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カオスな場が時間経過で収束し、晩ご飯を食べに宿へといく。追加の娘二人に驚いていたが、すぐに用意してくれた。追加の銅貨20枚。
ご飯を食べて寝ようかという時に思いつめたような表情をしたリュミスが語り始めた。
「マスター、私の話を聞いてくれる?」
「いいよ、話してくれるんだね」
「うん、マスターは私がダークドラゴンでリオがブラックウルフ、ダークとブラックで黒色が二つあるのを変に思ったことはない?」
「うーん、不思議には思っていたけど、黒魔法と闇魔法の違いなのかなと思ってた」
「その認識も間違ってないけど、少しちがう。説明するね」
リュミスの説明する姿は悲しげだった。
闇魔法がブラックという認識は正しかった。だがダークが違った。ダークと付く魔物は堕ちた存在なのだそうだ。
強い憎しみ、恨み、辛み、嫉み、妬み、負の感情によって堕ちた存在がなるのがダーク系の魔物で、その本質は自滅。
黒魔法を強制的に覚え、それが暴走し、自らの身体が壊れるのも厭わず周りを破壊し尽くす。
その破壊力はただのゴブリンでさえ、ダークゴブリンとなれば最低でもBクラスの脅威となる。時間が経てばレベルも上がり、更に強くなるが身体を崩壊させながらなので堕ちたら二日も保たず死んでしまうらしい。
ということはリュミスも一度堕ちたのか。
「うん、きっとそうだよ。称号に龍種とあるのにドラゴンなのがその証拠でもあるんだよ」
どういうこと?
さらなる説明で、竜はドラゴンとも呼ばれ、モンスターしかいないようだ。龍はモンスターが生まれる以前から神に造られた存在であるようだ。その龍であるにもかかわらず、ダークドラゴンとなっているのは堕ちてモンスターとなったということらしい。
なるほど、で俺が暴走した後にこの話ということは……。
「うん、きっと今日マスターが暴走したのは黒魔法の所為。黒魔法が暴れだしたマスターを見てそのことを思い出したか知識を与えられてわかったんだよ。だからマスターが暴走したのは私の所為なの……」
そう言って俯いてしまうリュミス。
「俺はこれからどうなる? リュミスは大丈夫なのか?」
「マスターはこれから負の感情を強く感じると暴走しやすくなるんだと思うよ。私は負の感情を感じそうになると怖くなるんだよ、なんでかはわからないけど、それのおかげで私は大丈夫だよ」
そうか、リュミスは大丈夫なのか。
「暴走すると、みんなを傷付ける危険性はある?」
「眷族化がどう働くかわからないけど、あるかもしれない……」
なるほど、これがミオが感じた恐怖か、でも俺はミオに言ったことも覚えている。
「今まで大丈夫だったから、これからもきっと大丈夫だろう。それに俺がそうなってもみんなが止めてくれるんだろ?」
そう言うとみんなが頷いてくれる。
「あとね、ダークエルフは堕ちたエルフが魔物化を免れ繁栄した種族なんだよね。だからなんとかなる方法が必ずあるはずなんだよ。もしマスターが堕ちても絶対解決方法を見つけだして助けるんだよ!」
「ありがとう、リュミス。だから俺は心配していないし、恨んでもいない。だから気にしなくてもいいよ」
そう言ってリュミスを抱きしめた。普段は飄々としたところもあるリュミスが泣きながら強く抱き返してくるのに驚きながらも泣き止むまで抱きしめた。
問題は山積みだけど、頑張っていこう。そう思って寝ることにする。
眷族は六人になり、話し合いで俺の隣は交代制になった。妹たちを優先するらしく、今日は右にリンカ、左にライカだった。
「トノのとなりでぼくはうれしいよぉ」
「……こうえい……」
そんな二人に腕枕をしつつ寝た。
起きて、朝練、なるべく鴉のトドメはリンカ、ライカに任せた。この二人が倒せばランクの関係で討伐金が倍だからな。
その後、宿で朝ご飯を食べる。
「お兄さん、猫ちゃんたちは?」
「うん、ふらっと出ていっちゃった。そのうち帰ってくると思うよ」
「大丈夫かな?」
