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とりあえず変な空気になることもなく終わったのでみんなで寝ることにした。
「今日はくーちゃんにマスターの右を譲るのです」
突然ミオがそんなことを言い出した。あのミオさん、俺結構動揺してるんでそういうのはちょっと……。
「え、いいんですか⁉︎ ミオ様」
「ミオ様なんて他人行儀ですよくーちゃん。みーちゃんと呼んでください」
なんか猫みたいだなと思ったが言うのはやめた。
「み、みーちゃん、いいの?」
「はい、でも今日だけですよ」
「ありがとう、みーちゃん!」
いやぁ、喜んで抱き合ってるロリっ娘を見るのは眼福だねぇ、なんて意識を飛ばしていたけどベッドに連れられてクオンが右に来るとなんか緊張してしまう。俺はロリコンじゃない筈なんだが……。
なんかミオやリュミスが少しこちらを見ているし、クオンの顔が赤くなってきたからこの感じだと俺の緊張もバレているようだ。たまに眷族の効果がなんとかならないか? って思う。
ああもうやめやめ、無心になれ。右腕に抱きつかれている感覚もしたがそれも知らん。
「みんなおやすみ」
「「「「おやすみ(なさい)」」」」
朝、何か胸に圧迫感を感じ寝苦しくなり、目覚めるが身体が動かしにくい。何これ、金縛り? そう思って視線を下げると布団の胸のところが膨らんでいた。これは誰かに乗られているわ。これはリオだな、俺がベッドの真ん中でリオはリュミスの横に寝ていたはずだったが、こっちに来てしまったようだ。
次に動かない腕、これはクオンとリュミスにがっちり抱きしめられている。うん、俺の能力値ではビクともしないや……。まあ折れたりしていないことに安堵するべき場面なのかな?
足はミオが動かないように両腕で挟みその間に寝ている。うん、足も動かせません。
この状況、下の弟が見たら何て言うだろうか? 上の弟? あいつはなぜかロリコンじゃないくせにロリコン擁護派だったから知らん。一度ロリコンって恋愛対象と付き合うだけで犯罪とか可哀想だとか食卓で言って空気が死んだことがあったからね。
まあいいや、ミオやクオンが起きていないならまだ寝ていてもいい時間だろう。少し寝苦しいが気にせず目を閉じた。
しばらく微睡むような感覚になっていたが誰かが起き出した音で目が覚めた。
「ご主人様、おはようございます。起こしてしまいましたか?」
「おはよう、クオン。半分起きていたようなものだから気にしないでいいよ」
お互いに挨拶を交わして起き上がろうとしたがまだ抱きつかれたままで自由に動くことができるのは右腕だけだった。
まあミオはすぐに起きるだろうからいいんだけどね。
「みーちゃんはいつもなら起きている時間なんですが、やはり二日間で疲れがあったのかもしれません」
なら寝かせておいてあげよう。
クオンだけ起きていて右腕が使えるということで
『ステータス』
名前 クオン(紅音)
種族 ヒト{魔族(未覚醒魔王)}♀ Lv16
称号 {憤怒の化身(未解放)} 元奴隷
能力値省略
種族スキル
魔力吸収(弱) 魔力操作(弱) 魔力解放(弱)
(エキストラスキル)
(未解放)
(ユニークスキル)
(未解放)
スキル
火魔法Ⅱ 木魔法Ⅰ 武器顕現Ⅱ 拳闘Ⅰ 家事Ⅴ
クオンのステータスを見て武器顕現を試してみることに決めた。それにしてもクオンはレベル16になったが少なくとも16歳には見えない。レベルアップで成長するがレベル=年齢ではないようだ。見た目的には10代前半に思える。それに奴隷商に居た頃は栄養状態も悪かっただろうことが考えられる。成長が阻害されていてもおかしくない。それでも成長している気がするので彼女が大人になる期間が長いことに悪いとは思いつつ安堵する。期間が長ければ彼女の気持ちが変わることもあるだろうし、俺の気持ちが変わることもあるだろう。
