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みんなが作ってくれた昼食を感謝しながら食べ、宿屋にまたこちらで晩ご飯をお願いしますと伝え、ダンジョンへ向かった。
途中、手裏剣も忘れずに購入した。店員にまた女の子が増えたのかと疑われたのは心外です。
特に何事もなく進んでいき、落武者には人体構造の理解に協力してもらって、十四階にたどり着いた。
索敵しながら進むと3鬼の群れを見つけた。ちょうど良いので俺、ミオ、リュミスで一対一で鬼と戦ってみることにした。
何か文句を言われるかなと思いきや
「今のマスターなら鬼なんて楽勝ですね!」
「そうだね、ミオ姉の言う通りマスターなら楽勝だと思うよ」
「そうなんですか、ご主人様応援してます!」
「あるじサマがんばって〜!」
「トノなららくしょうぅ!」
「……トノの、ユウシを……」
「ユーしゃまいってらっしゃいましぇ」
……あれ? なんで今回はイケイケムード? ゴブリンの時はあんなに泣かれたのに……。いや、泣いてほしいわけではないのだけれど……まあ応援してくれているのだから頑張ろう。
部屋に気配を消しながら入ると俺とミオは気付かれなかった。リュミスが入った途端に気付かれたがリュミスに向かう鬼を俺が一鬼、ミオが一鬼引き止め、一対一に持ち込んだ。
二人のことも気になるが目の前の敵を倒そう。
俺の相手は赤鬼か。
鬼は気配を消していた俺が進路を塞ぐ形で突然現れたことに慌てている。その間に武器である棍棒をなんとかしたいところだ。
両手で握ったバスタードソードを小手打ちの要領で振るい棍棒から手を離させる。
右腕を痛がる素振りを見せるものの切断には至っていない。それにこいつらにはまだまだ武器がある。ツノ、ツメ、キバだ。
痛みより怒りが勝ったのかこちらに突進してくる鬼。左腕に刀を顕現し、二刀流で構え両腕の振り下ろし、噛みつき、頭突きをときに躱し、ときに防ぐ。刀で防いでもなかなか歪まない。防御の値が伸びたことを実感した。それでも歪んだ場合は、その都度顕現し直した。
鬼の猛攻にも十分に対処できていることを確認し、こちらも攻撃していく。
鬼に袈裟、逆袈裟、胴、逆胴、首と斬り込むがどの部位も断ち斬れず、なかなか倒れない。
ミオの言う通り桁違いの生命力だ。俺が殺しきるには魔法が必要か。表皮が特に硬いのと生命力が高いから身体も硬い。
バスタードソードを鞘に収め、両手で刀を握る。そして長巻を顕現させる。
突きを放ち、柄の端の方を握り魔力を流す。
抵抗されるが内部から焼き電気を流し確実にHPを削っていく。
全身が火に包まれ動かなくなったのを確認し長巻を引き抜いた。
ミオとリュミスはどうだろうと周りを見てみるともう鬼は跡形もなく消えていた。早! とも思ったが、俺が考えながら戦える相手だったのだから当然か。
ミオが楽勝と言うわけだ、やっと強くなっていっていることを少し実感できた。
それでも味方にもっと強い娘がいるので驕ることもできない。まだまだだ、俺の場合鍛錬と眷族を増やすことで自身の強化となるのだ。ミオを見ていると鍛錬の大切さがよくわかる、強さは能力値だけで決まるわけではないのだ。
こんなことなら中学時代に部活をもっともっと真剣にやるんだった。特に足運びを見ておくんだった、袴で見にくいんですがね。
とりあえずみんなのところに戻り、ミオとリュミスの戦いについて聞いた。ミオは聖銀のクナイによる急所への一点集中攻撃で倒し、リュミスは殴打と爪による切り裂きで倒したそうだ。
さらに進むと5鬼の群れを発見し、先ほど戦っていない五人に任せることにした。
リオとリンカが少し不安なのでミオとリュミスに何かあればすぐに動けるよう準備を整えて見守ってもらうことに。
