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リュミスの元に戻り、どうするか考える。
あまり時間も無いので焦るが良い作戦が思いつかない。もういっそ家を燃やすか。そんな末期な考えに辿り着いてしまう。
案外正面から行った方が良いのか? この世界なら奴隷が人質になるなんて考えもしないだろうし。
燃やすにも火をつけるものが見つからなかったため、突撃することにする。本当はこんな危険な賭けにでたくないのだが、このままでは確実に女の子が死んでしまう。
ミオ、リュミス、俺の順で突入する。
俺がドアを蹴破り、そこにミオが短剣を投げながら侵入し、リュミスが続いた。最後に俺が入る。
足に短剣が突き刺さった二人は痛みに倒れたが、もう二人は短剣を察知し避けていた。
ミオがスピードを活かし、両手の短剣で攻撃を防ぎながら、女の子の元に駆け寄った。
リュミスと俺は短剣を避けた相手の足止めだ。リュミスが男の方と対峙している、身体に水を纏い本気だ。何か男の方が言っているのはわかるが内容までは聞こえない。
こっちの女からの威圧に耐えているからだ。
予想以上だったので素早く身体に風を纏い、剣に黒色を纏わせる。
「へぇー、魔法剣士か、向こうは魔法闘士だし優秀なんだ」
余裕すら感じる態度だ。
瞬きすら惜しむように集中して、相手の一挙手一投足を見逃さないようにする。腕に持つ剣が酷く頼りなく感じる。
いきなり胸の辺りで赤い光が灯った、反射的に下がり剣で防ぐ。
何処から出したのか右手に刺突用の暗器が握られていた。
「うっそ! あれを避ける〜〜?」
口調は軽いがアレは必殺の一撃だった。纏う雰囲気が変わるのを感じる。
だが、高まっていく集中力が途中で鈍った。右手に違和感を感じたように首を傾げながら武器を見ている。
「ねぇ、なんかこれから違和感を感じるんだけどなんかした?」
不機嫌そうに聞いてくる。
「ああ、それは……」
と油断なく構えながら喋っている最中に、女に後ろからミオが襲いかかった。だが、女は驚いたような顔をしつつも、避ける、避ける。
「アニキ、こっち厳しい。ヘルプミー」
気の抜けたような声だ。舐められているな。
「あっはっはっは! やっと楽しくなってきたってのに! 邪魔するなよなぁ〜〜」
にへらと邪悪に笑いながら答えている。
だが、突然二人して後ろに飛び、ミオが無力化していた男を掴み上げた。
「助かったぜ。早く逃げるぞ! このクソガキども‼︎ 俺にケンカを売ったこと後悔させてやる! ちくしょうが……」
四肢に力が入らないようなのによく叫ぶ。
「お前らの目的ってなんなの?」
男が聞いてくる、改めて襲いかかってくる様子もない。
「俺たちを狙っている者共の無力化」
と正直に答える。
「あ、なるほどね、じゃあこれでどうよ」
と言った直後、まだ叫び続けていた商人の首を刎ねた。
こちらが驚いていると
「これでもうお前らを狙う奴はいないぜ。これで俺らが戦う理由もないわな。あ、この首はもらっていくよ」
なんでもないような態度で言った。
「ああ、お前らと戦う理由はない。ステータスカードはこちらがもらうぞ」
「構わないさぁ〜、じゃ帰るわ」
と言って何かのアイテムを懐に入れ、違うアイテムを取り出した。
その男を兄と呼んだ女の肩に手を置いて
「転移」
と言った直後、二人の周りの空間が揺らいだ。ミオたちの方を見て伝わったのを確認した。やられっぱなしはムカつくので剣や短剣、魔法をその空間目掛けて投げ込んだ。
「うわっ、あいつらマジかよ! やべぇ!」
「うきゃー!」
などの叫び声を残して去って行った。
そして無力化させている糞爺に近づき
「ハッロー糞爺! 約束果たしに来たよ!」
と満面の笑みで近づく。
「ひっ、ひぃぃ〜〜!」
と叫び、必死に下がろうとするが手足を斬られていて下がれない。
剣を振り上げる。
「や、やめ……」
と言う声を聞き流しながら、首を刎ねた。
