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そろそろお昼という時間にパンとスープが配られた。休んで摂るわけではなく、歩きながらだった。しかもパンはあのパンだった……。
あ、ヤバい、クオンの目が死んでいる……。
リオは食べたことがなく、興味津々だったので、三つのパンをアイテムボックスに収納し、バレないように買ってあったパンと取り替えた。それでは足りないだろうと串焼きを取り出し、先行している振りをして見えないところでみんなで食べた。
リオはこのパンと格闘し、辛くも勝利を収めていた。獣としてのプライドなのか顎の力を鍛えるためにこのパンを食べることに決めたようだ。
他の人たちを見ると、無表情でこのパンを齧っていた。商人負担のご飯では、安く済ませるためにこのパンが当たり前なのかもしれない。
その後、ゴブリンを三度は撃退した頃
「そろそろ夜営の準備をしましょう」
日が暮れる一時間は前だが、色々と時間が掛かってしまうため、まだ明るいうちに準備をするのだそうだ。
夜営に向いた場所を見つけて、皆で一塊となり、テントを立てていく。俺たちも買った夜営セットからテントを出して、組み立てていく。元の世界の職業で経験したことがこんなところで役に立つなんてと思いながら慣れた手つきで組み立てる。
それぞれのテントの組み立てが終わると落日の刃のメンバーが近づいてきて、話し合いとなった。夜営中の見張りをどうするかということだった。
俺たちはクオン以外夜に強い。リュミスも朝が弱いだけだ。俺も残業が当たり前だったからな、残業代も出ないのにな……。
ということで俺たちが前半を受け持ち、落日の刃が後半を受け持つことになった。そして、俺たちのパーティーを二つに分けて、受け持ち時間を更に二分することにした。
俺は移動中に休ませてもらったので両方受け持つことにした。これにも反論があったが、甘え過ぎない為に跳ね除けた。ならとミオも一緒に両方の時間で見張ると言ったが、移動中の見張りで一番疲れているのはミオなので許可しなかった。
話し合いの結果、クオンとミオ、リュミスとリオの組に分かれた。振り分けの理由は、夜に弱いクオンと一番の功労者のミオを休ませる為だ。それが決定し、パンと昼のものより具が多いスープを配られた。パンを三つ取り替え、晩ご飯を食べる。
「育ち盛りなのにそれだけじゃ足りないだろ?」
と干し肉と何かの果実をドルトンが持ってきてくれた。
「いいのか?」
「護衛任務なんかをやったことがある奴らはみんなこういうのを持ってくるのさ。そして新人に配ってやるのが習わしさ」
「ありがとう、みんなもお礼を言って」
「「ありがとうございます」」
「「ありがとう!」」
その言葉に背を向けて、気にしなくていいと手を振りながら去っていった。
いい奴だな、ドルトン、この世界の住人の善意を信じられないとか思って悪かった。ちょっと自分でもチョロいなと思わなくもないが感謝した。
晩ご飯が終わり、他の人たちがテントに入っていく。
「じゃあ時間になったら起こすからそれまで寝ててね、おやすみ」
とリュミスとリオに言った。
「「おやすみ(〜)」」
そして、焚き火を囲みながら、見張りをする。
「ミオ疲れてない? 移動中頑張ってくれてありがとう」
「大丈夫ですよ、マスター。気配察知はいつもしていますし」
「クオンは眠くない?」
「少し眠いですが、頑張ります!」
頑張ると言っている時点で危ないのがわかる。なのでこの話をしよう。
俺の幼児期に体験した霊体験だ。もちろん俺には記憶がないので母親から聞いた話だが。
少し話し出すとクオンは嫌な予感でもしたのか俺に近づいてきた。チラリとミオの方を見ると態度に変化はなかった。
話し終わるとクオンがぴったりとくっつき、ブルブル震えながら、俺の腕を抱え込んでいた。
「ご主人様は、大丈夫だったんですよね?」
「そうだね、それ以来母親も見ないらしいし、俺も見たことはない」
そう言うと少し安心したようだが、腕を離してくれない。少し目を覚まさせる為に話したのだが、効果がありすぎたようだ。
ミオを見るとなにやらブツブツと呟いている。
「霊に襲われた場合には私には魔法が……」
対処法を考えている⁉︎ 流石俺の護衛でもある、様々な状況に対応できるように考えてくれている。
そのとき、ごそごそと何かが動いた音がした。俺やミオは気配察知で害のない野生動物だとわかっていたので、何も言わなかったのだが、そんなことを知らないクオンはビクッと身体を反応させ、涙目になっている。
「大丈夫だから、ただのネズミだよ。ほら、そんな泣きそうな顔で怖がらなくても大丈夫だよ」
そう言いながら、涙を拭いてあげる。
「泣いてなんてないですもん! 怖がってなんていませんもん!」
「少し声が大きいから静かにね」
と言うと顔を真っ赤にさせて黙ってしまった。しまったな、恥ずかしがらせるつもりではなかったのに。怖い話もそうだが、なかなかうまくいかないものだ。
こんな会話ばかりしているが、気配察知は怠らない。あのレベルのゴブリンを餌にしているとすると、捕食者のレベルも自ずと高くなっていることだろう。警戒するに越したことはない。
だが、そのレベルになると多少の知恵もついてくるようで、稀にモンスターの気配もするのだが、すぐにこちらに気がつき、逃げ出した。何かを確実に感じ取っている動きだった。そのことにより警戒心を高めた。
交代の時間になったのでリュミスとリオを起こすことにした。だがここで問題が発生した。クオンが寝たがらないのだ。
「クオンは寝ないとダメだろう?」
そう言っても俺の腕を離さない。上目づかいで俺を見つめてくるだけだ。これ、卑怯すぎやしませんか?
「はぁ、わかった。もう少し俺と起きてようか」
いざとなれば明日、俺の膝の上で眠らせればいいし。
ということで四人で見張ることになった。ミオが私も残りますと言ったが、休むことの大切さを説いて寝てもらった。テントで一人は寂しかったのかもしれないと後で思ったが、そんな気持ちは伝わってこなかったので違うらしい。
リュミスもリオも起きたばかりだというのに元気でクオンも落ち着いてきたようだ。それでも俺の腕は離さなかったが。それと夜に使うことでわかったのだが、心眼は目で見なくても相手を捉えられるので夜目が効かない所で重宝するのだ。野生動物を追い払おうとして気がついた。使えないのかもとか思って悪かった……。
結局、俺たちの見張りの間に襲ってくるモンスターはおらず、落日の刃のテントに行き、交代を告げた。流石男6人のテント、男臭さと酒臭さのダブルパンチで厳しいものがあった。
うちのテントに戻り、子供特有のミルクのような香りがして安心した。これ大丈夫なんだろうか? 俺、道を踏み外していないよね?
その日はいつも足の方にいるクオンが俺の腕を離さず、隣で寝ることになった。すでにミオは寝ていたので特に問題も発生せず、みんなで寝ることにした。
「「「「おやすみ(なさい)」」」」
ミオを起こさないように小声で言い合い寝ることにした。




