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ステータスを見て、ウキウキしてしまっていたらみんなに見られていた。やば、なんか恥ずかしい……。
「兄様どうしたのですか?」
代表してミオが聞いてきた。
「みんなのレベルが上がったんだよ!」
その言葉を聞いてみんなも喜ぶ。
「うみゅ、どうしたの?」
またクオンを起こしてしまった。
「みんなのレベルが上がったから喜んでいたんだよ!」
リュミスのその言葉を聞き、飛び起きるクオン! 危ないなぁ。とっさに捕まえる。
「クオン、危ないだろう。馬車から落ちるよ」
「そんなことより! ご主人様のレベルも上がったのですか?」
期待にキラキラした目で問われる。いったいどうしたというのか?
「う、うん、上がったよ」
それを聞いて真剣な顔になるクオン。
「今日、宿屋で少しお時間をいただけますか? お願いしたいことがあります」
「今じゃダメなの?」
「はい、宿屋でお願いします」
少し困惑し、周りを見てみる。ミオたちはなんとなくこの話の内容をわかっている気がする。周りを見た俺を不安そうにクオンが見た。
「わかった、まずは宿屋で話を聞くよ。クオンには世話になってるし、できることなら力になろう」
そう言うと安心した表情になった。とりあえず頭を撫でる。
でもなんだろう? まさか! 俺の奴隷をやめたいとか……。でも忠誠90もあるのに……。いや、数値だけを信じるべきでは……。なんて悩んでいると
「兄様心配は要らないのです。悪いことではありません」
とミオは笑っていた。そのミオとクオンの頭を撫でる。すると、リュミスもリオもと集まってきてしまった。ミオとクオンに前方の見張りを頼み、今度はリュミスとリオの頭を撫でていく。撫でられて気持ち良さそうな二人を見て俺も癒された。
その後、特に問題も無く街に着くことができた。外観は高い防壁にぐるりと囲まれている街だった。街に近づいたというのに青い顔をしたヴァルムが印象的だった。
門番にギルドカードを見せて中に入る。オリエの街との違いは、獣人が多いことくらいだろうか。
時間も遅いのでヴァルムから依頼達成書を貰い、宿屋を探そうと思ったところで、ドルトンが話しかけてきた。
「俺たちは今からギルドにこいつを連れて行こうと思うがお前らどうする?」
「そうですね、じゃあ俺たちもついていきます。オススメの宿屋も聞きたいので」
みんなでギルドに向かって歩き出す。
「そうか、あ、もしかして此処に拠点を移すのか?」
「はい、そう考えてます」
「長期で此処に滞在するなら宿より、借家の方がいいかもしれんぞ。此処は迷宮都市、冒険者が命を落とすのが常だ。だから、どこかしら家は有るし、周りは冒険者に迷宮都市に居ついて欲しいから安値で貸している。まあ家事ができるのがいなきゃならんが、お前さんには奴隷の娘がいただろ」
「なるほど、ありがとうございます」
「あと、冒険者ランクでもサービスされるらしいからCランクまで上げたらどうだ?」
「まあ頑張ってみます」
「おう。頑張れや」
そんな会話をしているとギルドに到着した。オリエより三倍はでかいんですが……。
「いつ見てもここのギルドには圧倒されるな。迷宮があるから儲かってるんだろうぜ」
「はぁ」
見上げながら気の無い返事をしてしまう。これは圧倒されるわ。
「わかるぜ、俺も初めて見たときそうなったからな」
ケケケ、と笑いながら言われると少しイラっとするが圧倒されたのは事実なのでミオやリュミスの頭を撫でて落ち着くことにする。
あ、なんか呆れた目をされた、なんだよ。撫でると落ち着くんだぜ。
ミオたちを見ると気持ち良さそうにしている。うん、うちは平常運転です。
そんなバカなことをやっていないでギルドに入ることにする。受付も多く、すぐに俺たちの番がやってきて今回のことを説明する。
青くなったヴァルムは、今や白くなっていた。
「今回のことは誠に申し訳ありませんでした。ギルドの監督不十分です、調査をして他の方にも補填を致しますが、今回のあなた方の依頼料、討伐料を二倍とさせていただき、慰謝料とさせていただきたいと思います」
「俺たちはそれでいいぜ」
「こちらもそれで手を打ちます」
「ありがとうございます、ギルドカードをお願いします」
そこからは受付を落日の刃と別れ、お金を受け取る。
「護衛料金貨2枚、モンスター襲撃を防衛で上乗せ金貨1枚、オークが15体討伐で金貨4枚銀貨5枚。これらを二倍としまして、合計金貨枚15枚になります」
「確かに」
受け取り、アイテムボックスに収納した。
「今回で護衛任務もこなされましたので、Cランク昇格試験を受けることができますがどうなさいますか?」
いよいよCランクか!
