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十三階、ここは上と違って臭いはない。
しばらくの間、警戒をミオに任せて休む。
俺もミオと交代し気配察知を使いながら警戒する。
そうしてみんなが落ち着いたのを確認してから進んだ。
歩いていくうちに魔力を感知した。
ミオを見ると頷いた。
なんだろう、魔力が浮いている感じだ。
近づいていくとそれは直径1mほどの火の玉だった。
『鑑定』
種族 火の玉♀ Lv26
……火の玉に性別があるの!? 意味がわからないよ、何処にメスの要素があるのか……やばい凄く気にならない。
さて狩りますか!
どう見ても物理攻撃は効きそうにない。
火の玉だが、実際に燃えているわけではないようで熱は感知されなかった。
とりあえずミオが聖銀のクナイを投げてみた。
当たったところから黒い煙が上がり、火の玉は苦しむように動き回った後、消えた。
……え、終わり? どうしよう、ドロップアイテムも無いや……。
みんなを見ると不思議そうな顔をして見返された。
一斉に俺に向いた視線にちょっとびっくり。
美幼女の視線って意外に力があるんだな。
とりあえず聖銀は効果的、HP少なめ、このことがわかり、俺はこの敵が危険だと判断した。
次に発見した火の玉にはリュミスの水魔法で対応をお願いした。
リュミスが水弾を放ち、火の玉を貫いた。
そして火の玉は消えた。
やはりHPは少ないようだ。
この敵は魔力が剥き出しで気配察知が楽だ。
このおかげで奇襲がしやすい。
また発見した!
今度はリンカに遠くから火魔法を頼んだ。
前衛にリュミス、俺、後のみんなには下がってもらった。
そうしてリンカの火魔法、火弾を放った。
火弾が火の玉を貫いたものの消えることはなかった。
見た目通り火属性は効きが悪い、もしくはノーダメージか。
ゆらゆらとこちらに近づきながら火炎放射器で放ったような勢いの火をこちらに放ってきた!
火盾で防ぐ、リュミスは水の羽衣で防いでいる。
さらに火を放ちながらゆらゆらと近づき、爆発した!
リュミスに抱えられて戦線離脱。
必死に前に盾を構え続けた。
やはり持っていたか、自爆技!
火属性でHPが少ないのは自爆技を持っている敵だとゲーム脳が囁いた。
注意しておいてよかったぁ……ゲーム脳ありがとう!
そうでなくても能力値で一つが極端に低ければ、何かがそれを補う為に上がっているはず。
目が見えない人は耳が発達するように。
だからこの敵は自爆技がなかったとしても、要注意だとは思っていた。
「リュミス、ありがとうね!」
事前にその危険性を言ってあったとはいえ、すぐに動いてくれた、ありがとう。
「マスターが教えてくれていたしね、でも本当に爆発したね」
「したねぇ〜」
「したねぇ〜、ではないですマスター! 危険だとわかっていたのでしたら回避するべきです!」
「俺は危険だと思ったけど、みんなは弱い敵って印象だったでしょ? だからもしものときの為に威力を調べておかないといけなかったのと危険性を知ってもらいたかったんだよね」
「確かに弱いとは感じていました、気を抜いていた娘がいたのも否定できません。でもご主人様が危険を確かめる必要はなかったのではないですか?」
「だから危機感がない娘に確かめさせてたら怪我の恐れがあるって」
俺がそう言うと強く言うことができなくなったのか黙ってしまった。
まだ精神の低い娘や魔法防御0のチカがいる。
この娘たちがもしも爆発に巻き込まれたら大きなダメージを負ったかもしれない。
そんなことは嫌なのだ。
そんな心も伝わったのだろう、みんなが近寄ってきて抱きつかれ、お礼を言われた。
うん、謝られるよりそっちの方が嬉しいな。
奇襲が成功する限りは危険性はないのでどんどん倒していく。
稀に火を放たれるが俺とリュミスで防いでいる。
一回一回の戦闘時間がかなり短いためにどんどん進め、階段のある部屋を発見した。
少し考えたが、降りて一度戦闘をしてから帰ることに決めた。
明日の予習だ。
警戒しながら降りる。
歩き出して、ミオに手を引かれた。
「マスター、ここの敵は群れています。それに生命力が桁外れです。注意してください」
そう言って部屋に案内してくれた。
隠蔽を使い、部屋を確認すると気配察知でわかっていた数と同じ6鬼、赤鬼、青鬼、緑鬼がいた。
その頭には鬼の特徴である角があり、本数も一本と二本のものがいた。
武器は棍棒でイメージ通りか。
ファンタジー小説では、ゴブリンは緑鬼とされることもあるが、ここでは違うらしい。
そういえばゴブリンを妖精の一部とする考え方もあるんだっけ? まあどうでもいいか。
魔力量はそうでもないみたいだが、ミオがわざわざ注意する相手だ、気をつけねば。
……6鬼ってもしかして逃げた方がいい?
