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 しばらくすると腰の曲がったおばあさんを連れてミカが帰ってきた。

「ほらおばあちゃん、この人だよ。おばあちゃんの恩人と同郷の人かもしれないのは」

「おやまあ、本当にあの人と同じ黒い髪に黒い瞳、同郷の方だねぇ〜」

「はい、たぶんそうなのだと思います」

「それじゃあ少し聞きたいのだけれど、ミカミコウキ、彼を知っているかい? 故郷に帰ると言って去っていったのだけど、それ以降のことが一切わからなくてねぇ」

 その言葉にすぐに答えることができなかった。ミカミコウキ、三上弘毅、先生なのか?


「あ、あの、もしかして、もしかしてなんですが、その人左腕と顔の左側に大きな傷痕がありませんでしたか?」

「⁉︎ もしかしてあの人を知っているのかい?」

 この反応、そうなのか……。

「三上先生はここに来ていたのか……」

「どういう関係だったか聞いてもいいかい?」

「そんなに深い関係だったわけではありません。私が小さい時に勉強を教えてもらったのです。勉強以外にも色々と教えてもらいました。クワガタの幼虫をもらったり、面白い話をしてくれたりと。先生の影響を凄く受けました」

「そうかい、あの人は無事に故郷に帰れたんだね……」

 なんか、勘違いされてしまった。しかし、違和感を感じるな……どこに感じるんだ?

「すいません、三上先生がここに来たのはいつ頃ですか?」

「もう五十年は昔になるね、ふらっと現れて賊に襲われそうになっていた私を助けてくれたんだよ。そしてふらっと去っていってしまった」

 五十年⁉︎ 先生が行方不明になったのは十年前のはずだ。ここに違和感を感じていたのか。俺は、先生が故郷に居たころの生徒でもよかったはずなのに、おばあさんは故郷に帰れたと言った。こういうのも時差と言うのだろうか?

「そうですか、ありがとうございます」

「何かあの人のことで知っていることはないかい?」

「あまり良い話ではないですが良いですか?」

 確認を取る。先生がなぜこの世界に来たのかわからないが自暴自棄になっていたのは聞いていた。そして行方不明、まさか異世界に行っていたとは……。

「お願いするよ」

「それでは、先生は教師をしておられました。熱心な先生で子供にも親にも慕われる良い人でしたが、ある時、悲劇に襲われました。

 事故で奥さんとお子さんが亡くなってしまったのです。事故にあった時、お子さんを救おうと伸ばした左腕と顔の左側に大きな怪我をしてそれからは生気を失った様子で話しかけても反応がなかったそうです。その後、退職し行方不明になったそうです。その頃のことは知りませんでしたが、ここに来ていたのですね。その後、戻られた先生は教師に復職し、俺の先生でもあったということです」

 最後のは嘘だ。話を合わせただけだ……。

「まだ、彼は生きておられますか?」

「申し訳ありません。私も長いこと帰れてはいませんのでわかりません」

「そうですか、彼はそんな時に私を助けてくれたのですね」

「そんな時だから放って置けなかったのではないですかね? それでなくても優しい人でしたから」

「そうですね、話してくれてありがとうねぇ〜、話しづらいことだったでしょう」

「いえ、久しぶりに先生の話を聞けて嬉しかったです。それはそうと」

 声を落とし、おばあさんの耳元で囁く。

「もしかして、ミカちゃんは先生の血を?」

 こちらも声を落とし

「はい、子供ができていまして、その後、子供が居ても良いと言ってくれた今の主人とこの宿屋を盛り上げてきました」

 ハーフっぽいと思ったらクウォーターだったのか。

「ミカの名前もあの人のミカミから取ったのですよ」

 そうだったのか。


「ありがとう、長々と話してすまないね。それで泊まるのかい?」

「はい、とりあえず一週間でお願いします」

「一週間でいいのかい?」

「知り合いに家を借りた方が安いと助言を受けまして、探してみようかと」

「それならうちの使っていない離れを使うかい? あの人の弟子ならタダでいいから」

「良いのですか? お金なら払いますけど」

「良いんだよ、私達夫婦が暮らしていたんだけど、夫が亡くなってからはこっちに移って息子夫婦に世話になっているから誰も使っていないんだよ。ただ、使えるようにするから一週間はここの宿に泊まってもらおうか」

「泊まるのは構いませんが、手伝いましょうか?」

「馬鹿を言っちゃいけないよ、あんた冒険者なんだろう? ならそんな新人の仕事ではなく、モンスターを倒して街に貢献してくれた方が嬉しいさ」

「わかりました。厚意に甘えさせていただきます」

「それでいいんだよ、若い子は」

「それで結局一週間泊まるってことでいいの?」

 会話に入ってこなかったミカちゃんが痺れを切らしたように聞いてくる。

「うん、あ、食事付きをお願いするけど、今日はもう食べてきたからいらないよ」

「そう、じゃあ少し値引きして金貨1枚でどう?」

「それでお願いするよ」

 金貨1枚を手渡す。

「部屋は五階の503室ね、広い部屋だから満足してもらえると思うよ。食事は朝の五時から八時、夕方の六時から九時の時間帯に食堂に来てね」

「うちの中でも良い部屋だよ」

「ありがとうございます、ではまた」

 そう言ってカードキーを受け取り、部屋に向かう。


 部屋は確かに大きかった。寝室とリビングに分かれており、寝室もキングサイズのベッドが二つくっついていた。かなり良い部屋にしてくれたようだ。


 荷ほどきをして、リビングのソファーに座る。ソファーも上物のようでふかふかだ。旅の疲れもあり、座ると動くのが億劫でしばらくゆっくりした。みんなもそれは同じようだった。

 このままでは寝落ちてしまうかもしれないので気合を入れて風呂に向かった。一日風呂に入らなかっただけでも凄く不快だったので念入りに洗って風呂に入った。風呂はみんなで入れるくらい大きく足を伸ばしてくつろぐことができた。やはり風呂は良い。


 風呂から出て、みんなをリビングに集めた。

「一応みんなを集めてみたけど、クオンは俺と二人きりの方が話しやすい? それともみんながいた方がいい?」

「みなさんにも聞いていただきたいのでこのままでお願い致します」

 ということでみんなで聞くことになった。


 なぜか空気が重い、クオンがなかなか言い出せないからか……。

「ご、ご主人様の奴隷を辞めさせていただきたいのです‼︎」

 ‼︎ 瞬間、頭を殴られたような衝撃を受けた……。確かに奴隷と主人、歪な関係だろうがこの一月、俺はクオンを家族だと思ってきた。でもそう思っていたのは俺だけだったのだろうか?

「わかった、俺はどうすればいい? 新しい主人を見つければいいのか、奴隷商に引き渡せばいいのか……」

 言っていて悲しくなってきたがなんとか返答できた。少しは心の中でこんなこともあるかもと準備していたお陰だった。


「うわあぁぁぁ〜〜ん……」

 俺のその言葉を聞いて突然クオンが号泣し始めた⁉︎ もうどうなってるの? この状況……。

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