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「マスター、起きてください」
その声と軽く揺さぶる振動に起こされた。
「おはよう、ミオ。今日は早いんだね」
「お忘れですかマスター、今日は護衛任務の日ですよ」
その声に即座に意識が覚醒する。
「ミオ、今何時⁉︎」
「まだ大丈夫ですよ、マスター。今は五時です」
よかったぁ……。自分で言っておいて寝過ごすところだった。
その後ミオがリュミスに声をかけるとすぐに起きたので、みんなでご飯を取りに行く。
「わざわざありがとうございます」
厨房に向かって話しかけ、部屋に持って行く。
五時四十分にはすべての準備を終えて、少し早いが門に向かうことにした。門の前では既に護衛対象の商隊が来ていた。
馬車が3台で荷物がこれでもかと積まれている。それを見て、俺たちを乗せる余裕などないのではないかと不安になったところで気がつく。馬車といってもこんな荷物を積んだ状態では走らせないのではないか。その場合、護衛は歩くのではないだろうか……、2日間歩きっぱなしかぁ……。
げんなりはしたが、仕方がない。
商隊のリーダーと思しき人を見つけた。
『鑑定』
名前 ヴァルム
種族 ヒト♂ Lv12
よし、罪科もないし、依頼主だな。
「おはようごさいます。初めまして、ユーと申します。アルヘムまでの護衛任務を受けてやってきました。ヴァルムさんですか?」
「おはようごさいます。はい、私がヴァルムです。初めまして、ユーさんのことはギルドより伺っております。索敵能力に秀で、戦闘力もある、たしかな実力のある冒険者パーティーと。ただ、初めて見ると不安に思うかもしれません、とも言われておりました」
「確かにそう見えるでしょうが、この娘たちは強いですよ」
間違っても俺をその中には入れない。たぶんギルドも見た目が問題にならないように一応説明してくれたのだな。
商隊の人たちと自己紹介をしていたら時間ギリギリに六人組の冒険者パーティーが近づいてきた。
「俺たちは今回あんたらの護衛をすることになった、冒険者パーティー、落日の刃だ」
パーティー名か、なんか決めないといけないのかな? でも落日の刃って……。たしかに皆武器は剣みたいだが。
「あん? なんだってガキが居るんだ?」
キター! ってテンションが上がるもんでもないがテンプレ通り絡まれそうだ。
「おい、よく見ろ! あれは旅の神官だぞ」
あれ、雲行きが……。
「まじかよ⁉︎ たしかに子連れの冒険者なんて旅の神官ぐらいだよな。サンキュー、絡んじゃいけない相手に絡むところだったぜ……」
旅の神官ってなんなんだ?
「すいません、ユーと申します。旅の神官ってどういうことでしょうか?」
落日の刃のメンバーに話を聞くと、あっちゃーって顔をされた。なになに、なんなの?
すると一人、小綺麗な身なりのおっさんが一歩踏み出した。
「こいつらがすまない。俺はドルトン、ここのサブリーダーだ。お前さんは、自分が旅の神官ってアダ名されていることを知らないのか?」
逆に聞かれてしまったが、知らないよ!
「そうなのか……。まあ色々と理由はあるんだが、お前さんは話し方から行動が冒険者らしくねえってことで様々な憶測が流れているんだ。今一番皆が信じているのが、その旅の神官ってやつさ」
そうなのか? でもなぜ神官?
