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「「ペロペロ」」
ん、またリンカとライカか、そう思い目を開けた。
「おはよう、リンカ、ライカ……って、え?」
てっきり猫の状態で舐めてきたと思っていたが、人化した状態だったので驚いてしまった。
「トノおはよお」
「……おはよう、ございます……」
二人を見ると、少し服が濡れていた。
「料理の手伝いをしてくれたの?」
「オンナのたしなみだよぉ」
「……うん……」
「ありがとうね」
二人の頭を撫でながら、エプロンを買ってあげたほうがいいか、あの店にあるかな? でもあの店員がいるんだよなぁ、なんて考えた。
朝練では、序盤に上がった能力値を確かめるように動き、素振りを開始。
みんなも動きを確かめていたが、リュミスは動きが変わりすぎじゃないかな。
動きがより速くなったのもあるが、動きのキレも良くなっている。
魔法の威力も上がっているし、龍怖いな。これでまだまだ子供、成龍とか絶対敵に回すもんじゃないな。気をつけよう。
他のみんなも順調に強くなっている。
うん、あとはリンカと木刀と杖で打ち合う。
ライカが羨ましそうにしている……練習用の薙刀を木工屋に注文しないと、でもあの木工屋に行くとなんか疲れるんだよなぁ、腕は確かだけど。
そしてまたみんなで乱戦だ。
思い返すと鵺との戦いの時もそうだが、強い敵と戦うとき、俺はなぜか囮役になっている……。
ゴブリンリーダー、ブラックウルフ、そして今回の鵺。
この辺は俺が攻撃を受けた隙を突いての急所攻撃が決め手になっている。
このままでもある意味、効果的なんだけど、俺のダメージが多いし、俺もカッコよく敵を倒したいと思う。
なにより、俺が攻撃を受けるとみんなに心配をかけてしまう。
特にミオはそれが顕著だ。見せないようにしているが、そんなことは伝わってくる。
俺の身代わりになってでも、って思っているが、位置的な問題などで庇えない場合、攻撃に切り替えている。
そんなみんなの為にも俺は強くならねば!
朝練を終えて、みんなが作ってくれた朝食を一緒に食べた。
その後、ダンションに行く前に木工屋に行き、ライカと練習用の薙刀の説明をして注文した。
どうやら組み立て式になりそうだ。
本物を見たことがなく、知らないのでなんとも言えないが、少し耐久力に難有りな物になりそうだ。
だが、早く作ってもらえたり、壊れた箇所だけ、直せたり、背が伸びたらパーツを増やすことで調整できたりと長所も多かったのでこれでお願いした。
ついでに予備と追加のパーツも頼んでおいた。
そして、ダンション十一階へ。
ここからは注意が必要だ。
とりあえずいつも通りミオの案内で歩いていく。
俺の気配察知にも反応があった頃、それは姿を現した。
『鑑定』
種族 犬神♂ Lv22
なんかおかしいと思ったので隠れながら鑑定してみたが、犬神だった。
いや、事前に犬神なのは知っていた。
鵺を倒した後に犬神とかなかなかここのダンジョン製作者わかってるなぁとか思っていたけど……。
俺の犬神のイメージは、犬の首が飛んでるやつだったんだよね。
だから今、これなに? 状態ですわ。
それは大きさは2m程で縦に細い。不気味なほどの細長さだ。
背中には大きな斑点がある。
こちらの姿は見えていないはずだが、動きに変化が見られた。
どうやら視覚以外で敵を判断しているらしい。
犬神といえば、相手に取り憑くなどの伝説もある。
みんなには聖銀の懐刀を渡してあるので耐性は上がっていると信じたい。
俺は刀を両手で持ち、魔力を通し、火属性の刀とする。
アンデッドには火属性、ということだ。
ミオが聖銀のクナイを両手に構え、突っ込んだ!
俺たちも後に続く。
ミオが聖銀のクナイで斬りつけると黒い煙のようなものが発生した。
「煙を吸うな! なんなのかわからない」
忠告を飛ばし、俺も斬りつける。
手応えが違う! 今までの敵と違い硬い、表面しか斬れていない。
だが、俺が斬っても煙は発生しなかった。
そしてミオの攻撃を嫌がっている?
もしかして、聖銀で浄化されているのか?
ミオや俺、リンカが前から攻撃を加えている中、クオンが犬神の後ろに回り込み、ファイヤーランスを発生させ、拳と一緒にブチ込んだ!
これには犬神も耐えられなかったようで倒れる。
これはどうしようか、聖銀の装備を揃えるべきか? いや、みんな魔法が使えるから大丈夫か。
メインでの攻撃をミオに任せて、火属性の三人がサブで後は魔法で援護かな。
さっきは攻撃を受ける前に倒しきったのでよくわからなかったが、敵はレベル22きっと強い。
まだまだ注意が必要だ。
ドロップアイテムは木の升のような物が落ちていた。中には味噌が入っていた。
小豆イタチが発酵して犬神になるのだろうか……。
数戦して判明しました。
この犬神、厄介な攻撃を持っていました。
犬神が吠えたら、俺たちは少し力が抜けるのを感じた。
減らされたのは体力ではない、魔力だ。
それは最初に、ミオに疲労が見え出したことで判明した。
いつもならこのくらいで疲れを見せるミオではない。
だが、ミオが疲れを見せ、ライカにも少しそれが見られた。
ここで犬神が攻撃をしていたのはMPだと判断した。
「まだまだ戦えます、マスター!」
とミオは言うが、魔力が減ることに慣れていないミオには辛いと俺が判断し、早めだが帰ることにした。
ギルドには寄らず、直接家に帰った。
家に帰るも休もうとしないミオを膝の上に乗せて、ガッチリと抱きしめた。
「ま、マスター、くーちゃんのお手伝いを……」
「ダメ、疲れているんだろ? 今は休むの。調子を見て、午後からもダンジョンに入れるか判断するからね!」
「私は大丈夫なのです、マスター」
「それは俺が判断するから」
「はい……」
もう尽くしてくれようとし過ぎだよ……。
ドロップ品の味噌をクオンに渡し、冷蔵庫に保存した。そんなに量ないし。
ライカも休みそうになかったのでキャッチ。
右にミオ、左にライカで腰に手を回し逃げないように抱きしめておく。
いつもより早い時間に帰ってきたのでまだまだ昼ご飯までには時間があり、十分ミオたちを休ませることができた。
昼ご飯にはクオンに頼み、味噌汁を出してもらった。
ただ、出汁が無いのでもどきといった感じだ。
海の物が欲しくなったが、海は魔力の宝庫で非常に魔物が強いのだとか。
魔物ではない生き物もレベルが高くなり、強いので海産物はあまり期待できないようだ。
国を挙げて海辺を一つ開ければ相当国力があるとアピールできる程らしい。
その海辺も地引網程度で、船を出しての漁などはできないようだ。
海怖い! 海辺でこれなら深海とかやべーだろ⁉︎ たぶんいるな、海竜系。
海竜系には興味があるけど……餌になる未来しか想像できなかったので今は諦めた。
食休みを終えて、ギルドに行く。
ギルドで討伐金を換金し、どうしようか考える。
十一階からは一匹討伐で銀貨1枚か、なかなかの収入だな。
これから十一階にもう一度挑戦するか、ミオを見ながら悩んでいたら、珍しく他の冒険者に声をかけられた。