この五人は隠蔽などのスキルは持っていないがさすがハンター、リオ、リンカ、ライカは気付かれずに近づけるようだ。
クオンは……気付かれたか。走ってくる鬼に向けてリオが闇罠を仕掛けた。
これは影から闇でてきた紐を出し、相手の足に引っ掛けるだけの魔法だ。
力が強ければ千切られてしまうが、初見だと戸惑うことだろう。現に鬼たちも戸惑い、群れの分断が成功した。
その鬼に近づいていき、一対一に持ち込んだ。
速かったのはチカ、凄まじい速さで近づき鬼が棍棒を持つ右腕にメイスを叩きつけた。
あ、右腕がぐちゃぐちゃに、お、鬼の頭が下がったところに、すかさず右腕に当てた反動で振り上げたメイスを渾身の力で振り下ろし頭に一撃、角も折り頭もぐちゃぐちゃに……。
さて、目線を逸らすとクオンが鬼の腹をすごい勢いで殴っていた。かなり効いたのか膝を折ったところに顎に一撃、さらに半開きの口にファイアーランスを打ち込んだ。
苦しいのかもがいていた鬼は動かなくなり消えた。
さて、目線を逸らすとライカがグレイブを鬼の首に突き刺し、とどめを刺していた。
続けて逸らすとリオが鬼と戦っていた。
鬼はすでに左足と右手を失っており、リオの速さと力に対抗できないでいた。しかし出血がもう止まっていたりと敵のタフさが目立つ。
ここはこのまま削る展開になるのであろうと思われるのでリンカを見る。
なるほど、近づきたい鬼と近づいて欲しくないリンカの間合いの取り合いが行われていた。遠距離からの黒火弾、近づかれたら黒爆発で吹っ飛ばす。
これまでもこんな感じで戦いが続いていたと思われる。
黒魔法を混ぜているので消えにくくなった火が鬼を蝕んでいるのが見て取れた。若干鬼の動きが荒く感じる。
肌が爛れたところにさらに火魔法を使われ、今までにない反応を見せるようになった頃、ダメージ覚悟の突撃がきた!
リンカはそれまでのように黒爆発で吹っ飛ばそうとしたのだろう、だが鬼は今までより速かったために爆風に受けてリンカに近づいた。
戦いの間に慣れてしまって、それまでのタイミングに合わせてしまったのか……。
近づかれたリンカだが、慌てていたものの杖を構え、なんとか初撃は防いだのだが次が怪しい。
リンカもわかっていたのか、起死回生の一手として攻撃に出た。その一手では、速さではリンカが勝っていたのも、たぶん鬼は近づかれると思っていなかったのも吉と出た。リンカは一瞬で鬼の懐に入り込み、口に向けて黒爆発を放った。
放たれた鬼はもろに食らって、頭部が吹き飛び酷い状態になっていた。
……俺も含めてだけどみんなの戦いを外から見るとなかなかにショッキングな映像だよな、でもあれだな、なかなか死なない鬼が悪いよな、うんそうだよ。
帰ってきた五人を撫でて、褒める。特にリンカは注意した後に盛大に褒める。
「ミオもリュミスもありがとうね」
いつでも飛び出せるように準備をしてくれていた二人にもお礼を言う。リンカが鬼に近づかれた時など動き出しそうになっていた程だったからね。
それにしても対人戦の予習にはならないな、鬼。明日はこんな酷い戦いにはならないよな? ちょっと夜にでも一応説明会を開いた方がいいかな? なんかちょっと不安になってきたのでそうしよう。
気配察知を使い、みんなを少し休ませてドロップアイテムの豆を与えた。
ぽりぽりと音が響く。
とりあえず一対一でも遅れはとらないようなのでまた集団戦に戻し、鬼を退治していくことにしよう。
鬼退治と言えば、犬は狼のリオが対応できるとしても、猿と雉が居ないな。その代わり龍と魔王なんかが居る。
あれもお供となっていたが、ある意味眷族みたいなものだよな、桃太郎は俺の先輩だったのか……。なんてことを考えながら敵と階段を探した。