「それはいつでも受けられるものなのか?」
「はい、Cランク以上の冒険者がいればその人を相手とし、模擬戦をしてもらいます。その内容をこちらの戦闘教官に見てもらい、その結果を協議し、合格か不合格か決定します。戦闘教官は、いつもギルドにいますし、他の街ではCランクの冒険者に先に頼んでおくものですが、ここは迷宮都市、Cランク冒険者は、一人くらいいつもギルドにいます。その為、いつでも昇格試験を受けることができます」
ここのギルドには酒場があった。ここにいつもCランク以上の冒険者がいるって言っても酔っ払いじゃないのか? そんな不安が表情に出ていたのだろう。
「もちろん、お酒を飲んでいない方に頼みますし、もし酔っ払った方しかいない場合でも回復魔法で酔いを覚ましますので大丈夫です」
それは、またなんか可哀想だな……。
「明後日の朝九時くらいに受けたいから模擬戦の相手を用意しといてくれ。酔っ払いの酔いを覚ますのも可哀想だし」
「わかりました。昇格試験を受けられるのは全員ですか?」
「全員で、あ、模擬戦は一対一?」
「はい、一対一で木製の訓練用の武器を使用してもらいます」
「わかった、ではよろしく頼む」
そのやり取りが終わるのを待っていたのか、落日の刃がドアの近くにいた。
「予想外の収入が得られたな! これもお前さんのおかげだぜ。これからどうするんだ?」
「今日は宿を取って休みますよ」
「俺たちは帰りの護衛任務があったから明日には出る。その前に俺らと飯食いにいかねぇか? 奢るぜ」
「この娘たち結構食べますが大丈夫ですか?」
「結構食べるって言ってもこの身体だろ、大丈夫さ。お前も知っての通り、臨時収入があったし、治療のお礼もある」
ミオたちを見るとモンスター組は目をキラキラさせている。
「じゃあ、お願いします。後で払えとか言われても払いませんからね」
「ははは、そんな事はしねぇよ。よし、行くぞ!」
その後、案の定涙目になるおっさん連中が。だから食べるって言ったのに。どうやら俺と食べに行くときはあれでもまだ遠慮していたのだろう、みんなで金貨に届くほど食べたのではないだろうか。臨時収入の三分の一近くかぁ……御愁傷様です。
そんなおっさん連中と別れ、ギルドで紹介された宿に向かった、ギルド提携のちょっとお高く、防犯性の高い宿屋だ。
宿屋もでかい、中に入るとカウンターに若い女の子がいた。黒みがかった髪に茶色の瞳で日本人とのハーフを思い出させる女の子だ。今だとハーフはダメでダブルと呼ぶんだっけ?
「見ない顔だね、いらっしゃいませ。 宿屋月の裏側にようこそ!」
この言葉に吹いてしまう。
「あれ、お兄さんこの言葉の意味がわかる人? 珍しいね」
不思議そうな顔をされたがこっちがそんな顔をしたいわ! 月の裏側って地球からは絶対に見えない。だから安全とかそういうことだろう。というか、異世界人がこの宿屋の開祖か?
「誰だ、そんな名前つけたの?」
「おばあちゃんを助けてくれた旅人さん。おばあちゃんがお礼のついでに良い名前がないか聞いたら
『月の裏側、月の裏側は誰も見ることができない、安心な宿ってことさ』
そんな言葉を残して去っていってそれからだよ」
多分俺と同郷、異世界人だろうな。
「もしかしてお兄さんの同郷の人?」
「多分な、そんなこと知ってるのは俺の同郷の人くらいだろうし」
そう言うと慌てだした。
「私はミカ! 少し待ってて!」
そう大声を出して、中に入っていってしまった。




