで渡された服に驚く。
執事服なのだ……これ、取り込まれそうになってない?
みんなはメイド服を渡されていた。
こんな服の着方はわからないので教えてもらいながら着替えるということでみんなと別れた。
ミオなどは心配そうにしていたがここではそこまで心配はないだろう。それに彼女たちなら俺がなんとか時間を稼いでいる間に助けに来てくれるという信頼もある。
俺のほうの執事服はスーツのような感じで特に難しいことはなかった。それでも老年の執事の人に驚かれたので一般人には縁遠いものなんだろうな。
冒険者が多いところで生活しているからかもしれないが、確かにあまりこういう服を着ている人を見ていなかったな。
みんなが着替えるのを待っていると妙な気配を感じた。
気づかれないように確認して見るとそこにはツナ伯爵の血縁だとわかる程度に似ている十代後半の青年がいた。
ただ、この青年、目が死んでいる……
それになにやらブツブツ呟いている様子。
今日の対戦相手だったら嫌だなぁ……
そんなことを考えているとミミルさんと同じメイド服に身を包んだみんなが現れた。
「に、兄様、どうでしょうか、似合ってますか?」
そう恥ずかしそうに聞いてくるミオ。
いつもは服を身体で作っているため、初めて服を着たことになるからなのか、戸惑っているのを感じる。
「ああ、とてもよく似合っているよ。可愛いよ、でも大丈夫?」
何がとは言えないが、確認だけはした。
ちゃんとそのことをミオは察してくれたようで
「少し違和感がありますが、問題ないと思います」
そうか、まあ今回だけは我慢してもらおう。
そんな話が終わると他のみんなが迫ってきた。
「にぃ、私は? 私も似合ってる?」
「にぃに、どお〜? どお〜?」
「ご主人様のメイドとして恥ずかしくない姿になれましたでしょうか?」
「あにサマぁ! あにサマぁ!」
「……あにじゃ……いかが、ですか……」
「ユーしゃま如何れしょうか?」
みんなのメイド姿を見る。
うん、俺がロリコンだったらやばかったな、たぶんなんか耐えられなかったな、何かに。
それぐらいみんなが可愛かった。
「……みんな、すごく可愛いよ! とてもよく似合っている!」
高そうなメイド服なのだが、みんなの容姿が良いこともあって負けていない。本当に似合っていた。
「ユー様も皆様もよくお似合いでございます。そちらの服はそのままお持ち帰りいただいて構わないとのことです。是非これからもお使いください」
たしかに高級品だろうし、明らかに魔法防御力もある特別な服だと感じる。
こんな良い物を貰ったら使いたくなるが、使うと噂が立ち、もしくはツナ伯爵家に流され、いつの間にか外堀が埋められていくのだろう。
でも使わずにみんなが傷付いたりしたら……そんな思考のループに陥ってしまった。
それも重要だけれども、リュミスを呼んでこっそり聞いてみた。
「ねぇ、あの男がなんて言ってるかわかる?」
聞いてみたら耳を澄ませ教えてくれた。
「えっとね、『あれが噂の人物か、兄をこてんぱんに打ち倒して欲しい……でも兄が負けたら平民に負ける兄に負ける僕かぁ……ククク、どっちがマシなのかな? ククク……』だって」
うわぁぁぁ……暗いし、怖いし、嫌なんだけど。
あれが兄に心を折られた弟か。無視しよう。
「では本日の予定ですが、この後ユー様には次期党首であられるソラ様とお食事をしていただきます。その際のメイドをユー様の妹様達とメイド候補生で交代に行い、その際の動きを見させていただきます。その後、妹様達のお食事の後に模擬戦を行います。この二つの結果から勝敗を判断いたします。ここまでで何か質問はございますか?」
「模擬戦は個人戦?」
「はい、個人戦で5名ずつの計5回戦とさせていただきます」
なるほど、ならある程度順番やメンバーを相手に合わせて考える必要があるな。
「それでは会場にご案内いたします」
そう言って一礼して歩き出したのでついていった。
少し歩くと大きな部屋に案内された。
部屋に入るとツナ伯爵とダークブラウンの髪に高身長のツナ伯爵似のイケメンがいた。
「こんにちはユーさん、本日はよろしくお願いします」
「こんにちはツナ伯爵。微力ながら協力させていただきます」
そう挨拶を交わしていると痺れを切らしたのか、イケメンが語り出した。
「パッパーン、そいつが僕の相手の平民だね? でも戦う意味はないんじゃないかな? 僕が勝つに決まっているし!」
……なんだこいつ? そう思ってツナ伯爵に目を向けると目を逸らされた。
俺が侮辱された? ことに腹を立てミオ達の殺気が膨れていく。
だが、そんなことは関係ないとさらに語り出した。実は大物?
「僕が次期当主のソラだ。平民である君と戦う気なんてないんだけど、パッパーンがどうしても戦えっていうから来たんだけど、君は?」
「ユーと申します、ソラ様」
「いい加減にしないか、ソラ! ユーさんには私が頼んできてもらっているのだよ。それにユーさんはあの噂の人物だ」
ツナ伯爵がそういうと一瞬ソラの目が光った、ような気がした。もしかしたら、もしかしたらだが。
「なんだよ、パッパーン。そういうことなら早く言ってくれよ! ユー、始めようか」
そうして俺とソラの対決が開始された。
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