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 とりあえず対応をクオンに任せ、奥の席に座って待った。

 右にミオ、左にリュミスといつもの順番で、最後に俺の背後にチカが立った。護衛の為か座る気は無いらしい。

 そうしてクオンが部屋の奥の席に柔和な表情をしたおじさん、キリッとした切れ長の目をした美人の秘書みたいな人、あの受付嬢を案内してきた。

 なんで応対の席がこんな部屋の奥、微妙な位置なのかと思っていたが、秘書の人の視線で理解した。外から狙われない位置、というのが重要なのか。

 なるほど、今回は勝手に来たが、招いた場合は暗殺の準備を整えて外から狙っている可能性もある。

 そういうことをしてませんよ、という意思表示でもあるのか。それに俺たち家主側が奥、客が扉側なのは逃げやすいようにしているのだろう。

 なんか戦時のマナーみたいに感じる、というかそのものなんだろうな。


 クオンは案内した後、キッチンの方に向かった。おそらく飲み物の準備と思われる。

 おじさん、受付嬢が席に到着し、その後ろに秘書の人が立った。チカと同じで秘書の人は座らないようだ。

「ユーさん家に上げていただきありがとうございます。こちらは、この迷宮都市アルヘムの領主であらせられる、ツナ伯爵様です」

「初めまして、ユークリッド・ツナです。彼女は私の秘書のアリアナです」

「よろしくお願いいたします」

 そう言ってアリアナは見事な一礼をした。その所作の美しさに一瞬、目を奪われた。

「初めまして、ツナ伯爵様。私はユーと申します。ここにいるのは私の家族です」

 そう言って一人一人に挨拶させる。



『鑑定』


 名前 ミーア

 種族 ヒト♀ Lv30


 名前 ユークリッド・ツナ

 種族 ヒト♂ Lv84


 名前 アリアナ

 種族 ヒト♀ Lv73


 ……俺はよく思うんだ。

 ギルドって冒険者や狩場を知り尽くした存在なんだから、受付嬢とかギルド員を育てていても不思議ではないと。

 でもレベル30だったかぁ、一人前の冒険者超えてるじゃん! いや、元々冒険者で怪我や壁を感じて引退後に受付嬢になったパターンかもしれないな。

 うんうん……なんで貴族様がレベル84!? その付き添いもレベル73!? 現実逃避もまともにできなかったわ! それギルマスとほぼ同じレベルだからな! 何なの、何なのこいつら? 絶対面倒なことになる……。


「ツナという性が珍しかったですかね?」

 どうやら色々と考えていたら、伯爵様は勘違いなされたようだ。

 詳しく説明してくれたが、ツナは渡辺綱(わたなべのつな)のツナらしい。妖に強い人、ということで当時の勇者か使徒につけてもらったようだ。

 たしか渡辺綱だけがドーピングなしで鬼と戦ったんだっけ? ちゃんとは覚えていないが、茨城童子の腕を斬り落としたんだよな。

 まあそんな話をして、クオンがお茶をみんなに配り終わると、秘書から伯爵様オススメのお茶受けを渡され、それをみんなで食べた。

 そして一息つくと伯爵様が受付嬢を帰した。その時の受付嬢の残念そうな顔と最後に伯爵様に向けた恨めしそうな目を見て何度目かのホンモノだ、という感想を抱いた。


「では改めましてありがとうございました。貴方のおかげで私の三男は無事に帰ってきました」

 ––––? 受付嬢を帰したぐらいだから秘密の話をされると思いきや意味がわからないことを言い出したぞ……。

「旦那様、いきなりそれでは伝わりませんよ」

「そうだったな、ユーさん申し訳ない」

 詳しく聞くとオリエの街で、あの高額の賞金や報酬を出していたのがこのツナ伯爵様だった。

 三男は冒険者となり、ダンジョンでレベルを上げて強くはなったものの、ここでは大したことはなかった。そこで辺境に拠点を移し、そこで派手に活躍しようとしたところ、騙されて奴隷として売られたそうな。

「ユーさんの情報のおかげで違法奴隷の販売ルートがわかり、なんとか他国に運び込まれる前に助け出すことができました。本当にありがとう!」

 ガバッと手を握られた。

「いえ、それに関しましては、自らの身に降りかかる火の粉を払った結果で、感謝されるようなことではありません。私の方こそ貰った賞金などで助かりました」

 お金がなくて困っていた時に助かったことなどを説明した。

「そうですか、こちらとしても賞金がユーさんたちのお役に立てたのならよかったです」

 はい、装備を充実させることができました、ありがたかったです。


「そういえばご子息はご無事とのことでしたが、奴隷の首輪をつけられる前だったのですか?」

 これは奴隷解放の手段があるのかないのか、確かめる為の質問だ。奴隷であったクオンには嘘を教えられている可能性も十分にあると思われる。

「うーん……まあユーさんにならお教えしてもかまわないでしょう」

 なんだ、一瞬クオンを見た?

「三男は奴隷の首輪を着けられていましたが、私が解放しました。一般の方は知らないことですが実は幾つか解放手段があります」

 話を聞くと奴隷の首輪には契約魔法が付加されていて、借金奴隷ならいくら返したら解放、犯罪奴隷なら何年働いたら解放といったように、最初に条件を決めて契約させるためにその条件を満たしたら解放させることができる。

 しかし奴隷はその条件が設定されていないので解放されないということらしい。

 それでも解放する手段の一つが、契約魔法の上書き。これで簡単な契約にして満たさせ解放するという流れだそうだ。だだし、付加されていた契約魔法と同等もしくは高いレベルが必要になってくる。

 普通の奴隷の首輪は契約魔法の珍しさもあり、そんなに強い契約魔法は付加されていないので、契約魔法を持つ者なら解放できるようだ。

 なるほど、ということは伯爵様は––––

「はい、契約魔法を持っています。いえ、持っている家系だから伯爵家になれたと言ってもよいでしょう」

 なるほど、ちょっと特殊だから認められた家柄なのか。話の流れから三男はそれを持っていなかったのかな? 冒険者になることを許されたわけだし。

「一般の人間が知らない話を私にしても良かったのですか?」

「ユーさんにならかまわないでしょう」

 またチラリとクオンを見た気がする……。


「そろそろ指名依頼の内容をお聞きしてもよろしいですか?」

 切り込んでみますか。

「申し訳ない、その前に一つだけお聞きしたいことがある」

 なにやら覚悟を決めた表情、そして秘書の雰囲気も変わった。チリチリと肌に感じる、これはなんだ? 危険を肌で感じているのか?

 ミオたちの意識が切り替わり、臨戦態勢になったのがわかる。

 そんな緊張感に包まれながらも伯爵の口は止まらない。

「エニグマをご存知だろうか?」

 ……ラテン語で謎?

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