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その臭いを嗅いでなるほどと思う。
他にも身体能力が向上したことで嗅覚も鋭くなっていたことを理解した。
「あるじサマ、ここクサイ〜〜!」
「マスター、これは厳しいよ!」
「ううぅ、クサイよおぉ……」
「……トノ、ダメ……」
嗅覚の鋭いリュミス、リオ、リンカ、ライカが苦しそうだ。
俺だって厳しいのだからそうなるに決まっていたな。
すぐに収納してあったタオルを渡し、マスク代わりにしてもらった。
本当は香水なんかを極少量タオルにつけると良いんだが、いや嗅覚が鋭いとそれもダメかもな。
ミオ、クオン、チカは平然としている。
大丈夫なんだな、ミオとチカはなんとなくわかるが、クオンが大丈夫ということは……。
少し暗い気分になったが振り切り、タオル組を見る。
まだキツそうだが、もう進んでもよいそうだ。
「無理そうなら敵を確認して俺たちで楽勝なら家で待っててくれてもいいよ」
俺たち四人での攻略に不安がないわけではないが苦しそうなみんなを見るのも辛い。
それに一人、二人に留守番を頼むのは不安になるが四人ならそこには安心できる。
特に現在眷族最強と思われるリュミスになら安心して任せられる。
「マスターの左腕としてこんな事で休んでいる訳にはいかないんだよ!」
「……ヤリは、トノと、トモにある……」
「ううぅ、トノといっしょにいたいのぉ〜」
「リオはあるじサマのかげ……かげのナカにいよ〜」
そう言ってリオは俺の影に逃げた。
「リオ、それはずるいんだよ!」
「リオねぇさまぁ!」
「……リオねぇ、それは……」
「いま、リオねぇっていったぁ?」
「……」
「トノぉ、ライカがムシしたぁ〜」
そんなことで涙目で抱きついて来られても……正直和みました。
でもここからの攻略に難点が見つかったな。
毎回ここで少し手間取りそうだ。
早めに十五階を目指すか? それも一つの手なのだろうがあまりそれを選びたくない俺がいる。
それでもここの階は気持ち急ごうか。
そんな訳で歩き出したのだが、ミオに止められた。
「気配が捉えにくいですが5体の敵がこの先にいると思われます」
うん、なんとなくわかった、確かにこれは捉えにくい。
それにしても群れているのか……。
知識が残っているのか、いないのか、これも重要だな。
みんなで慎重に近づいていく。
『鑑定』
種族 落武者♂ Lv24
種族 落武者♂ Lv24
種族 落武者♂ Lv24
種族 落武者♂ Lv25
種族 落武者♂ Lv25
本で十二階の敵が落武者だと見たときは間違いかと思ったが、ゾンビだったのか。
これがこの階層に着いて、すえた臭いを嗅いで動物の屍体を解剖した時のことを思い出したことで理解したことだった。
ボロボロの甲冑、それも一部が残っている程度、目があるはずのところには青い炎が揺らめいている。
臓物はしっかりと腹に巻かれた晒ゆえか、ゾンビ映画のように出てはいない。
得物は刀が2に槍が1、弓が2か。
しかも弓がレベルが高いのか。
これはお留守番とかは無しだな。
しかもこいつら俺たちに気がついたらしい。
刀持ちが俺たちの正面に出て、その後ろに槍、弓と続いている。
極力音も出さなかったはず、何で気付かれた?
魔力? 嗅覚? それなら自身の臭いで二度目の死を迎えている。
いやこいつらはアンデッド、生者の気配に反応するのが普通なのか? ゲームとかの設定だがこれが当たりな気がする。
さて相手も準備万端で待ち構えている、出たくないがジリジリにじり寄られて通路で戦うよりはまだ部屋の方がいいかな? こちらの機動力を活かそう。
そう決めて部屋に入った。
瞬間、矢が飛来する!
だがそんなことはわかっていた。
すっとチカが盾を二枚出し、俺の前に立ち構えた。
ミオが手裏剣を投擲し、鏃を正確に捉え、弾いた。
……ミオって投擲スキル4レベルだったよな? あんなことができてまだ4?
