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今日はもう何もしない予定だったのだが、新たなスキルを手に入れたので鍛錬をすることにした。手に入れたスキルとそれの訓練をすると伝えるとみんなが一緒にやると言ってくれた。なので、朝の鍛錬をいつもの量に戻し、昨日より早く東の林に向かった。
「みんな、まずは軽く俺に攻撃してきてくれ。最初、俺は避けるだけにする。慣れてきたらカウンターの練習をして、終わろう」
そう伝えて、構える。
「いきます」
その言葉を皮切りに四人が緩やかに攻撃を仕掛けてくる。その情報が頭に入ってくる。うん、四人は無理……。なんか気持ち悪くなってきた……。
ということでミオ一人を相手に心眼の訓練をしていく。パンチ、パンチ、キック、裏拳からの回し蹴り、動きを読みながら避けていく。というか裏拳からの回し蹴りはテレビの格闘技でカッコよかったから覚えていて、ミオにも話していたのだがいきなりでビビった……。
相手の動きがよりわかるようになった頃、その動きに合わせてカウンターを仕掛ける。が、上手く身体を合わせられない……。クソ! 相手の動きがわかる分、余計にもどかしい。
更にわかったこのスキルの弱点は、フェイントに引っかかりやすいことだ。相手の動きがはっきりわかる分、身構えてしまい、それがフェイントだった場合に立て直しが難しいのだ。
訓練をしておいてよかったと思う。この弱点がわかっていなかったら即、フェイントに引っかかり、やられていたことだろう。
訓練を続けるがどうしても俺の要求する動きに身体がついていかない。ここらで諦めて、カウンターは能力値が増えてから行うことにした。きっと器用さが伸びれば大丈夫なはずだ。そこからは避けることに集中し、それだけを行った。
ミオに少しスピードを上げてもらう。一撃目は、わかる。ニ撃目から怪しくなり、三撃目には体勢が崩れ、攻撃を受けてしまう。
このスキル、もしかしてあんまり使えない? 能力値不足を補えるかと期待したがここでも身体がついていかないという、能力値不足が露呈しただけだった……。
諦めず、訓練の内容を変えて、相手を二人に、三人に、四人にと増やしていく。こちらは慣れたら一人増やし、といった方法だ。
徐々に慣れてきて、ゆっくりの場合だが、四人ともの動きを把握することができるようになった。
俺はどうやらこちらの方が伸び代があるようだ。
ある程度続けると頭が重くなったように感じた。どうやら頭を使いすぎて、疲れたようだ。
「みんなありがとう、ちょっと疲れたから休むことにするよ」
「どうぞ、ご主人様」
クオンがすかさずタオルと飲み物を差し出してくれる。
「ありがとう」
受け取り、一気に飲む。一息ついたところで足がふらついた。
「「マスター!」」
「あるじさま!」
「ご主人様!」
やはり後ろにいたリオがすぐに支えてくれる。
「大丈夫、疲れがでたみたいだ」
すると、クオンがシートを敷いてくれた。
「少しここで休んでください」
膝を示される。まあミオにしてもらったこともあるので、少し気恥ずかしいものの素直に膝に頭を預けた。
「ああ⁉︎ それは私の役目ですよ、くーちゃん!」
「早い者勝ちでございます、ミオ様」
なんて会話が頭上で交わされている。クオンも大分打ち解けてきたなと感じながら、次第に眠くなってきた……。
目覚めるともう日は高かった。
「おはよう 重くなかった?」
「おはようございます 大丈夫でした」
起き上がろうとするが押さえられる。
「今日はもう休んでください。無理は禁物です」
「そうです、マスター。ところでくーちゃんマスターが起きたので交代ですよ」
「……、仕方がありません、約束でしたし……」
渋々といった感じで変わるクオン。
「次は私ね!」
「そのつぎはりおだよ〜!」
えっと、俺いつ解放されるのでしょうか?
解放されたのは日が暮れる前でした。
膝枕をされながらただ、ただ雑談をする休日、いつまでもこんなだったら良いんだけどな。しかしこの平和は、中級鑑定、もしくは上級鑑定を持つ者が現れたら簡単に壊れてしまう。
それがわかっているから立ち止まれない。でもこの三日間みたいな休みもたまにはいいのかもしれない。焦ってばかりではミスをしてしまうかもしれない。
少し考えを改め、宿に戻った。
カウンターにいたおばちゃんに話しかけられた。
「明日で期限が切れるけど、延長するのかい?」
「いえ、他の街に行こうと思います」
「そうかい、残念だけど気をつけな。明日はサービスで弁当を用意するから忘れずに持って行きな」
「「「ありがとうございます」」」
「「ありがとう」」
「いいんだよ、それと明日は早いのかい?」
「はい、六時に門に集合です」
「じゃあ、明日は五時にあんたらの朝食を準備しとくから取りに来な」
「いいんですか?」
「最後だからね、それぐらいはしてあげるよ」
「何から何までありがとうございます」
カードキーを受け取り、部屋に帰って荷物などをアイテムボックスと買った大きなカバンに詰めていく。
「この部屋に泊まるのも最後かあ」
一月も泊まった部屋だ、少し寂しくなる。特にトイレと風呂! でもどこでもトイレと風呂は完備されているようなので安心だが、旅の最中が不安だ。
みんなで軽く掃除もして、出る準備を終えた。
お風呂に入り、お互いの身体を洗い合う。
「旅の間、風呂に入れないのが厳しい……」
つい愚痴をこぼしてしまう。
「桶を買って、りゅーちゃんの水魔法、くーちゃんの火魔法で湯を張るのはどうでしょうか?」
「良い意見だと思うけどみんなで入れるような桶を持って行くのも変だし、アイテムボックスに入れるにしても、それを使ってたらどこから出したのか疑われてしまう。
今回はダメだけど、ここのメンバーでの旅ならそれで良いね。次の街で桶を買おうか」
その後、食堂でご飯をもらい、部屋で食べる。
「明日は朝六時に門の前に集合だからみんな早めに起きるんだよ」
みんなが頷く中
「無理だから起こしてね」
リュミス……、朝弱いけど、もしかしてドラゴンって変温動物なのかな?
「りゅーちゃんは仕方がないですね、ちゃんと起こすから起きるんだよ、起きなかったら……」
「はい、ちゃんと起きます! ミオ姉!」
ミオは、しっかり長女をしているようで、力関係は、はっきりしている。ただ、スライムに負けていいのか、ドラゴンと思わなくもない。
明日の最終確認も済んだので眠ることにする。昼寝をしてしまったので眠れないかと思いきや、相当頭を使ったようで、すぐに眠りに落ちた。




