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みんなが起きたのでとりあえず降りて朝練をしてもよい場所を聞いてみる。
「おはよう」
「おはよう!」
ミカちゃんがカウンターにいたので挨拶を交わした。
「何処か鍛錬できる場所ってある?」
「この街の冒険者なら朝もダンジョンに入ったりしてるよ。鍛錬もダンジョンでするのが一般みたい」
ダンジョンで鍛錬かぁ、考えもしなかったな。
「そうなんだ、ギルドで聞いてみるよ。で、今日のところは、剣を振るだけだから何処か場所を貸してくれないかな?」
「う〜ん、じゃあ庭の井戸から離れたところならいいよ」
「ありがとう、じゃあまた」
庭で素振りを剣ではなく刀に変えて振ってみたが、やはりしっくりくる。黒魔法を纏わせてみる。
黒蝕! と念じると刀に黒いものが纏った。これは獣人の罪科持ちアンリに使ったものだ。効果は単純、触れたものに不快感を与える、ただそれだけ。この刀に触れた武器、防具にも少し影響を与え、持ち主に違和感を与える。状態異常にするほどの力がなかった黒魔法で最大の効力を発揮させようと考えて作った魔法だ。格上にはあっさり負けるがそれでも隙を作り出せるし、同格なら勝率を上げられる。
右手に刀、左手に鋼の剣と二刀流も確認してみるが、うん無理。能力値が大幅に増えたから行けると思ったが筋力、器用両方足りていないのだろう。二刀流に憧れていたがこれは……剣道ではあんな小さな竹刀を右手で使う訳だ。宮本武蔵はどんな化け物だったのか、初期の能力値の5倍近くなってもまだ見えないその凄さに震えた。
ミオは短剣を抜いては戻しを繰り返している。速さが上がったので微調整をしているのだろう。
リュミスは身体をアクロバティックに動かしている。能力値が二倍になるとはどんな感覚なのだろうか、と思ったが俺も1日で二倍近く上がっていた……。ただし段階を踏んでいたからか違和感はなかったが。
リオは魔法を放つ寸前まで魔力を高め、止めてを繰り返している。魔法を早く発動できればそれに越したことはないから頑張って欲しい。
クオンは相手がいると想定した戦闘訓練をしていた。シャドーボクシングみたいな感じのやつだ。速くなり一歩で踏み込める距離などが変わったのかな?
みんなに言えるがこの小ささであのスピードで接近されたら見失ってしまうよな。そう考えるとやはりあのオーク達はゴブリンが主食なんだろうな、なんか小さい相手と戦い慣れていたのだから。
適当な構えをとり、抜刀術を試してみる。うん、よくわからん。明らかに遅いし。
たしか抜刀術って鞘に入れたままでも抜刀した相手と対等に戦う為に編み出されたらしいということを聞いたことがある。ならば太刀を右手に握った状態で顕現できる俺には必要ない技術かも。でも抜刀術ってかっこいいからできるようになりたかったんだ……。
抜刀しないなら右手で刀を握る必要はないよな、ということで誰も見ていないことをミオに確認を取って左手で出せるか試した。
もう一度成功しているので楽なものですぐに顕現した。右手の物より5㎝くらい小さい気がする。これで鋼の剣との二刀流を試してみる。
うん、さっきよりもしっくりくる。これは練習してもいいな。ということで二刀流の素振りも朝練に組み込んだ。
新たな発見もあった朝練を終え、汗を流して朝ご飯を食べに行く。
「おはようございます、今朝食をお持ちしますね」
食堂に入ると30代くらいの女性に挨拶された。多分ミカちゃんのお母さんかな?
「おはようございます、お願いします」
少し待つと朝ご飯が運ばれてきた。
それは米だった。久しぶりに見た米だった。
「え、こ、米……」
「はい、ミカに聞いて和食、でしたっけ? 米の方にしたんですけどお気に召しませんでしたか?」
その言葉にミカちゃんのお母さんの顔を見る。少し不安そうな表情をされている。
「いえ、ありがとうございます! ここに来て米が食べられるなんて思ってもいませんでした!」
泣きそうになりながら答える。
「そんなに喜んでもらえて嬉しいわ。では毎回和食で出させてもらうわね」
「え、米ってそんなに手に入るんですか?」
「ここのダンジョンのモンスターで小豆イタチってのがいるのよ。そのモンスターのドロップアイテムとして出るから普通に食べられているわよ」
小豆イタチ? なんだそいつ? わからないがそいつのおかげで米を食べられるなら感謝しよう。ダンジョンで会ったら虐殺確定! 見敵必殺!
「そうなんですか、じゃあ米でお願いします!」
「はい、わかりました。ささ、冷めないうちにどうぞ」
という言葉にご飯を食べることにした。
「いただきます」
「「「「いただきます」」」」
箸が添えられていたのでそれを使って食べる。うん、これですよ、日本人なら米を食え! パンなんて食ってんじゃねぇ! 米農家に金を回して米の自給率も増やすんだ! なんて関係ないことまで考えてしまうほど久しぶりに食べる米は美味かった。そこで箸をみんなが使えるのか気になり周りを見渡した。
あれ、みんな普通に使えている……。なんとなく眷族化の影響な気がする。
ご飯を食べ終わり、ミカちゃんにキーを渡して宿屋を出た。最初に行くのはギルド、昨日見たばかりだがやはりデカイな。
お、流石に朝から呑んでいる奴はいないみたいだ、昨日から呑んで酔い潰れて寝ている奴はいるけど。
いつも通り美人の受付嬢のところに行く。心なしかクオンの目が俺を責めている気がする。これが被害者意識というものなのか? そんな無言の圧力には屈さず受付嬢に話しかける。
「おはようございます」
「おはようございます、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「ダンジョンについて聞きたいんだけど、初ダンジョンでよくわからないから一通り説明してもらっても構いませんか?」
「はい、大丈夫ですよ。ダンジョンは基本的にどなたでも入ることができます。ただしこの街の名物ダンジョンである妖宮の地下10階層のボスに挑むのはCランク以上になってからの方が良いとされています。ダンジョンにはダンジョン入り口までのワープゲートが5階層毎に設置されています。またボスは10階層毎におり、ワープゲートと次の階層への階段を守護しております。ダンジョン脇の建物にもワープゲートが設置されており、そちらは自分が行ったことのあるゲートを選択してワープすることができます。あとは11階層以下の魔物を15体倒されるとCランクのクエストを一つクリアしたことと扱われます。また10階層毎にランクが上がります。例えば21階層以下の魔物ならBランクのクエストとして扱われます。このくらいでしょうか、何か質問はございますか?」
「ワープゲートとか便利な機能があるんですね」
「はい、なのでこのダンジョンは自然に発生したものではなく、人工的な物ではないかと言われております」
「なるほど、ありがとうございました」
その後少し雑談してダンジョンは登る物と降りる物があることがわかった。どちらも地面に直接穴が開いていて、中に入れるように階段があるらしい。登る場合も上に何もなく、降りる場合も掘ってもダンジョンはなかった。これらのことからダンジョンは亜空間に存在しているのではないかと言われている。入り口がその場所と直接繋がっているとの考えらしい。ダンジョンの魔物も稀に外に出てくることがあるので冒険者をダンジョンに入れたいようだ。
そして、オススメの鍛冶屋と防具店の場所を聞いた。宿屋で聞いた店と同じ店を紹介されたので信じて向かうことにした。