愕然とするが迫ってくる刀持ちの対処をしよう。
1人は俺が、1人はクオンが対応するようだ。
先手必勝、刀に魔力を流し、火刀とし斬りつけようとする腕を先に奪う!
骨を斬れるか不安はあったがソンビとなったことで火に弱くなっていたのか思ったより簡単に断てた。
だが落武者は腕を失ってもそのまま襲ってきた!
そりゃそうだろ! 内心で自分を叱咤し魔法を発動する。
火腕! 火盾!
二つの魔法を素早く念じ左腕を燃やし、その腕を覆う火で出来た盾が現れた。
その火盾で落武者にタックルを決める!
落武者は熱を嫌がるように倒れこみ、ジタバタしていたが、全身に火がまわり動かなくなった。
他を見回すとクオンはもう落武者を焼却処分した後でライカとリンカの方にいる。
槍持ちはライカとリンカが対処したようだ、こちらももう燃えている。
そして、それを見守る位置のクオン。
多分心配で急いで倒したんだろうな。
本当はこういう配慮は俺がするべきなんだが……。
弓持ちはミオとチカが、他の戦場に矢がいかないようにその後ろでリュミスが構えていたようだな。
どちらの落武者も聖銀によって倒されている。
「リオもありがとうな、少し心配をかけちゃったな」
そこまで確認して後ろにいるリオにお礼を言った。
「リオはあるじサマのかげ、サポートするよ〜」
俺が落武者の両腕を奪った後、一瞬迷ったときに心配をかけてしまった。
魔法を準備し、いつでも守れるようにと構えてくれていたリオ、ありがとうと頭を撫でる。
戦闘が終わり、みんなが近づいてくる。
「みんなお疲れ」
そう言って怪我がないか、確認していく。
リンカとライカに軽い切り傷があった。
ゾンビ系だし何があるかわからないので回復魔法のキュア、解毒の両方をかけておく。
「トノぉ、ありがとぉ!」
「……ありがとう、ございます……ショウジン、します……」
二人には少し大変な相手であったようだ。
いや、能力値で見ればかなり大変な相手じゃないのか?
あれ? 能力値がかなり上がった俺は苦戦しちゃダメなんじゃないか……。
愕然とした……。
ちょっと対人戦代わりにここで狩りたい。
タオル組を見る、ここではダメか……。
いや、十四階は人型だ、そいつと戦おう!
そう決めた。
「リンカとライカはここでは二人一組で戦ってね」
「はい! わかったぁ!」
「……はい……」
「よく頑張って倒したな、二人とも」
そう言って頭を撫でる。
「クオン、二人の補助ありがとうね」
「いえご主人様、私は何もしていませんので」
「二人に何かあったらと構えてくれていたんだろう」
これは二人には聞こえないように言って頭を撫でる。
「リュミスも矢を防いでくれてありがとう」
「当然のことをしたまでだよ」
リュミスにとってはそうなのかもだがありがとうと頭を撫でる。
「ミオとチカは弓持ちとの戦闘どうだった?」
「近づいてしまえば楽でした」
「同じく」
「そうか、ありがとう」
二人の頭も撫でて、これで全員撫で終わったな。
なるべく平等に、というのもあるがそれは建前で俺が撫でたかったから撫でた。
なぜだか一皮剥けて、自分に正直になってきた気がする。
ドロップアイテムを確認すると干し飯だった……。
いや、たしか干し飯って20年は保つらしいし、水だけで食べられるようになるはず。
保存食として優秀なんじゃね?
少なくともあのパンなんか比べ物にならないほど……。
落武者、それもゾンビから取れることだけが不安だがこれなら他の冒険者とも一緒に食べても大丈夫だろう。
これは売らずに残しておこう。
臭いし、群だし、装備もバラバラで戦い難い相手だが良い物を持っていた。
訓練以外にも少しここでの戦いに前向きになれた。
よし、頑張ろう。




