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2/16 加筆しました。終わりの方です。
「おい! そこの若いの、困り事か?」
俺たちに話しかけてきたのは三十路手前に見える三人組の男たちだった。
「あ、そういうわけではないのですが」
「まあ話してみろって」
「ああ先輩として聞いてやるぜ!」
「役に立つかわからんけどな、ハハハ!」
なんか陽気な人たちだなぁ。
とりあえず、魔法を使うことがなく、MPを消費することに慣れていない娘が、MP攻撃で特に疲れを見せた場合、休ませたもののこのままダンジョンで戦わせていいものか考えていたことを伝えた。
「ああ、やめたほうがいいんじゃね?」
「だな、マージンはあったほうがいいぜ」
「俺たちでも役に立つことがあるんだな、ハハ」
役に立つことがないと思っているのに相談しろなんて言うなよ……。
まあいい、それならこの後、どうしようか?
「今日、この後が暇になっちまったか、ならモンスターの出ない迷宮なんかどうだ?」
「ああ、あそこな、いんじゃね?」
「あれか、不殺の迷宮!」
「え、そんな迷宮があるんですか? モンスターと戦わないならどうしてその迷宮に入るんですか?」
「なぜかその迷宮では、錬金術に使う材料が手に入るんだよ」
「なんに使うか知らねえが結構な金になるんだぜ!」
「おう、取れれば若いネェちゃんのいる店に行けるだけの金が手に入るぜ、アハハハ!」
一人笑いすぎだろ⁉︎ ヤクでもキメてんのかコイツ?
若いネェちゃんの店は気になるが、いえなんでもないです。
とりあえず場所を聞いていたらさらに乱入者が。
「おい! お前ら何話してんだ? お、ユーじゃねぇか!」
「ほ、ホークさん、知り合いですか?」
「まじかよ……」
「お、ホーク久しぶり? 最近見なかったな」
「おう、ちょいとゴタゴタしててな。それより何の話をしてたんだ?」
「迷宮の話でさぁ」
「なんか悩んでたら迷宮の情報を教えてくれてさ、ちょっと話してた」
「そうか、ならいいんだが……」
「あっしたちはこれで!」
なんかホークが来たら逃げていったな。
「じゃあ俺たちは迷宮に行ってくるわ」
「そうか、またな」
ホークと別れ、不殺の迷宮に行ってみることにした。
聞いていた通りの場所に寂れた建物があった。
え、警備とかもいないし、転移陣とかもないのか。
まあモンスターも出ないのならそういったものも必要ないのかな。
ちょっと疑問に思いつつもその建物の中に入ってみるとやはり地面に直接階段が。
慎重に降りつつ、ミオを先頭に部屋を出て進もうとして……、視界全てが真っ赤に染まった!
もう何も考えずミオの服を引っ張り
「退避! 退避ぃぃ‼︎」
そう叫び、左手でリンカを捕まえ階段に急ぐ!
俺の危機感が伝わったのだろう、クオンがライカを抱え、リオが俺の陰に入り、リュミスが後ろに回り、みんなを押してくれている。
俺たちは、リュミスに押されるようにしてなんとか元の建物に戻ってくることができた……。
みんなを見る。うん、怪我一つない。
今になって心臓がバクバクと激しい音と振動を俺に伝えている。それはまるで心臓から俺への抗議のようだ。冷や汗も凄いことになっている……。
下からなんかよくわからない音が聞こえてくる。
それを無視し、みんなを抱きしめて落ち着くまで待つ。
「マスター、さっきのはなんだったのでしょうか?」
「たぶんだけど、トラッブだ。それも即死系の……」
そうでなければあそこまで視界が真っ赤に染まる訳がない。
「申し訳ありません、マスター。気づけませんでした……」
そうして落ち込んでいるミオを某動物マスターのようにして撫でまくる。
「え、え⁉︎」
驚いているが、無視してそのまま撫でておく。
「リュミス、ありがとうね。リュミスならみんなを助ける動きをしてくれると思ってた」
「当然だよ、マスター! 私はみんなを守るんだよ!」
今度はリュミスを撫でまくる。
「リオはよく冷静に動けたね。あの場では人数が多いと動きが制限されることもあったしね、ありがとう」
「うん、リンカとライカ、あるじサマとクオンおねぇちゃんがたすけてたから」
リオを撫でまくる。
「クオン、ライカをすぐに抱えてくれたね、その後の行動も速かった。ありがとう」
「いえ、妹を守るのは姉の役目ですから」
誇らしげな様子に心温まり、余計に撫でまくる。
「リンカはちょっと危機感持とうか。でも状況はちゃんとわかっていて暴れなかったね。おかけで楽に助けられたよ、ありがとう」
「トノぼくのホウこそぉ、たすけてもらってぇ、ありがとぉ。スゴくうれしかったぁ!」
可愛いやつめ! こいつ、こいつと撫でまくる。
「ライカはちゃんと動こうとしていたね。今回は身体能力が足りなかったけど、俺の方をすぐに見てくれたよね、ありがとう」
「……テレ……クオンの、アネキ、ありがとう……」
「アネキじゃなくて姉って呼んでって言ってるのに……」
みんなが言ってるのにやめないな。まあいいや、この頑固者めとわしゃわしゃ撫でまくった。
「ミオもありがとう。いつもみんなを守ってくれて。今回のことをミオは気にするかもしれないけど、それはみんなのミスなんだよ。ミオだけの責任じゃないんだよ。信頼するのは良い、でも任せきっちゃいけない。俺のミスでもあった。だからみんなありがとう、俺のミスをカバーしてくれて」
みんなと抱き合い、さらに結束が高まった気がした。今回のことはそういう意味では良い機会だったのかもしれない。
だが、許す気は無い!
