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街の北に出て、少し食休みをしてから草原に向かった。案の定見つからない。
どうしよう? 散歩と割り切ってもいいけど草原じゃミオとリュミスは楽しくないだろうし……。
そうだ! ミオとリュミスを片腕で抱きしめ、右肩にミオ、左肩にリュミスを乗せた。
「な、とつぜんなんなのですか、ますたー?」
「きゅー! きゅ、きゅー!」
ミオは驚き、リュミスは喜んでいる。
「うーん、暇だったから」
「ますたーここはもんすたーのでるきけんちたいです。もっとちゅういしてください」
真面目なミオに注意されるが
「その肝心のモンスターがいないから暇なのよ」
ということである。
最初は文句を言っていたミオだがなだめているうちに機嫌が良くなった。逆にリュミスが少し機嫌が悪そうだ。
おかしい、ミオの気配察知が頼りとか褒めていただけなのだが。
リュミスが小さく
「きゅ……ミオ姉ばっかりズルイ……」
と呟くのが聞こえた。
こっこれが嫉妬ですか? でもまだヤンデレルートの危機ではないようだ、危機察知に反応がない。だが、フォローせねば
「もちろんリュミスも頼りにしているよ、魔法を使ってくる相手は頼んだよ」
そう魔法を放つ相手の対処ができるのはリュミスだ。ミオも隠蔽スキルを使っての暗殺なら戦えるが正面から魔法を使われると厳しい。
俺は遠距離攻撃手段が無いのでお手上げ。
リュミスに頼ることになる。
「ミオにリュミス、戦闘では頼ってばかりだけど俺も頑張るから」
「たよってください、ますたーはかならずおまもりします!」
「きゅー、敵を倒すのは任せてよ!」
頼もしい二人に感謝し、肩車の状態で散歩を続けていく。
結局この日はウルフもブラックウルフも見つからず、宿に帰ることとなった。
戦闘もなかったので疲れるまで素振りを行い、突きを練習した。抜刀なども練習したいのだが、剣じゃあね……。
刀ってこの世界にもあるのかな? 有るなら二振りは腰に差したい。この世界なら能力値を上げれば二刀流も夢ではないだろう。
それだけどんな攻撃をしてくるかわからない敵も多いということだ。だから鍛えねば、自力を上げるのだ、安心できるまで。
正直、この世界に目的を持って来た訳でも憧れて来た訳でもない。だから勇者になる! とか魔王になる! なんてこともしたいとは思えない。ただ、なんとなく生きていくのも違うと思う。でもどうすればいいかわからない。元の世界ならこんなときは勉強だわな。未来の選択肢が広がるから。
ならこの世界では? それは身体作りだろう。何より死なない為に、仲間を守るために。そう考えて素振りと突きを繰り返す。
隣では守るべき仲間、五歳児に見える二人がジャレているが、たまに速すぎて目で追えない。
能力値差って……。
まあもう二人に任せてもって思わなくもないけど腐らず頑張ろう。
ある程度強くなって仲間も増えたらダンジョン作って楽しく暮らしてもいいしな。
まだ能力は試していないが魔力石なんてアイテムとセットだったくらいだ。尋常じゃない魔力が必要なのだろう。毎日寝る前に蓄えるようにしているが、まだまだ貯まるようだし。
雑念が入りすぎていけないな。集中、集中。
そんな取り留めのないことを考えるのはやめて、無心になることを目指す。
しばらく振り続け、ミオとリュミスが暇そうにしているのがわかったので止める。
二人も暇そうにしているし、相手をしてもらえば? と思うかも知れないが身長差が有るし、ミオやリュミス相手に剣を振れないということもあった。
やはり刃物を人に向けるのは怖い。ミオとリュミスはたとえ俺が斬りつけても、あまり効果は無いってわかってはいるんだけどね。
考え事をしてしまい、二人に見つめられていた。なんでもないと笑いかけ、部屋へと戻った。風呂で汗を流してさっぱりしたので、ご飯を食べて早めに寝ることにした。
朝目覚めて、朝練と食事を終えて宿を出る。
「今日も一応北の草原でウルフを探すよ、無駄になるかも知れないけど許してね」
「はい、にいさま!」
「にぃのせいじゃないし、仕方が無いよ」
と言う二人を連れて北の草原へ向かう。途中、屋台で昼ご飯を買った。
「お、ユーじゃないかおはよう。今日も草原か?」
門番に話しかけられた、珍しい。
「おはようございます、そのつもりですがどうかしました?」
「それがな、草原で怪しげな冒険者パーティーの目撃証言があってな。話しかけてはこないのだが後ろで何かを探るように見られたらしい。ちょっとしたら去ったそうだが、気配に敏感なパーティーからの証言だったから、他のパーティーは気がつかなかったのかもしれん。
そんな風に気配を消せるのは手練れか後ろ暗い連中だ。だから草原に向かいそうな冒険者に警戒を促してるのさ」
それは確かに怪しい
「ありがとうございます、助かりました。十分に注意します」
「おう、可愛い妹がいるんだから守ってやれよ」
「わたしがにいさまをまもるんです!」
「にぃはちゃんと守ってくれるよ!」
対照的な意見だった、それを聞いて笑いながら見送ってくれた。
それにしてもありがたい情報だったな。気をつけるとしよう。
しばらく草原を歩き回っていると、変な違和感を感じた。ミオの方に視線を向けると
「けはいさっちのはんいになにかのすきるをつかってかくれているなにものかをはっけんしました」
そういうことだったらしい。俺には違和感としてしかわからなかったが流石だ。
「ナイスだミオ。こっちは気づかれてないか?」
「はい、きづいたようすはありません」
少し下がり、作戦会議。
先ずはモンスターか人間かを確かめられるかミオに聞いたら隠蔽スキルを使い気づかれないように近づき確かめてくれた。
人間だった。ミオに俺が近づいても大丈夫な位置まで案内してもらい
『鑑定』
名前 ローエル
種族 ヒト♂ Lv17
罪科 ???
名前 リエル
種族 ヒト♀ Lv16
罪科 ???
名前 クラスト
種族 ヒト♂ Lv12
罪科 ???
と三人パーティーだったが、全員罪科持ちだ。
どうするか悩んだがお金には困ってないので去ろうかと思ったがリュミスが近づいて来て
「あの三人、マスターとミオ姉を探してるみたい」
と言った。
えー、俺たちっすか? よく聞いてみると、『ユーとミオという兄妹で髪は黒と青って情報だけで探せとか無理じゃね?』とボヤいていたようだ。
うん、これはもう確定かな?
まあ間違ってても罪科持ち、倒した方が世のため人のためなので、覚悟を決めて討たせてもらおう。




