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みんなで食堂に行き、ご飯を受け取って部屋に戻った。クオンはご飯をジッと見つめながらも静かについてきた。
みんなでテーブルのいつもの位置に座るとクオンがご飯をテーブルの上に置き、自身は床に座った。やはり奴隷とはそういうものらしい。だが、落ち着かん。
「クオンは俺の正面に座ってくれ、床は禁止だ」
「ご主人様、奴隷と食事を共に摂ることはありえません」
クオンはキッパリとそう言うが命令されたので正面に座った。
「俺はクオンを奴隷扱いする気は無いぞ。外見が幼過ぎて俺には無理。だから、ミオやリュミスと同じに扱う」
これには相当驚いたのか目を見開き固まっている。うん、美幼女だが怖いわぁ、夢に出そう。
「はい、ご飯が冷めちゃうから食べるよ」
と手を叩く。
「このご飯を食べてもよろしいのですか?」
またクオンの目が輝いている。
「おう、もちろんいいぞ」
「「「いただきます」」」
「い、いただきます」
みんなに少し遅れてクオンも言う。
みんなで食べている最中、クオンが突然泣き出した⁉︎
「美味しいです、美味しい。死ぬまであの硬いパンを食べるだけだと思ってました」
嫌な単語が聞こえた。詳しく聞いてみるとあのパンは非常食であり、冒険者の旅のお供だという。また安く、保存が効くので奴隷に与えられる食事としては一般的だという。
ミオが悲しそうな顔で見てきたが、アイテムボックス持ちの俺には必要ない。だからそんな期待した目で俺を見ないでくれ、リュミス。
食事も終わり、落ち着いた頃、クオンに説明をすることにした。そこで思い出す、俺名前を教えてないや。誤魔化そう。
「まず、改めて自己紹介、俺はユー。見ての通りヒト族だ。職業は多分魔物使い……。ミオとリュミスの兄と説明しているが真っ赤な嘘だ!」
ここだけ力強く言う。
「わたしはますたーをさぽーとするためにつくられたすらいむ、みおです」
「私はダークドラゴンのリュミス、ミオ姉の妹だよ」
と自己紹介するとクオンが大変そうだ。眷族化で仲間にした場合は、説明もなくなんとなくわかるらしいのに。
「えっと、ミオ様の仰った作られたというのは?」
「うーん、なんか説明が難しいんだが、ヨミと名乗る女が俺の要望を叶えて作ったのが、ミオなんだ」
俺が言うのもなんだが、全くわからないな。
「え⁉︎ ヨミってまさかヨミ様ですか?」
驚いたように聞いてくるがどのヨミなのかは、わからない。
「それはわからないが、その人がミオのモンスターカードをくれた。そのヨミ様ってのはどういった方なんだ?」
「は、はい、魔族の神様で、魔と死を司る神様だと言われています」
神様ときましたか、でももし本物なら俺は魔族側に引き込まれる? なんか嫌な予感が……。
「ご主人様は、アイテムボックスと鑑定のスキルをお持ちですか?」
今までと全く異なる質問がきた。
「うん、持ってるけどどうしてわかったの?」
その言葉にクオンが慌てる。
「本当に使徒様でございましたか⁉︎」
え、使徒って何?
「使徒様は必ずアイテムボックスと鑑定のスキルを持っています。強力なスキルを持った方が多く、勇者や魔王も多く輩出しています。各国で使徒様を保護の名目で集めています。また両スキル持ちを見つけた際に騎士への報告義務もあります」
あっちゃー、転移者が狩られてるわぁ……。隠しといてよかった〜。
「なるほど、その条件は満たしてるけど内緒にね。みんなもいい?」
みんなが頷いた。
「そうだ、クオンって戦ったことある?」
「いえ、ありませんが」
あれ、じゃあなんでレベルが1じゃないの?
