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集団戦だと前衛が頼もしすぎるな。そのため、俺が無理に前衛に出ることもないので中衛で頑張っている。でもここで戦ってばかりいたら前衛に立つ勇気がなくなるな、気をつけよう。
八人で鬼をフルボッコにしつつ進んでいく。
どうしても魔法は鬼の表皮に阻まれ、効きが悪いので使うメンバーはよく狙わなければならない。その結果、魔法技能というのか命中精度がよくなっていった。
誰かが傷つけた場所や口内、そういった箇所を狙うのだ。鬼にとってはたまったものではないだろう。
そうしてしばらく鬼狩りをしていたが、伯爵様で思い出した。渡辺綱が本当に鬼と戦っていたらドーピングもなしで戦えたって本当にすごいよな。
昔の武士は日がな一日己を鍛え上げていて、筋肉の量とかも今とは比べものにならなかったというのを聞いたことがある。
今俺が戦っている鬼程強くなかったかも、なんて思ったが茨城童子は鬼の副首領、そんなことはあり得ないだろう。とすると、普通の鬼ですら転移直後の30倍は能力値が上がった俺で倒せる程度なのだから渡辺綱、恐ろしいな。髭切、もしくは鬼切を持ち鬼の副首領と戦えるだけの戦闘能力を持ったものがいた日本……。
その時代の日本、異世界より余程怖いわ!
さらにはその上司、源頼光がいて天下五剣の一つ童子切安綱を持っていて、しかもこの人土蜘蛛も退治しているんだよな。
さらにさらに童話で有名な金太郎まで渡辺綱の同僚にいるんだ。あと二人を足して頼光四天王、最近の四天王はヤラレ役だけどこの人たちは違うから。単身で大蛇を斬ったり、熊にまたがったりしている剛の人たちだから。
そんな人たちと名刀があった時代……日本怖すぎるだろ!
鬼と戦えるようになって理解できた境地、今になってその辺りの話を読みたくなってきた。今なら感情移入してより深く読めるのに。
そんな昔の日本に想いを馳せつつ探索を続けたが、鬼の抵抗になかなか進まない。
–––––今まで鬼が好戦的なだけだと思っていたが、まさかこんな勢いで襲ってくるのは鬼の頭領を倒した侍の血を憎んで……なんてことはないだろうな。
まあ本当に侍の血を継いでいるんだけどな、母方からだけど。
ちなみに竹刀の振り方で農民型か侍型かわかるんだが、俺は農民型だった。親父の農民の血は濃かったようだ、足も平たく農民型だったし、そりゃあ竹刀の振り方もクワを振るような農民型になってしまうわ。
いや、いかんな、中衛だと余計なことを考えてしまう。これだとそのうちミスが出る、気をつけないと。
そうして心を入れ替えたが、鬼の抵抗激しく、階段は見つからなかった。
探索を終えて、落武者をバラし帰った。
久しぶりと言うほどでもないが、ギルドに行き討伐金と消費しきれないドロップアイテムを換金した。
金貨54枚銀貨6枚銅貨16枚か、収入が跳ね上がったな。
それにしても今更だがどうしてダンジョンでモンスターを倒すだけでお金がもらえるのか、気になってきたから聞いてみるか。
最初は無視して違う場所に並んだからジト目を向けてくるミーアのところに向かった。
「……ユーさん依頼を受けてくださりありがとうございます」
無視したけどそんな不機嫌にならなくても。
まあいいや聞きたいことを聞こう。
「え!? Cランク冒険者ですよね!? 今更そんなことを?」
やっぱり今更な質問だったんだ……。
「まあいいです、ダンジョンの魔物は増えすぎると強大な存在を生み出すことがあります。それを防ぐためというのが理由の一つです。あとはドロップアイテムを手に入れてもらうためなども理由として挙げられます」
強大な存在……か。
「強大な存在って? あと増えすぎるとモンスターが街に出てくるのかと思ってた」
「はい、そのようなこともあるようですが、人工的に作られたと思われる妖宮ではそのようなことはありません。天然のダンジョンでしたらあり得ます。そして強大な存在についてですが、その最たるものは魔王です」
クオンの反応が心配なので前に連れてきて後ろから抱きしめた。
「ちょっと、何いちゃいちゃしているんですか! 羨ましい! ここ重要なんですよ! ……もういいです、魔王は一度に7柱までしか地上に現れないとされています。そんな魔王ですが昔、夢魔系の魔物しか出なかったダンジョンを放置していた結果、色欲の魔王が現れたことがあるそうです。魔物から魔王となった者は、魔族から魔王となった者よりは劣ると言われていますが強大な存在には変わりありません。それに魔物から魔王となった者の方が人に対してより好戦的です。正確な記録などは残っていませんがその色欲の魔王が現れた時は多大な被害がもたらされたようです」
なるほどその予防の為、冒険者にダンジョンで狩りをさせるのか。
「はい、その通りです。稀に魔王には至らないまでも準魔王級の力を持つ魔物が出ることもあります。そのような魔物は討伐できなければ魔王が配下とする例も多く、人類の為にもダンジョンの魔物は倒さなくてはならないのです」
準魔王級、おそらく進化した魔物だろうな。
そのうちミオたちも準魔王級、魔王級になってくれるのだろうか? なってくれたら勇者も倒せるだろう、いや眷族みんながそんな強さなら勇者も泣きながら帰るレベルだな。
新たな事実が聞けて有意義な時間を過ごし、家に帰った。
そういえばギルドでリンカ、ライカ、チカにCランクへの昇格試験の打診があったが、俺とリオが試験官に選ばれ、俺たち次第でいつでもできると言われたので今日はやめた。
俺とリオが選ばれたのは前回、能力値に不安が残されたからだろうな。俺たちの審査でもあるわけだ、強くなったので心配はいらないけど。
それとリンカ、ライカ、チカは護衛任務などを受けたことはないが、俺たちとパーティーを組んでいるので問題ないとされた。その代わりに正式なパーティー登録を要求され、パーティー名を考えなくてはならなくなった。
何か良い名前はないものか?
「マスターと愉快な仲間たちが良いと思われます」
「マスターと龍の集いがいいよ!」
「あるじサマとカゲのしゅうだん! がいいよ〜!」
「ご主人様とメイドたちをオススメします!」
「うーん、トノと日向ぼっこかなぁ?」
「……トノと、ヤリ……」
「ユーしゃまのご意志のままに」
ネーミングセンスがないのは俺だけではなかったようだ……いや、俺のネーミングセンスのなさが移った? いやそんなはずは。これ以上考えないようにしよう。
さて本当にどうしよう? 眷族と私、ドラゴンとクエスト、ぶるぷる悪いスライムじゃないよ、長谷川家……ネーミングセンスないな、本当に!
無難に憤怒関連の名前にしておこうか、ドラゴンとオオカミも憤怒に関連する動物らしいし。
憤怒の魔王はサタンだったな、サタンズレギオン? これもダメだな。なんかいいパーティー名を考えないとリンカ、ライカ、チカのランクアップが遠のいてしまうな。
もしかしたらこれがランクアップの一番の難関だったりするんじゃないのか?
まだ余裕があるとはいえこれは大変だぞ。