そんな考えを頭の隅に追いやり、クオンに話しかける。
「みんなが起きるまでにクオンの武器顕現を見せてくれないかな?」
「はい、では」
そう言って魔力を両腕に集めていく。もう慣れたのかその速度は速く一秒もしないうちにそれが外に出て籠手を形成する。
「その魔結晶だったっけ? なんとなくそれが武器顕現を補助している気がする。辛くならない程度に何度か出したり、消したりしてくれない?」
「魔結晶は空気中の魔力を集めたり、魔道具に使われたりするのでそういう効果があるのかもしれません。では始めます」
その声に俺は目を閉じて集中していく。クオンが武器を消すと、魔結晶に魔力が戻るのが確認できた。顕現するときにも魔結晶の周りに空気中の魔力が集められる感覚があった。
しばらくクオンが武器顕現を使うのを感覚として理解していく作業に没頭し、ある程度取っ掛かりが掴めた気がしたので、武器顕現を使おうとした。
すると何かを求められるイメージがした、きっとどんな武器にするかのイメージだとなんとなく理解した。ならば俺は刀をイメージする。実際に使ったことなどないので昔一度見た真剣を思い浮かべる。そして決して曲がらず、折れず、刃こぼれせず、火にくべられ何度も金槌を打ち付けられて作られるイメージ。
しばらく思い思いの刀を考えていると右腕に魔力を求められた気がして魔力を流した。
右手が何かを握った。目を開けるとそこには一振りの太刀。
「おめでとうございます、ご主人様!」
「ありがとう、クオン」
我が事のように喜んでくれるクオンに嬉しくなりつつも刀を見る。
剣道で使っていた竹刀からか長さは120㎝くらいに感じる。もしかしたら分類的には大太刀となるのかもしれない。重さはしっくりくる重さというか、重すぎず、軽すぎずという、やはりしっくりくる重さとしか言えないな。ただやはりイメージが鮮明でないのが理由か昔見たあの真剣のような一眼見て惹きつけられるような、心から憧れるようなあの感情は湧いてこなかった。
一見すると刃紋も綺麗なだけにこれじゃない感がする。紛い物、しかしこれが俺の刀なのだろう。武器顕現のレベルが上がるか本物をじっくり見ること、製造過程を知ることで本物に近づく気がする。
「すごく美しい武器ですね、ご主人様の故郷の武器ですか?」
「ああ、そうだ俺の故郷の武器だ。でもこれは形だけ真似た、まだまだなものだな」
「そういえばご主人様の故郷はどのようなところなのですか?」
「そういうば言ってなかったっけ? 俺の故郷は異世界だよ。そこの日本という島国さ」
「え?」
よくわからないという顔をしたのでこれまでのことも合わせて説明した。
「そんなことが、俄かには信じられませんがご主人様が本当のことを語っているのはわかります。それで、もしかして使徒様とは……」
「ああ、皆異世界人だろう」
「なるほど、でもこれでわかりました。なぜご主人様がたまに悲しそうな顔をしていたのかが……」
「……」
気づかれないように気をつけていてもダメだったみたいだ。
「ご主人様、辛い時は頼ってくださっていいんですよ。私の居場所をくださったご主人様。私も貴方の居場所になりたいと思います」
「もうなっているよ、みんなは。ただ、どうしても思い出してしまうんだ。だから気にしないで」
そう、どうしようもないことなのだから。心配そうなクオンの頭を撫でて
「ありがとう」
気持ちが伝わるように目を合わせてお礼を言う。
「それでミオはいつまで寝たフリしてるの?」
俺がそう言うと足にくっついているミオがビクッとなった。クオンもビクッとなった。
「マ、マスター、いつから気づいていました?」
「最初から」
「みーちゃん! ご主人様も知ってたなら教えてくださいよ〜〜‼︎」
ミオは気まずそうに目を逸らしている。そしてクオンは恥ずかしそうに叫んだ。
「何々うるさいよぉ」
「ん〜、おはよ」
みんなも起きてきて今日も騒がしい朝がやってきた。




