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「俺が感じ取った資格者はお前のようだな」

 よくわからないことを告げた男の声は意外と年若い男のそれだった。あんなに恐ろしい雰囲気とは合わないのでは? と感じさせられるほど年若い。だが、威圧感を感じさせる口調だ。

「あなたは何者ですか?」

「鑑定くらいしているのだろう? 俺は白刃(しらは)、簡単に説明すると隠しボスと戦っている者だ」

 か、隠しボスですか? いきなりゲームの話が入ってきてどう対処して良いのやら……。

「それはヨミのことですか?」

「ヨミ? ああ黒巫女か、あれはせいぜい魔王くらいだな。というかこの喋り方面倒になってきた。あ、お前も普通に喋っていいぜ、そっちの嬢ちゃんも」

 そう言って今まで出していた雰囲気も収めた。


「そちらの言うことを信じ「それに俺が殺す気なら『チン』もうお前ら死んでるぜ」

 ミオの台詞に被せられた発言の間に何かが起きた、知覚はできなかったが俺の心眼は捉えてはいた。神速で居合を放ちやがったこの男。

 足元に溝ができている。しかもこれを魔法的な補助など一切なしで成したようだ。逆らうだけ馬鹿らしい、本気なら一瞬であの世か……。

「力量差はわかっただろ? だから神獣、霊獣、魔王、狼の嬢ちゃんたちも普通にしてな」

 こちらの正体も完全にバレているか、本当に何者なんだこの男?


「さてと、まずは資格者のお前の質問になんでも一つ答えてやろう。その為にここで待っていたのだから。ここなら安心して質問できるぞ、昔神への反逆の為の訓練所として作られたのがこのダンジョンのようだ。ダンジョン内は神ですら見られないように様々な妨害がなされている」

 だからなんでそんなこと知っているんだよ! まあいい、一つだけなら決まっている。

「元の世界に帰る方法はあるのか?」

「ある。というかそれなら俺の力だけでも可能だ」

「なら帰らせてくれ‼︎」

「今のお前では無理だ。いくら資格者とはいえ弱すぎる。そんな状態で世界を渡れば死ぬぞ」

「ならなぜ俺はこの世界に来れたんだ?」

「それはこの世界が他の世界から人を連れてくることを前提として作られているからだ。世界が来ることを肯定しているから来る分には負担がないのだ。逆に出ることは想定されていないから負担が大きい。帰りたければもっと強くなることだな」

「作られた?」

「おっと、喋りすぎたな。まあ安心するがいい。三回目に俺に会ったとき希望すれば俺が元の世界に送ってやろう」

「本当か⁉︎」

「ああ、本当だ。さて質問タイムが終わったからアドバイスに移るか。まずお前は刀を使うな?」

「ああ、なぜわかる?」

「使う奴が見れば一発だ。使う刀を見せてくれないか?」

「あ、ああ」

 よくわからないが顕現させた。


「酷い出来だ、これは酷い。火魔法を覚えろ、そうすればこいつは本物に生まれ変わるだろう。次に周囲の動きを空間的に把握できるスキルがあるようだがなぜ自分に使わない?」

「は?」

 なんで自分に使うんだ? 戦っている最中に自分の動きを確認するか普通?

「わからないか。素振りのときや雑魚相手のとき自分に使えば動きの悪いところなどを把握できるぞ。把握できれば次にどう直せばいいか剣術スキルや刀術スキルが教えてくれるぞ」

 まさかそんな使い方が⁉︎


「最後にそこの神獣の娘には気をつけな」

 ミオを見ながら今までよりも真剣に告げる白刃。ミオを?

「それは私がマスターを裏切ると言っているのですか?」

 ヒィィっ口調は変わらないのにとても怖いです、ミオさん。

「お前の意思では裏切らないだろうさ、でもいざとなれば敵になるだろうな」

「私が、マスターの、敵に、なる? 侮辱するのもいい加減にして下さい‼︎」

 ヒィィィ……。ミオさんマジギレです。

「お前のマスターはそいつだが、お前の創造主は誰だ? どうせ黒巫女だろう? なら命令権はそいつより黒巫女の方が高いはずだ。お前がどんなにマスターを裏切りたくないと思っても黒巫女の命令が優先される。そんなことにも気がつかなかったのか? ああ、黒巫女に思考誘導されて気がつけなくされたな」

「そんな! そんなはず! え、えあ⁉︎ あ、ああ、ま、マスター、わた、わたしは、こ、このひとの、言う、通り、です。こんなことにも気づけないなんて……」

 ミオが震えている。怯えたように、世界に裏切られたように。

「大丈夫だ、ミオ。俺はミオを信頼している。だから大丈夫だ」

 抱きしめて、怯えなくてもいいんだと一心に思う。

「どうすればミオをヨミから解放できますか?」

「方法はあるがこれもまたお前の力不足だな。黒巫女にとっても神獣の嬢ちゃんへの命令は切り札だろう。それを知られたくないはずだからそうそう使わないだろう。だが、一応用心が必要だからアドバイスをした」

「なぜこれほど俺たちに?」

「お前が資格者だからさ、資格者が何かとか聞くなよ。ネタバレほどつまらないものはないし、それよりも知れば歪む。ああ、嬢ちゃんたちに敵を見る目で見られてる⁉︎ 俺の立ち位置は今、お前らの敵の敵だけど、どちらかといえば味方側なのに……」


 少し落ち込んだ様子で何か袋を投げてきた。

「これは?」

「お詫びと懐柔策の為の秘密兵器さ。俺もお前達を待つ間暇だったから、それを使ってここの四階で暇をつぶしていた。

 四階の大部屋で極少量だぞ、絶対に極少量だからな、それを使ってみな。嬢ちゃんたちは喜ぶだろうさ」

 よくわからないが

「ありがとうございます?」

 あ、よくわからないから疑問形に。

「まあこいつを使って神獣の嬢ちゃんを慰めてやんな。もし次も会うことができたら二つくらい質問に答えてやるから何を質問するか考えておくんだな、じゃあまた会えるといいな」

 そう言って来た時のように音もなく去っていた。


 ミオの震えが止まるまで抱きしめて慰めている最中に、自身の身体中が汗まみれになっていることに気がついた。知らぬ間に極度の緊張状態を強いられていたようだ。

 世界は広いというか、なんなんだアレは。まず間違いなく人間ではない。というかあんな人間居てたまるか!

 みんなを見渡せる余裕がやっと出てきて見るとみんな座り込んでいた。


 みんながある程度落ち着いた後、これ以上のダンジョン探索は止めて宿に一度帰ることにした。幸いまだ一階だったので逃げ帰るようにダンジョンを後にした。帰り道でも精神が不安定になっているミオのことを心配しながら。

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