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なかなか敵が動かないと思ったが、ついに敵に動きがあった。いや、動きがあったというと語弊があるか。動いてはいない、じっと身を潜めて待ち伏せているのだ。気がついたときにはもう前方はUの字に囲まれていた。
気配察知に入らない距離まで離れていたようだ。確実に逃がさないために、だろう。
後ろにこの事を伝えようとしたときに、見張り役のモンスターの方から轟音が響いた。響いたと同時に草などでカムフラージュした穴から160cmくらいの毛むくじゃらでガタイの良いモンスターが現れた。口には牙も生えている。何者なのかわからないが腕の太さから相当力がありそうだ。そのモンスターが手に剣、槍、斧など様々な得物を持ち襲いかかってきた!
「ミオとクオンは前方で突破口を開いてくれ! リュミスは右側を頼む! リオは俺と左側だ! 馬車は速度を落とさないで!」
「「はい、兄様(ご主人様)」」
「きゅー!」
「うん!」
返事をしてみんなが配置につく。
「リオよろしくね」
「あるじさまをまもる!」
いや、馬車も守ってあげて。
右側を見るとリュミスが魔法を放ち、敵を近づけないように牽制している。そうそう、倒さなくてもいいのならそういう戦い方が正解だ。
「リオこちらも魔法を!」
「うん、あるじさま」
リオがシャドーボールを放った。黒魔法とは違い、闇魔法は直接攻撃系を含むようだ。
俺も遠距離攻撃が無かったのでシャドーボールを覚えた。本当は剣から飛ばしたかったのだが、もう黒色の球が飛ぶところを見ているためにイメージが引っ張られてしまった……。リオと二人で牽制に放つ。二人合わせてもリュミスの魔力量に届かないので魔力量に注意をしながら。
前方では直接戦闘が始まっている。
ミオが攻撃を弾き、その隙にクオンが殴る、クオンが攻撃されそうになるとミオが防ぐ、その隙にクオンが蹴るという、良いコンビネーションだ。敵は火傷を負った者が増え、明らかに弱っている。前方は問題無いな、自分の戦いに集中しよう。
魔法を放っているが近づく敵が増えてきた。直接の戦闘になり、リオへの攻撃を防ぐが、明らかに力が足りず、手が痺れた。
痺れや痛みに耐えながら、なんとか武器を落とさずに済んだが、これはマズい。リオは防御面に不安があったので俺がついたのだが逆に足を引っ張りそうだ……。
でもそんなこと許せるのか? 否、無理だろう。
「やあぁぁ〜〜〜‼︎」
一言叫び意識を切り替える。風の加護! 風を身に纏い、動きを風によって補助する。
そして、防ぐから力が足りないのだ。ならば避ければいい。相手はミオのように早くはない。簡単だ、己に言い聞かせる。
「ふっ」
息を吐き、敵の動きに集中する。
斧が俺を断ち切らんと迫る、左斜めに避け、斧を振るった相手の頭が下がってくる場所に剣の先端を置く。力はいらない、相手が振るった力のまま、頭が下がり勝手に剣が突き刺さった。そこで力を入れ、横に斬り裂く。
血が辺り一面を赤く染めるほど吹き出た。
次は槍、俺の鳩尾に突き刺さろうとしている。半身になり、避けた槍を右手で掴み引くと同時に喉が来る位置に左手で突きを放つ。
「こひゅっ」
そんな音を立てて、相手が苦しそうにする。右手を槍から離し、剣に添えて横に斬り裂く。また血が吹き出す。
剣が迫る。上段に構え、一歩引く、剣の先端を踏む。剣を手放さないまでも動きが鈍ったところに全力で振る。骨に到達しないように気をつけ、斬った。
武器が迫って来ない。見ると俺を敵と見なしたのか、不用意に攻めなくなった。