「大丈夫、あの子たちは強かだったからね」
「それでこの娘たちは?」
「うん、俺がここに家を借りるって手紙送ったら来ちゃってね」
「あれ? お兄さんの故郷って遠いんだよね?」
「うん、でも家族はこっちに家を構えたからね。俺たちは親の分まで旅生活を楽しむことにしているんだ」
とミカちゃんを誤魔化す。
家に戻り、クオンが料理を作るところを見てみる。ふむふむ、手際よく作っていく。
野菜のスープにご飯、何かの肉を焼いたもの。美味しそうな匂いでいい感じだ。
クオンにどんな感じか聞くと朝練前に準備をしておけば楽に作れるらしい。
「大変じゃない?」
「みーちゃんも手伝ってくれますし、奴隷の時と比べたら楽勝です!」
いや、そんなのと比べないでほしいなぁ……。
まあ自炊の方が安いだろうし、昼ご飯はクオンの料理でお願いしよう。
任せきりは大変だからそうならないように気をつけよう。なんか大変でもクオンは言いそうにないから見てあげないと。
それからギルドに行くことにした。
正直な話、あの数百匹の鼠をCランクになる前の冒険者たちがどう対処してきたのかがわからなかったのだ。
本を読んでも特に対策など書いてなかったことから常識的な方法なのかもしれないとギルドに聞きにきたのだ。
いやぁ、わかりやすいなぁ、いつもの受付嬢がいるのが見渡さなくてもすぐわかる。
なんでかって? 並んでた冒険者たちを追いやってこっちにブンブン手を振ってるからさ……。
今まで並んでいた冒険者たちに頭を下げて受付嬢の元へ、いや俺ら行かないとあの受付嬢仕事しなくなるんだよ、俺らが早く行く方がこの人たちも早く受け付けてもらえるんだよ。
「ゆ、ゆ、ゆゆ、ユーさん、なんで、なんで、なんでなんですか⁉︎」
またかよー。
「なんでこんな娘たちを隠していたんですか!?」
「いや、隠していた訳じゃないから。俺が家借りるって手紙送ったら来ちゃったんだよね」
「家借りられたんですね。へぇー、あ! ということはこんな可愛い娘たちと一緒に?」
「確かに可愛い娘たちには同意するが家族だぞ」
「いいなぁ、いいなぁ〜〜。あら、リオちゃん背が伸びました?」
「そうなんだよ、成長期かな? 羨ましいなら泊まりに来る?」
笑いながら誤魔化すために冗談を言ったのだが。
「え! いいんですか? ミオちゃんとリュミスちゃんの着ぐるみ姿、えへへへへぇ〜〜」
うーん、こいつはダメだ。家に招待してはいけない人種だ。後ろのみんなからも無言ながら圧力を感じる。
「多数決により、この提案は撤回されました」
「なんで!?」
「笑顔が怖いからみんなが怯えた」
あぅあぅと頭を抱えだしたぞコイツ、美人なのに残念な人だ。
「そんなことより「そんなこと!?」聞きたいことがある」
ええ、でも、とかふてくされだしたぞ。大丈夫か、ギルド……。
「この娘たちの安全にもかかわるからちゃんと答えて欲しいんだが?」
シャッキーン! と聞こえてきそうなほどいきなり背筋を伸ばし、早く質問してこいという感じで待ち受けている。
まあいいか、この人にはツッコミどころがありすぎるから今後無視だな。
気を取り直して昨日遭遇したことを説明してどうしているのか聞いてみたら呆れられた。
「よく逃げられましたね、ミオちゃんたちが無事で良かったぁ〜〜」
詳しく聞くとどうやら出ても十数匹らしい。
なんであんなに群れていたのかというと、こんな風に言いたくないが……餌、があったからだという。
それにどうやら鼠と侮って蜘蛛が倒せたらすぐに向かう冒険者も多く、群れに襲われ、時間がかかりさらに別の群れに、と倒されてしまうことがあるのだそうだ。そういうときはさらに鼠が集まり、その部屋はモンスターハウスのようになり、さらに被害者を増やす結果になるという負の連鎖が発生してしまう、これに俺たちは巻き込まれたようだ。
これも考えればわかることだったのに……。
だが、俺が反省したことがただの他の冒険者のミスだったのか……。
反省するところは反省しつつもなんだが腑に落ちない感情を抱えることになるのだった。