「子供たちの扱いが慣れていることや奴隷の女の子に対してもその子たちと同じに扱っている。そんな奴は神官くらいさ。それに自分たちを騙した村長と奴隷商を自ら滅ぼしたのが神敵を前にした神官の苛烈さだったとも語られている。そして、金不足で国の暗部に売られた孤児たちを取り戻し、冒険者として金を稼いでいるって噂だ」
え、っとツッコミ所満載じゃないですか⁉︎
「なんで国の暗部?」
「そりゃあ子供たちの能力が高いと評判だったからな。いつ見ても傷一つなく帰って来ればわかるもんさ。お前さんは怪我を負うこともあったみたいだが、軽傷だったしな」
そんなところまで見られていたのか……。
「あの、俺たちはただの冒険者で……」
「分かってる、分かってるから皆まで言うな」
分かってるって、って顔をされるが違うんです。逆に魔王とか連れている魔に関係する者です、魔物使いだし。
そんなテンションの下がる会話を繰り広げていると落日の刃のリーダーとヴァルムがこちらに来た。誤解は解けなかった……。
そこからの話し合いで俺たちは索敵能力を買われ先頭の馬車で見張ることに、落日の刃は中と後ろの馬車に別れて警戒することになった。
御者を守る為に御者台に一人、後は馬車に先行して歩き警戒することになった。よく見ると奴隷の御者だった、に挨拶をして俺が隣に乗ることになった。いや、だってみんなが俺に歩かせるなんてって遠慮するんだもん。それにもう一人、俺と一緒に座ることになった。索敵能力の高いミオは歩く方から外せないので仕方がないが、その他が交代で俺の膝の上に座ることになった。なぜ? 今はリュミスが座っている。
「あなた様は変わったお方ですね。こんな奴隷に話しかけたりして」
挨拶をしたら驚かれた。
「そうですか? 別に挨拶くらいおかしくないと思いますけどね」
「奴隷に敬語などおやめください、あなた様が下に見られてしまいます。何より、あの娘、奴隷ですよね。それなのに綺麗な服を着て笑っております。そんな奴隷見たことがございません。本当に不思議なお方です」
「そういうことなら敬語はやめさせてもらうが、俺は俺のしたいようにしているだけだ。奴隷だろうが人間なんだから挨拶をするし、あの娘は俺に助けを求めたから助けただけで、奴隷とは思っていない」
「そう思える方がこの世界にどれだけいらっしゃるのか……」
それっきり御者は話しかけてこなくなった。
ちなみに後でリュミスに教えてもらったのだが、この会話を落日の刃のメンバーに聞かれており、さらに神官の噂に信憑性をもたせてしまい凹むことになるのだった。
一時間ほどで交代なのか、次はクオンだった。恥ずかしいのか、遠慮がちな態度だったので、こちらから抱き寄せて膝に座らせた。
見張りを続けていたが、こちらに気がつく野生動物の気配だけで、それらもこちらが近づくと逃げていった。
そろそろリオと交代かなと思った頃、ミオが近づいてきた。
「ミオも座りにきたの? でもミオには申し訳ないのだけど、見張りを続けてもらわないといけないんだ……」
「そうではありません。たしかに少し納得がいきませんが……、そうではなくてこの先、ゴブリン2体が待ち受けています」
散々戦った相手だった。後ろにいる者たちに確認を取り、クオンを御者台に残し、ゴブリンを見に行った。
『鑑定』
種族 ゴブリン♂ Lv14
種族 ゴブリン♂ Lv17
昔、戦ったゴブリンリーダーよりレベルは高いものの動きを見る限りそんなに強そうには思えない。ミオと俺で隠蔽を使いながら近づく。ミオが短剣でレベルが高い方の腿を斬り裂き、頭が下がったところに首に短剣を突き刺した。まだ動きそうだったので俺が胸に一突きすると倒れた。もう1体が恐れず襲ってくるが、影から急に飛び出したリオに驚き、動きが鈍った。そこにリュミスの水弾が命中した。もろに喰らい仰向けに倒れたところにリオが飛びかかり、爪を胸、首に突き刺した。それで動かなくなり、消えた。素早くドロップアイテムを集め、馬車に戻った。
「流石に早いですね。ではこのまま進みましょう」
というヴァルムの言葉に従い歩き出す。
「あの程度の相手なら私たちだけで大丈夫なので兄様は馬車に居てください」
「きゅー、楽勝だよ」
「うん、たおせる!」
ということで任せることにした。
ちょっと経ち、クオンとリオが交代してその後、ゴブリンを見つけると俺に報告だけしてすぐに三人で倒しに行ってしまった。
完全に任せてしまうのがかなり怖かった。自分で確認し、見ていないと落ち着かない。だが、これも信頼と言い聞かせ耐えた。
少しして、傷一つないミオたちが帰ってきた。ほっとした。




