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闘技場のような……、もう闘技場でいいか、から二人が降りてくる。
「勝ちました、兄様!」
「おめでとうミオ、お疲れ様」
ミオの頭を撫でていると向こう側が騒がしい。
「てめー何やってんだよ‼︎」
アランが怒声をあげ、テレンを叩いた。
「申し訳ありません! ご主人様‼︎」
叩かれながらも謝るテレンを見てクオンが身を縮ませながら抱きついてきた。
「ご主人様……」
クオンは奴隷生活のことを思い出してしまったのか、身を震わせている。
抱き上げて頭を撫でる。
そんなことをしていると嫌そうな顔をした受付嬢が
「今はランクアップ試験中です。叱責は後にしてください」
と言うとアランも嫌そうに
「申し訳ありませんでした」
と謝っていた。
胸糞悪くなるがこれも現実、奴隷は買ったものに絶対服従なのだ。俺以外の勇者と呼ばれる人たちが解決してこれなかった、もしくは放置した問題だ、俺が解決できると思う方が自意識過剰だ。
クオンを助けることができたからと調子に乗ってはいけない。守るべきは他人ではなく家族なのだ。俺たちだって抱えている問題は多い。
まぁこんなことを考えていること自体がなんとかしたいと思っているからこその考えなのだが……。
「おら、次はお前だ! こいつみたいな無様を晒すんじゃねぇぞ‼︎」
と言って猫獣人の方、メルンが前に出た。武器は木槌を持った。これ金属じゃなくても危ない気がするんだけど。
本来ならクオンに頼もうかと思っていたがこの調子だと厳しいか。
リオを見る。
「いけるよ、にぃに!」
「よし、頼んだ! 厳しい戦いになるかもしれない、危なくなったら使ってもいいからな」
そう言って送り出した。
中央で二人が睨み合っている。
リオは手を下げて力を抜いている。対するメルンは両足の筋肉を収縮させいつでも飛び出せるようにしている。
「あんな小せぇガキに負けるんじゃねぇぞ! 負けたらわかってるんだろうな‼︎」
外野うるさい!
受付嬢が両者を見て頷く。
「始め!」
声がかかった瞬間、メルンが飛び出した! 瞬間的な速さはさっきのテレン以上か⁉︎
だがその軌道は直線、それをもちろん読んでいたリオは両手の力も使い、飛びのいていた。だが、そんなことは関係ないと振られた木槌によって生じた風に煽られるリオ。
それにバランスを崩されている間にまた力を溜めてリオの方向に向かおうとするメルン。
これはマズイな。相手の方が一枚上手だ。
力を溜める隙を与えなければリオで対応可能だとは思うのだが……。
やれ、リオ! そう念じると手をメルンに向けた。そして飛び出そうとしていたメルンにシャドーボールを放った。
「何ぃ、獣人が魔法だと⁉︎」
あ、外野も受付嬢も驚いている、失敗だったかもしれんが仕方がない。これ以外勝てるビジョンが見えない。
メルンは驚いて近づいてきたシャドーボールに木槌を振り、打ち消した。そのシャドーボールに隠れるように近づいていたリオが相手の懐に潜った。相手の両足を踏み、蹴りを出せないようにしつつ、首に爪を立てている。
「やめ!」
動揺しつつも受付嬢が模擬戦を終わらせた。
あれだけ騒いでいた外野が黙った。負けたメルンがびくびくしながら近づくも怒りもしない。
「獣人が魔法……だが……」
ブツブツと喋っている、不気味。
「にぃに、だいじょぶだったの?」
「うん、これしか方法がなかったように思ったし、なんとでもなるよ、きっと」
「そうなの? よかった……」
「うん、うん。勝ったね、おめでとう。お疲れ様」
頭を撫でると嬉しそうに笑ってくれた。
「こいつらではダメなようだ。残りは全て俺が出る」
表情が変わったな、そういう表情もできたのか。若干見直した、これならあるいは……。
「ご主人様、あの人たちをどうにかできませんか?」
だから上目づかいは卑怯なんだよ、クオン。
「どうなるかわからないけど少しは改善できるかもしれない。それにはクオンにこの模擬戦で勝ってもらいたい。できるか?」
少し戸惑ったクオンだったが、決めたのだろう、目つきが変わった。
「わかりました、ご主人様。勝ってきます!」
アランは木剣を持ち中央へ、クオンも向かっていった。
「あの、金属の籠手はちょっと……」
困ったような表情の受付嬢に言われる。
「あ、それ彼女のスキルで作ったものなんですけど、ダメなんですか?」
「え⁉︎」
あら、珍しいスキルだったのか周りが驚いている。
「あの、一応確認だけさせてもらえますか?」
「クオン、片方だけ消してもう一度出してくれ」
「はい」
ということで一度消してもう一度顕現させた。
「あ、本当に……。いえ、ありがとうございました」
驚いているなぁ。
両者が構えた。
「始め!」
お互いが距離を詰めた。これは距離を詰めすぎで剣には不利じゃないか? とも思ったが力が強いのか根元でも相当の力が込められているようでクオンは両手で受け流した。流してすぐに左で殴る。首を振って避ける。右で殴る。慌てて下がる。
対応できているようだがその間合いは思った通り完全にクオンのもの。両手両足を用いた素早い攻撃の前に次第に追い詰められていった。
「やめ!」
クオンの右が完全に顎を捉えたところで止まった。
「ハァ、ハァ、俺が、負けた⁉︎」
信じられないというように愕然としているアランを置いてクオンが帰ってくる。
「ご主人様、勝ちました! これでなんとかなりますか?」
「凄かったね、おめでとう。うん、これで一つはクリアかな」
ここからはちょっと難しいんだけどね。
「あいつあんなに偉そうにしといて自分がガキとか言った相手に負けてやんの〜」
「なんだって‼︎ ああん‼︎」
「うわ、負け犬が鳴いてる!」
「クソ野郎が〜〜!」
怒って襲いに来ようとするが、そこにリュミスが割り込む。
「次は私の番です。にぃに手は出させません」
「〜〜‼︎」
もう怒りで声も出せないらしい。
怒りながらも中央に戻った。リュミスが中央につくと受付嬢はビクビクしながらも周りを見て合図を出す。
「始め!」
合図と共にまたアランが飛び込んできた。全力で木剣を振り下ろしたがリュミスは軽く避けている。振り下ろされた木剣が跳ね上がり再度襲おうとしたが、それをリュミスが蹴り上げ木剣を吹っ飛ばした。そして開いた相手の手を掴み捻りながら引き倒した。早技だったな、今アランはうつ伏せに倒され、左手を捻られながら、首に爪を立てられている。
「やめ!」
「にぃ、楽勝でした!」
これは俺の意図がわかっているな。
「そうだね、おめでとう! というか二連敗、しかも瞬殺とかダッサ」
無言でアランは木剣を拾い、中央に戻った。ブツブツ呟いている、いい感じに壊れてきたか。
さて次は俺の番か、細身の長い木剣をゆっくり選んでっと。
「じゃあ、勝ってくるから!」
みんなに宣言した。わざと相手にも聞こえるように大きく言ったら震えだした。
中央に着いてさらに挑発。
「あんなに舐めてた相手に負けてどんな気分?」
受付嬢が泣きそうな顔になっている。さて仕込みは十分だが上手くいかなかったらどうしよう。 明らかに相手の方が格上なんだよね。




