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クオンが号泣し、俺が意味不明な状況に混乱して取り乱している中
「マスターの返答も悪いですがこれはくーちゃんの台詞がマズかったですね……」
ミオがあちゃーという感じに額に手を当てている。
「そうだね、これはマスターを責められないかな」
とりあえず、この2人は状況がわかっているらしい。
「落ち着いて、くーちゃん。一からちゃんと説明しましょう」
とりあえず、ミオはクオンを慰めている。
「マスター、大丈夫だよ。クオンはマスターから離れたいわけじゃないんだよ」
「そうなのか? でもあの台詞だと俺以外の人に仕えたいんだと思ったんだけど……」
「そこはマスターもくーちゃんを信頼してあげて欲しかったです……」
批判的な視線を浴びる……。
「そこはごめん。でもいや、言い訳になるか、本当にごめん」
クオンの目を見て頭を下げて謝る。
クオンが落ち着いてきて説明してくれる。
「こちらも申し訳ありませんでした。奴隷を辞めることを許していただけたら、ご主人様の眷族にして欲しいのです」
うん? 奴隷は辞められないんじゃなかったっけ?
「実はくーちゃんにマスターの眷族になりたいと相談を受けていました。それでりゅーちゃんとも話し合った結果、くーちゃんが眷族になることは可能かも知れないのですが、その場合、奴隷からは解放される確率が高いのです」
「そうなの?」
「うん、マスターの眷族化はエクストラスキルだから、奴隷の首輪の効果を上書きしちゃうと思うんだよね」
「そうなんだ。あ、いや、それ以前に人? 魔族か、魔族に眷族化って使えるの?」
「それはわからないのです。しかし可能だった場合は奴隷から解放されてしまいますので、ご主人様に確認を取ってからと思いまして……」
最近クオンが羨ましそうな表情をしていたのは眷族になりたかったからなのか。
「奴隷から解放されるかもしれないなら眷族化を使ってみようか」
そう俺が言うとクオンは驚いている、奴隷から解放したくないから眷族化を使わないと思っていたのか?
「え、よろしいのですか?」
その言葉にちょ〜〜と怒りを覚えたので、クオンの頭に両手を持って行き、髪をくしゃくしゃにする。
「え! え、え〜〜⁉︎」
「俺がクオンを奴隷扱いしてたか? そんなに俺は信用ができない男だった?」
クオンのことを信頼できなかった癖にという批判は受け付けません、悪しからず。
「いえ、ご主人様なら、ご主人様なら良いよって言ってくれるかもって期待して、でもそんな人いないって、グスン、ありえない、っで、じっでだがら……」
また泣き出してしまうが今回は理由が違うから良いよね。俯き、震えている小さな身体を抱き上げる。
クオンが眷族になりたいと願ってくれるなら叶えてあげたい。
「クオン、俺の眷族になってくれる?」
「はい、なりだいでず、ごじゅじんざま!」
その言葉を聞き、心から願う。
『眷族化』
するとクオンの首輪が外れた。……成功! 成功だよな! 俺とクオンのステータスを!
『ステータス』
名前 ユー(長谷川佑衣斗)
種族 ヒト♂ Lv4
称号 (異世界人)
HP 636
MP 434
攻撃 54
防御 49
速さ 64
知識 48
精神 43
器用 57
運 25
スキル省略
{眷族(4/4)}
(ミオ リュミス リオ クオン)
能力値も増えているし、眷族欄にクオンの名前がある。成功したようだな。
名前 クオン(紅音)
種族 ヒト{魔族(未覚醒魔王)}♀ Lv16
称号 {憤怒の化身(未解放)} 元奴隷
HP 1540
MP 660
攻撃 154
防御 66
速さ 154
知識 66
精神 66
器用 154
運 15
忠誠 90
スキル省略
元奴隷という称号を得ている、それ以外は変化はないのかな?
「クオン成功したよ! これでもうクオンは奴隷じゃないよ」
「おめでとうございます! マスター、くーちゃん」
「きゅ、おめでとう!」
「おっめでとう〜!」
「ありがとうございます‼︎ みんなが喜んでくれているのが伝わってきます! これが眷族なんですね!」
うん、クオンの嬉しい気持ちも伝わってくる。やはり一人だけ眷族ではなく、気持ちが伝わっている場面などで寂しい思いをさせてしまっていたのだろう。少し反省せねば……。
しばらくみんなで騒いだ後
「これまでクオンは変に遠慮とかしていたけど、これでもう奴隷じゃないんだから、遠慮とかしなくていいから。言葉遣いもね」
「はい、言葉遣いは難しいかもなんですが、ご主人様が心から言ってくれているのがわかるので遠慮しないようにします」
まだご主人様って呼ぶの? とそんなことに気をとられているとクオンが近づいてきていた。
「もう遠慮はしません」
そう言うと抱きついてキスをしてきた! え、え〜〜⁉︎
「きゅ⁉︎ きゅ、きゅ‼︎」
「お〜! お〜!」
「くーちゃん⁉︎」
周りも慌てているが、俺が一番慌てている……。
「俺のファーストキスが……」
嬉しい気持ちもあるが、何かを失った悲しみもあり、なんかごちゃごちゃした感情が……。
「え、えへへへぇ〜〜、ご主人様のファーストキスをもらってしまいました……。あ、もちろん私もファーストキスでしたよ!」
「それは……ありがとう?」
真っ赤な顔で恥ずかしそうに言われてしまうともう何にも言えない。これでなんで? とか聞くのもマズイだろうが、これだけは幻滅されても聞かなければ。
「クオンは、俺のことが好き、なのか?」
「え⁉︎ あ、はい……」
「マスター普通そんなこと聞かないですよ……」
「デリカシーがないよね」
なんかクオンがシュンとしてしまい、周りから批難の視線が……。
「ごめん、普通は聞かないことだけど、はっきりしたくて。それと俺のことはご主人様じゃなくて名前で呼んでもいいんだよ」
「いえ、はっきりしたいのは私もだったので大丈夫です。それとご主人様を尊敬もしています、このままご主人様と呼ばせてください」
それがいいというならいいんだけど。今までクオンを小さい娘扱いしていたが、この娘は見た目よりは年を重ねている。そういう感情があっても当たり前だが、そういった感情を向けられ慣れていないので考えもしなかった。好きと言われて俺のことを思ってくれていると繫がりから感じられるようになった。
「これは、あれかな? 付き合って欲しいとかそういうことなのかな?」
「いえ、私の気持ちを伝えたかっただけで見返りを求めてはおりません。最初に助けていただいたときから優しく暖かかったご主人様に惹かれておりました。奴隷の私を家族として扱ってくださいました。ご主人様の優しい笑い顔が好きです、だからわかってしまうんです。妹か娘を暖かく見守る笑顔だということが、繫がりを得てもっと強くわかっちゃいました」
この言葉を聞いて申し訳なく思う。こんなに真摯に思ってくれているのに。
「すまない、クオンくらいの年代の娘をそういう目で見ることができないんだ」
嘘偽りのない気持ちを伝えたくてしっかりと目を見て答えた。
「それでは成長したら可能性がありますか?」
そうだな、あるかもしれない。未来はわからないし。
「それでは頑張って成長します!」
「楽しみに待ってるよ。あと好きと言われて嬉しかった。とりあえずこれまで通りよろしくね」
「はい、ご主人様!」
こうして意識はしてしまうもののクオンの件は解決した。ミオやリュミスから少しもやもやした気持ちが伝わってきていたがまあ突然キスとかあったら仕方がないよな。自分に彼女ができないのに弟に彼女ができたときみたいな……、いや違うか?