迫る武器がなくなり、一瞬気が抜けてしまった。そこで悟る、さっきまでの集中力をもう出せないことに。ツーっと鼻血が垂れてくる。集中しすぎて血管が切れたらしい。
俺が先ほどの戦いができないとリオにもわかったようだ。
「あるじさまかっこよかった! つぎはりおのばん!」
俺を庇う位置にリオがついた。
ここをリオ一人では! そう思ったとき
「突破口開きました!」
とミオの声と達成感を感じた。
「今だ! 馬車走れ‼︎」
ミオとクオンが左右に分かれ、敵を食い止めている。そこに馬車が突っ込んだ。
「リオ、リュミス、敵を無視してミオたちの元に!」
叫び俺も駆ける。動き自体はこちらの方が早い。
「クオン、お疲れ! もう一踏ん張りだ!」
こちらはクオンと合流して、穴の維持に努める。リュミスも無事にミオと合流したようだ。
少しの間、迫る敵を往なし、二台目の馬車が迫り、落日の刃のメンバーが近づく。
「ここは俺たちが変わる。前の馬車がまた襲われないとも限らない、そっちに向かってくれ!」
との言葉に合流するギリギリまで待ち
「今だ!」
合図を出し、走り出す。
みんな集まり、前の馬車を追った。
戦いで疲れたこともあり、早く走れない。それでなくても俺が一番遅いのだし。ただ、みんなは俺のペースに合わせてくれる。本当なら足の早いミオに先に行ってもらうのが良いのだろうが、あの敵にミオだけが囲まれることを考えてしまい、言い出せない。
しばらく走り続けると前方に馬車が見えてきた。気配察知にもモンスターの反応はないし、目視でも襲われてはいない。よかった。
「お疲れさん、無事だったか」
「はい、ありがとうございます。無事に切り抜けられました」
奴隷のおっさんも距離が離れたからか落ち着いている。ペースを戻し、他の馬車が猛スピードで駆けてくるならそれに合わせて走るということに決まった。
「兄様、御者台に乗ってください。兄様は無茶し過ぎです……」
バレてるよ……、悲しそうな顔で言われると……。
「そうだよ、にぃは頑張りすぎだよ!」
「りおがもっとつよかったら……」
いつも明るいリオがしょげている……こんな顔を見たくなくて頑張った面もあるのにな……。リオの頭を撫でてから目線を合わせる。
「リオのせいじゃないよ。俺だってもっと強かったらって思ったんだ。それに家族を守る為なら多少の無理はするものさ」
伝えて、さらに撫でる。
ただ、無茶をしたのは本当なので、御者台に座らせてもらう。
「クオン、こっちに来て」
「はい、なんでしょうかご主人様」
近づいてきたクオンを抱き上げる。
「わ、わわ、なんですか?」
「昨日あまり寝てないんだろ、俺とここで休むよ。みんな悪いけどもう少しお願い」
「はい、お任せください」
「きゅ、頑張るよ!」
「うん、りおがんばる!」
その声を聞き、クオンの体温を感じながら目を閉じる。すぐに眠りに落ちた。
「兄様、起きてください」
ミオの声と揺する振動で目を覚ました。
「ん、どうした?」
すぐに意識が覚醒する。
「後ろから馬車が近づいてきました、速さはいつもより速いですが、逃げている感じではありません」
「起こしてくれてありがとう」
頭を撫でて、感謝を伝える。まだクオンは眠っているようなので、抱いたまま立ち上がった。気配察知では誰も欠けた様子はない。あの群れに襲われて、誰も欠けなかったのは僥倖と言えるのではないだろうか。
俺も咄嗟に目が良い、非力な少年剣士の戦い方を思い出してよかった。漫画の知識に助けられたよ。それにモンスター相手には心眼は使えることがわかった。ゴブリンもそうだったがフェイントなど戦闘技術が無い、正直な戦い方ばかりだ。とりあえず、みんなで切り抜けたことに安堵した。