「戦わなくても周囲の魔力を吸収することでレベルアップをします。ただ、魔族は魔結晶を持つので吸収が早く、ヒトよりレベルアップが早いです。そのため、魔力の高い場所ではモンスターも人も強くなりやすいです」
「クオンは本当に物知りだな、ありがとう。それで、クオンは戦えるの?」
魔王に聞くことじゃない気がするが……。
「戦ったことはありませんが、火魔法を使えるのでなんとかなると思われます」
「あれ、武器顕現は?」
「武器、顕現ですか?」
あれ、知らないの? 自分のスキルなのに……。
「とりあえず、そのスキルはあるからちょっと試してくれないか?」
俺に頼まれてクオンは目を閉じて集中しだした。するとすぐに両手が光り出し、光が収まると両腕に籠手が装着されていた。
能力値からわかっていたがやはり近接タイプか、武器顕現で防具が出ている気がするが本人のイメージではきっと武器なんだろう。
「成功したみたいだね、おめでとう!」
「ありがとうございます、ご主人様。この籠手は炎の力が宿っていて相手に触るとその箇所が燃え上がるようです」
何それ、怖い……。
「その籠手はずっと維持できそう?」
「はい、装着するときだけ魔力を消費し、維持などには魔力を必要としないようです」
なるほど、それなら
「じゃあ、外ではそれを装着しててくれる? 魔結晶を隠すのにちょうどいいし」
「大丈夫です。了解致しました、ご主人様」
ということに決まった。その後、フォーメーションを確認し、ちょっとの間後ろにいてもらうことにした。
色々話すことが多く、疲れてしまったので寝ることにした。ベッドが一つなのでまたクオンが床で寝ようとしたり、ベッドに入るのを恥ずかしがったりしたが無視して引っ張り込んだ。俺の両腕にミオとリュミス、足元にクオンとみんなで寝た。
朝起きると、ミオとクオンがもう起きていた。
「おはよう」
「「おはようございます」」
お互いに挨拶を交わし、リュミスを起こして朝の鍛錬をする。
クオンは始め素振りをする俺の横で籠手に慣れる為か、殴るような動作を繰り返していたがミオやリュミスに誘われて三人でいつもの戦いを始めた。
能力値って本当に残酷だと思うんだ。この四人で一番の足手まとい俺だぜ……。
まだ戦い慣れていないクオンの動きがどんどん良くなっていく。この動きなら大丈夫だろう。
朝練を終え軽く汗を流して、パンとスープ、サラダといういつもの朝食を摂る。その後防具屋に行き、罪科持ちの防具を売り、クオンの防具を買った。リュミスと同じ革のドレスにティアラの装備だ。他にも細々とした物を買ったが、買取額と売値の違いに驚いたりした。
次に鍛冶屋に向かう。扉を開け中を確認すると、店員の若い兄ちゃんがいた。
「こんにちは」
「こんにちは いらっしゃいませ、あ、ダマスカス鋼の短剣を注文のお客様。注文の品出来てますよ、珍しく親方がやる気になってました。こちらがダマスカス鋼の短剣二振り、研ぎ直した鋼の剣です」
と手渡される。短剣を見ると木目のような模様をしていた。
ミオに渡すと喜んで確認している。顔を見るに不満はなさそうだ。
次に鋼の剣を受け取る。あんなに刃こぼれとかあったのに新品のように輝いている。
「親方が次はこうなる前に持ってこいって怒ってたっすよ」
と言ってくるが俺のせいではない。一応弁解してからお礼を言った。
罪科持ちの武器も売り払い、店を出た。
そしてギルドに行き、クオンの奴隷用ギルドカードを作ってもらった頃にはもう昼になっていた。
ギルドを出るとミオとリュミスが期待に目を輝かせてこちらを見ている。
何が言いたいのかわかっているので無言で頷く。二人は喜び、わからないクオンは? と首を傾げている。
そんな三人を連れて飯屋に向かった。
おばちゃんに四人分注文してお昼ご飯を食べる。最初遠慮していたクオンも料理の美味しさに夢中になり、食べている。が、俺と同じくらいに食事をやめた。
よく食べた方だと思うが。俺と食休みをしているクオンは、他の二人の食べっぷりに驚いている。
本当にミオもリュミスもよく食べる。
結局前回と同じ額を払わされた。これで分かったが俺もクオンもオマケみたいなものなんだな、値段変わらないし。
代金を払い、お礼を言って出た。




