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俺以外に鴉に襲われた者はいないだろうが、一応みんなを見回して確認する。うん、大丈夫そうだ。
「みんなお疲れ様、じゃあちょっと話をしようか。真ん中に集まって鴉が近づいてきたら言うから近くの人が対処してね」
そう言って大部屋中央で円になるように座った。俺の正面にはミオ。
俯いているが顔を覗き込むようにして伝える。
「さっきも言ったけどありがとうね、ミオ。流石に目に向かってくる鴉は怖かったんだよね」
「いえ、あの、私がちゃんとしていたらあんなことも起きなかったので……」
そう言ってもっと俯いてしまう。
「そうかもしれないけどその状態のミオを抱えて戦闘をすると決めたのは俺だから俺の責任だよ。それと今回のことでわかってもらえたと思うけど俺たちにはミオが必要だよ、だから変なことを考えちゃダメだ」
ミオが俺を傷付けるかもしれないと恐れ、離れるべきか悩んでいるのはわかっていた。それは心が繫がっていることもあるが、忠臣すぎるミオのことをわかってきているからでもある。
俺の言葉を聞いてビクリと身体を震わせたミオ。
「でも、私は怖いのです……。マスターを裏切るかもしれないことが……。マスターを傷付けるかもしれないことが……」
「でもミオが俺の元を離れたらヨミに絶対怪しまれるよ。それに何よりヨミは敵なのかな?」
そう、白刃があまりにも自然に敵のように話すのでそう思ってしまったが、特にヨミって敵って感じがしないんだよな。この世界に送られたっていう被害はあるがそれにもミオを俺の眷族にするなど配慮があった。
「ヨミと敵対しているわけじゃないし、念のためにミオへの命令権を隠しているんじゃないのかな? よくわからないけど神獣って強そうだから自分に牙を向けられたとき用とか」
神の獣だよ、しかも白刃曰く魔王クラスが創造した。それぐらいの用心があって当然のような気がする。
「だから気をつけるのは敵対することになった場合からだと思うんだよね。ヨミがなんで異世界人を連れてきているのかもわからないし。事情を知って、自分の立ち位置がはっきりするまではそんな心配は要らないと思うんだ」
「言われてみるとそうだよね。そのヨミって人がミオ姉を操ってマスターを害する理由もわからないしね」
「そうですね、あの白刃という方の敵ではあるようでしたが私たちにとって敵かは全くわかっておりませんよね」
「そういうこと。だからミオは心配しなくていいんだよ。それにもし本当に無理矢理命令されて俺が襲われたとしてもみんなが止めてくれるよ、そうだよね?」
「「うん!」」
「はい!」
「それで俺もみんなが止めることが遅れた場合には致命傷を避けるように頑張るよ。だからミオは安心してくれ。それまでに回復魔法も鍛えておくから」
色々と言われて思うところがあったのだろう、みんなの話を黙って聞いていたミオだったが、ある程度は納得してくれたようだ。
「それに白刃はミオを解放することができると言っていた。その為にも頑張って強くなろう。その為にはみんなの協力が必要なんだ。誰一人俺は欠けることを許容する気はないよ」
みんなを順番に見ていき、俺の思いを伝えていく。
「何があっても眷族を手放すことも死に別れることもだ! 家族と別れるのはもう耐えられそうにないしね……」
あ、思わず出さなくていい方の本音まで出てしまってみんなが悲しそうな表情を俺に向けてきていた。
本当にしまったな……。
「だからね、ミオは一緒にいていいんだよ。いやみんなが一緒にいてくれなきゃダメなんだ、俺が」
その空気を振り払い、一番伝えたいことを言った。ちょっと恥ずかしかったが本心だ。
ミオもそうだが、みんなが感動したように目尻に涙を浮かべながら俺を見ている。そしてしきりに頷いている。
あれ、そんな感動するようなこと言ったか俺? みんながいないと生きていけないとか、寂しいと死ぬ兎レベルに情けないことな気がするんだが……。
「マスター、ありがとうございます。これまで以上に家族としても眷族としても尽くします」
「本当にね、そんなこと言われたら頑張っちゃうよ! 家族もマスターも守ってみせるんだよ! マスター、ありがとう!」
「ここが私の居場所、みんなが私の家族。魔王だからと遠慮するのはもうやめます! その力でみんなを守れるようになります! ご主人様、見ていてください!」
「あるじさま、りおもかぞくいっしょがいい! つよくなる!」
あ、ああ、俺は恵まれているな、俺の方こそ頑張るよ! 溢れそうになる涙を上を向いて耐えていたが、その後みんなに抱きつかれて決壊。みんなで泣いてしまった……。
側から見ると大人の男と幼女四人が抱き合いながら泣いているというカオスな場面だと冷静になった後に気がついた。
みんなとの絆も強くなり、今後のことを考える。身の安全の為に強くなる予定だったが、事情が変わってきた。
白刃は言った、元の世界に戻るにもミオを解放するにも弱いと。どれだけの力が必要なのかわからないが、ダンジョン、深く潜れば潜るだけ強い敵が出るのはゲームでは常識だが、このダンジョンにも当てはまるようだ。過去の記録によれば、勇者パーティーが63階まで行ったのが最高らしい。
このダンジョンが神に反逆する為の訓練所だとしたらここ以上に力をつけるに適した場所はないのではないだろうか。勇者パーティーでも63階、まだ先があるようだし、どこまでも強くなれるだろう。よし、ここで力をつけよう。必要な力を身につけたら白刃が来るだろう、なんとなくそんな気がする。
そうと決まれば先ずは明日のランクアップ試験だな。
「明日なんだけど、先ずはミオに試験を受けてもらう。多分なんだけど一斉に試験とはならないと思う。で、その相手の動き次第で魔法を使うか使わないか決めようと思う」
「どうして魔法を?」
「いくらギルドとはいえ実力は隠したほうがいいだろう。それに俺たちは魔族と魔物の魔法を使っている。もし人間式魔法と違いがあったら面倒なことになると思うしね」
まあ用心し過ぎな気がするんだが、バレたらアウトなのだから慎重な方が望ましいだろう。
「私も直接ヒトの魔法は見たことがないのでわからないのですが、ご主人様が同じ方法で使われているので同じなのではないでしょうか?」
「そうかもしれない、が違うかもしれない。特に俺は魔法の才能はなかったようだし」
俺の魔法は眷族から教わったものだから当てにならないと思う。
「だから一応気をつけて、でもCランクにはみんな上がるつもりだからマズイと思ったら魔法使ってもいいよ。特にリオは魔法主体だから厳しいだろうし」
魔法を使う娘たちはその言葉に頷いた。
その後、魔法を使わない素手での一対一の模擬戦をすることにした。なぜ素手かは刃付きの武器は流石に怖かったからだ、使うのも使われるのも。
認識が変わり、思考を加速させることができるようになったので模擬戦中に慣らした。それでやっとみんなとまともに模擬戦をすることが可能になった。以前までは見えなかった動きが見えるようになったので心眼を使えばそこそこ活躍できた。
最後にみんなで一斉に戦ったがなぜかみんなが俺に襲ってきた、なんで? 俺が一番弱いと思うんだけど……。最下位は俺、一位はリュミスだった。
明日に向けての準備ができたので宿に帰って早めに眠ることにした。明日のランクアップ試験は頑張ろう。