女の子に近づき、水系回復魔法キュアを唱えた。その間ミオとリュミスが家屋内を探索してくれたが特に何も残っていなかった。
ある程度傷が治った頃には俺の魔力がギリギリだったので死体を野外に放り投げ、家屋で休むことにした。
ステータスカードを収納し、床に寝っ転がる。
寝っ転がる方が魔力を回復しやすい気がする。
しばらく休んでいると女の子が目を覚ました。血や汚れではっきりとした顔立ちがわからないが悪くはないのかな? しかしその目は怯えの色を強く感じさせた。
「え、え? だ、誰?」
小さく呟き震えている、これは俺が話しかけるとさらに怯えてしまいそうだ。
「ミオ、リュミス俺は少し出ているからその娘が落ち着くまでそばに居てやってくれ」
俺が声を出しただけでビクリと女の子の身体が反応した。
「ますたーひとりはきけんです。わたしはますたーといます」
「そうだね、マスターはもっと気をつけないと。ミオ姉お願い」
という二人の意見に従い、ミオと外に出た。
「あの娘大丈夫かな? 酷く怯えていたけど」
「いまはまだなにもわかってないからです。りゅーちゃんがちゃんとせつめいしますからしんぱいありません」
いや、結構なトラウマだと思うんだけどな。まあリュミスの頑張り次第かな? 心の中で応援した。
「ミオ、あの二人組強かったね」
「はい、攻撃が当たりませんでした」
「それは向こうも同じだと思うよ、ミオの戦い方は奇襲を除くと守り主体だからね」
相手は素早さで翻弄し、一撃必殺の隙だけを狙うタイプ。ミオとの対戦では自分のスピードが生かせず、苦戦したことだろう。尤もまだ余力を残していたり、挑発もしてきたりと底が見えなかった。
「あんな敵もいるんだな。強くならなきゃな」
「はい、ますたーがんばります!」
そんな話をしていたらドアの方から俺とミオを呼ぶ声がしたので戻る。
部屋に入るとすぐに
「助けてくださってありがとうございました!」
と女の子に頭を下げられた。
こちらが驚いていると
「あの、回復魔法を受けている最中に気を失ってしまいましたが、優しい声と温かい手は覚えております。さっきは怯えてしまい、申し訳ありませんでした」
なんというか、歳の割りにはしっかりした発言に驚きを隠せない。
「そうか、いいんだよ。あんな目にあっていたのだから」
と頭を撫でようとしたら一瞬ビクンと身体を縮こませていた。が、気づかない振りをして、撫でた。
「それで聞きたいのだが君は奴隷なんだよね?」
「はい、そうです。今はご主人様の奴隷です」
うん? 主人がもういるのか?
「ご主人様って誰?」
まさかリュミスが勝手になっちゃったか?
「貴方様でございます」
うん、俺の方をしっかり見ながら伝えてくる。
俺?
「えっと、俺なの?」
「はい、奴隷は物として扱われます。そしてさっきまで罪科持ちの商人の持ち物でした。その商人を倒した貴方様に所有権が移ります」
この世界、奴隷の扱いは物なのか。
「奴隷からの解放とかってできないの?」
そう聞くと女の子の顔が引き攣った。
「私は必要ではないということでしょうか?」
無理やり出した感じの声だったがなんかマズかった?
「奴隷なんていない地域出身でな、慣れてないんだよ。それに奴隷から解放してもらえたら嬉しいんじゃないの?」
「いえ、あの、私は見ての通り魔族です。それもドリュアス族です。本来は緑色の魔結晶を額につけて生まれてくるのですが、私は両腕に赤色の魔結晶をつけて生まれてきたようです。そんな異端の私を奴隷から解放されては生きていく術がありません。それに私は借金奴隷でも犯罪奴隷でもありませんので解放する手段がありません」
詳しく聞くと借金奴隷は借金が返せなかったものが強制的にさせられるもので借金の返済が終われば解放されるらしい。
犯罪奴隷は捕獲された罪科持ちが強制的にさせられ過酷な労働環境で重労働をさせられ、刑期を終えれば解放されるがほとんどはその前に労働に耐えられず命を落とすらしい。
そして、ただの奴隷は貧村で売られたり、自らなった者たちをいい、生涯解放されることはないらしい。




