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 泣きそうな受付嬢が必死にこっちを見てくるが早くしろと目で伝える。

 なんだか諦めたような表情になった。

「始め」

「死ねやゴラ〜〜‼︎」

 怒りを爆発させたように突っ込んでくる。こいつ突っ込んでばっかだな。

 振り下ろされる木剣がギリギリで当たらない位置に下がりながらこちらも木剣を振り下ろし、相手の木剣に当てその反動で少し剣尖を上げる。

 結果相手の木剣は地面を叩き、俺の木剣は相手の首に突きを入れる寸前で止まっている。


 きっ緊張した〜〜……。成功するかわからなかったがなんとか成功したな。今回ここまで相手を挑発したのは動きを単調にさせ、力ませる為だ。プライドの高い、自分の力を過信するタイプだったのか効きも良かった。心眼によって相手の細かい動きを掴み、余計に力が入った木剣に更に力を加えてやれば地面を叩かせることができた。この時の相手の木剣のどこに当てるかで心眼を使いながらも相当精神力を使った。

 そして相手の動きを読み、首が来る位置に木剣を置くことで今回は勝つことができた。


「や、やめ!」

 その声に俺は木剣を下げるが、相手は地面を叩いた状態で震えている。と、木剣を振り上げ、俺に向かって投げてきた。一応気をつけていたので木剣で流すが相手は腰の得物を抜こうとしている! これを抜かせる訳にはいかない!

「ミオ!」

 呼びかけると即座にまだ持っていた木製の短剣二つをアランの腕に投げつけた。少し怯んだところで右手を木剣で押さえ、抜かせないようにする。

「リオ!」

 俺の背後にいたリオは俺の背を駆け上がり、アランにカカト落としを決めた。

 アランが倒れたところで腕をとり、捻って動けなくする。

 アランの拘束が済んで周りを見渡すとリュミスとクオンは奴隷少女たちへの壁役をしてくれていた。もっとも奴隷少女たちは助けようともしていなかったようで拍子抜けしていたが。


 流石冒険者ギルドなのか、すぐに縄が持ってこられアランは拘束された。

 そんな彼は悔しそうにこちらから目を逸らしている。

 そんな彼の顔を手で挟み強制的にこちらを向かせる。

「先ずはすまなかった。お前の方が俺の能力値より1.5倍〜2倍高いと判断したからわざと挑発した。悪かった。だが、その後の剣を抜こうとしたのはどういうつもりだ? 俺に返り討ちにされるか俺を殺せたとしても罪科持ちとして他の冒険者に討たれていたぞ! 俺たちが未然に防いだから良かったもののお前は死んでもおかしくなかったんだぞ‼︎」

 そんなことを言われるとは思っていなかったのか、驚いた顔をしている。

「……な、なぜだ?」

 なんとか捻り出した感じで問いかけてきた。

「どっちのことだ?」

「どっちもだ! 俺はお前達を明らかに馬鹿にしていた、どうしてそんな奴らに謝れる?

 それに剣を抜かせれば合法的に俺を殺せた、こんな面倒な話もせずに済んだはずだ!」

「確かにお前の態度は悪かった。だが相手のレベルにまで自分を下げる気はない。今回は作戦としてお前を挑発したが、本来なら無視している。それと抜かせなかったのは俺が挑発した所為でもあったからだ。まあ普通は挑発されたからと剣は抜かないだろうがな」

 うーん、みんなを馬鹿にされたのが残ってるのかやや毒を含んだ回答になってしまっている。まだまだだな、大人気ない。ほらまたなんかアランがふてくされた感じになってる。

「あとなんでそんなに余裕がないんだ? 個々の実力はあるのに」

「そ、それは……」

「なに、そいつらのパーティーは失敗続きで後がないのさ」

「ギルマス⁉︎ いつから?」

「あ、あれ? そっちは驚かないのか?」

「あんたがいるのはわかっていたからな。こんなところにいるはずのない高レベルのおっさん、態度の悪い試験官、この二つが意味することもな」

「見つかってたとは思わなかった」

「見つけたのは俺ではなくこの娘だがな」

 そう言ってミオを指差す。アランは突然ギルドマスターが出てきて口をパクパクさせて驚いている。


「先ずはこちらもすまなかった。こいつらを試験官にしたのは御察しの通り、こいつらの試験でもあったからだ。もしもの時は俺が出られるようにここにいた。まさかここまで酷いとは思わなかった……。君たちのパーティーは連携も信頼関係も出来上がっている良いパーティーだと聞いていたのでそんな君たちとの戦いで何かを掴んでくれるかもと期待していたんだ……」

 誰からそんなことを聞いたんだよ、と思ったが涙目のオヤジたちの顔が頭に浮かんだ。あいつら思ったより金を使わされたから俺らの情報売りやがったな!

「アラン君、君は彼らと戦って何も掴めなかったんだね。残念だがランクダウンだ、何が悪かったか君には自分で理解して欲しかったんだがね」

 ギルドマスターの冷たい視線に晒され、アランはまた激昂した。

「俺の実力はCランクに相応しいものなはずだ! なのに何か悪いとすれば俺の奴隷以外ないだろうが‼︎」

「そう、君は実力がある。だから君は勘違いしてしまった。パーティーになってランクが上がってからのクエストで失敗続き、ソロで上手くいっていたものだから彼女たちの所為にしてしまった。だが本当は違う」

「何が違うって言うんだ!」

「クエストの失敗は彼女たちの所為ではなく、君の所為だ」


 ねえ、この話俺たち関係ないから一旦解放してくれない? と受付嬢の方を見たら目を逸らされた……。


「俺の所為だと⁉︎」

「ああ、こんなことは教わることでもなんでもないんだ、本当は。彼女たちは奴隷だが人間だ。扱いによってやる気が変わったりするのは当然だ。なのに君のところの奴隷は目が死んでいる、どんな扱いを受けているかは調べなくてもわかるというものだ」

「奴隷に気を使えって? 馬鹿じゃないのか‼︎」

「本来なら奴隷でも一緒のパーティーで戦ううちに信頼や戦友としての意識が育つものなのだが、本当に君は……。はっきり言うが奴隷を冷遇している上級の冒険者などほぼいないぞ。自分の背中を預けることもある仲間を冷遇しようなどというものは一部だ。その一部は強敵への身代わりとして冷遇しているものだが本当に一部だ。それは貴族でもだ。冷遇してやる気がなくなったり死なれたりするよりも普通に扱い儲けをということだ。中には強くなった奴隷に発言権や褒賞を与える者もいるほどだ。そこからわかるのは君は彼女たちを人と認めず仲間と認めず、ということだ。これでどうして君の力になろうと思う?」

「だ、だが、俺はこいつらを買った主人だ!」

「彼女たちも君以外のまともな主人に買われたかったことだろう。ようするに君がパーティーの連携や何から何まで足を引っ張っているんだよ」

 そう言われ愕然としているアラン。

「彼らを見てみなよ、君に彼が襲われそうになったらみんなで防ごうとしていた。それも何も言われずに、これが信頼であり絆だ。こういうものを持ったパーティーが上に登っていくパーティーだ」

「こいつらは身内だからだろ……」

 さっきよりは力なく言う。

「いや、彼女はなんと元奴隷であったということだ。奴隷としての任期を終えても主人に仕えたいと言わしめたらしい。君は模擬戦だけでなく人間性でもボロ負けなんだよ」

「……」

「これからでも変わってくれることを切に祈るよ……」


 やっと話は終わったらしい。長い話だった。というか俺らの情報漏れすぎじゃね?

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