みんなを見るとやる気満々でした、あれ? 注意してきたミオも?
魔力量的にも魔法タイプではないのだから、ミオ、リュミス、クオン、チカが前衛、俺、ライカが中衛、リオとリンカが後衛かな。
……このパーティーって今更だけど前衛多くない? 今回下がったけど俺は前衛が多いし、中、後衛の眷族が増えてくれるとバランスが良くなると思うんだ。
今の眷族候補は鴉だから中衛、いや遊撃かな? 空からの攻撃ってかなりありがたいと思う。
外だと高い位置から警戒もできるし……鴉、とても頼りになる気がしてきたぞ!
これは早くレベルアップしたいね。
いかん、いかん、作戦を練ってたのに脱線してしまった。
遠距離攻撃のあるメンバーで一斉に攻撃することにした。
俺は風魔法の飛斬、そのままの飛ぶ斬撃。
ミオは手裏剣、そろそろ補充しないとな、ちょっと曲がっているのを直したりして使っているのをこの間の夜に見てしまったから……。
リュミスは俺に合わせて風弾。
リオとクオンは各々の魔法のボール。
リンカは黒爆発、黒魔法との融合魔法で消えにくい火の爆発。火魔法単体だと爆発。
これらを一斉に放ち、すぐに陣を組んだ。
魔法の効果はかなりあった。
火と風に合わせたのもあり、大きな爆発! 火の勢いも凄い!
だが、そんな魔法に晒されながら鬼たちはこちらに走りこんできた!
棍棒の一撃をチカが盾で受け止め、クオンが受け流す。
そこにミオが聖銀のクナイで斬り裂き、リュミスが水を纏わせ殴った。
狙い通り通路で戦える鬼は2鬼だけのようで、棍棒も振り回しにくそうだ。
そこにライカが雷火槍を発動し、グレイブの刃の左右に一つずつ雷と火で出来た刃が並んだ。
そしてそれを突き刺し、雷火解放を発動。
突き刺さった刃が解け、雷と火が鬼を焼き尽くした。
それを横目に俺も長巻を顕現し、リュミスに殴られた鬼を突いた。
そして魔力を強く流すことで火と電気を流した。
燃えながら、身体の動きが鈍くなった鬼にクオンが火槍を殴り刺し込み倒した。
魔法融合ができるようになりわかったのだが、この長巻、刃が火属性、長い柄が雷属性なのだ。
なので魔力次第で両方発動でき、こうして火で焼きながら電気を流すことができる。
顕現してわかったので咄嗟の判断だったがこれは良い武器だ。
そしてわかったのは表皮は強いが中からなら火などもよく効くということだ。
後衛もこちらを攻撃できず戸惑っている鬼に魔法を当てていた。
残り4鬼、2鬼は倒した鬼の後ろから棍棒を振りかぶってこちらに向かってきた。
そこからは同じ流れで倒した、鬼は1鬼も逃げようとしなかった。
怪我などはしていないが鬼は強かった。
ミオの言う通りタフだった。
ドロップアイテムが何か確かめずに素早く拾い、他の鬼に見つからないように階段のある部屋に戻り登った。
そうして落武者の階で少し時間をかけて帰った。