「マスター、ダメだよ!」
どうやら憎悪で黒いモヤが出ていたようだ。危なかった……。
「ごめんねリュミス、心配かけて」
さて、出ますか。
外に出るとあの三人組がいた。
「お! すげー出てきたぜ!」
「マジかよ! あれに自力で気がつくんかよ……」
「あはははは、俺の一人勝ちだな。いい酒飲めるぜ! ハッハー!」
そんなふざけた態度の奴らを殺そうと駆け出したり、魔力を高めるみんな。
「待て!」
「なぜですか、マ……兄様?」
うん、ミオは気がついたな、それも理由の一つ。
「辞世の句を聞いてやってからでも遅くはないし、もう一人お客人がいるようだからな」
今更俺たちの殺気に気がつき青い顔をした三人組を庇うように現れた、ホーク。
「で、話は聞かせてくれんのか?」
「ああ、ちゃんと話す。だからこいつらは帰していいか? そっちの娘たちがいつ襲ってくるかと冷や冷やもんでよ」
「いいぜ、顔はちゃんと覚えた。お前の説明に納得できなければ殺させてもらう」
俺の家族を危険に晒しやがったのだ、罪科持ち? この場合は正当防衛じゃね?
「ああ、お前を罪科持ちにするわけにもいかない。ちゃんと説明しよう。お前らは帰れ!」
「ホークさんお願いしますよ! 俺はまだ死にたくねぇ!」
そんなことを言いながら三人組は凄まじい速さで去っていった。
「冷静に聞いてくれ、頼むぞ」
そう前置きして語りだした。
ホークは俺たちと話した後、もしかしたらと思い、こちらに来たらあの三人組がいて、ここの迷宮に潜ったのだと確信したらしい。で、俺たちが三人組を殺さないように待っていたと。
この迷宮、不殺の迷宮の他に鏖の迷宮という名前もあるそうだ。即死系トラップが盛り沢山の生還者を許さぬ迷宮。その反面、絶対に死ぬことがない迷宮。
この相反する特性を持つのがこの迷宮なのだそうだ。
この迷宮内で死んでも、所持金が半分になるだけで死ぬことはないそうなのだ。
なにそのゲーム設定、とも思ったが、この迷宮だけでその理由もわからないようだ。
所持金がない場合は装備が一つ、装備すらない場合は四肢の一つを失う。なので、絶対に命を失うことはない。
この特性を利用して鵺を倒した新人にここの迷宮を勧めるのがここ迷宮都市の冒険者の慣習なんだと。
ほとんどの冒険者が犬神の特殊攻撃に戸惑うのでそこに話しかける。
ここの危険性に気がつけば、その新人と仲良くなるようにし、死んで外に転送されてくるようなら調子に乗るなと少しの間、パーティー内で雑用させるなどをさせて、経験を踏ませるらしい。
まあどうでもいいが、それに俺は引っ掛けられたということか。
まあムカつくが命の危険はなかったということか。それに文化、慣習の違いはある。元の世界でも国ごとの違い、さらに細かい地域ですら様々な問題が起きていた。それなのにここは、世界そのものが違うのだから意識や理解が及ばないこともあるのだろう。所詮俺の方が少数、納得できないがそういうものと受け入れるしかないのだろう。ならまあムカつくが、今度会ったら殴るかもしれないが、許すか。
「それでこの迷宮クリアした人はいるのか?」
「いや、この迷宮、浅い階層の迷宮なのはスキルなんかでわかっているんだが、クリアした奴はいない。斥候職の天才と言われた人が挑戦したのだが、二階のリドルがクリアできず、帰る羽目になり、帰りに罠に殺られたなんて話もある」
「リドルの内容はわかっているのか?」
「ああ、それはわかっている。なんだっけ?」
ごそごそと何かを出して確認している。
「そうそう『アンモナイトは現代でも生きていますか?』だ。意味がわからないからどうしようもなかったらしい」
⁉︎ それは!
その言葉を聞いて、みんなに金貨1枚ずつ渡して、再度迷宮に挑戦することにした。
なんかホークが言っているが知らん。
みんなも困惑しているが迷宮内で説明しよう。




