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街に入り、ギルドに向かった。もうお昼なので人は少なかった。
いつもの受付嬢がいないので別の受付嬢の元に
「こんにちは ちょっと気になることがあったんだが、聞いてもいいか?」
「こんにちは はい、なんでしょう?」
「今日、北の草原でウルフ討伐に向かったんだが、全く姿が見えなかった。さらに探すと息も絶え絶えのウルフ達を見つけて楽にしたが、その後黒いウルフのようなのに襲われた。こいつは、魔法を使ってくる奴らだったが、こんなことってよくあることなのか?」
「はい?」
おい、こいつ何言ってんだ? って顔に出ているぞ。
「ギルドカードを確認してもよろしいですか?」
「はい、どうぞ」
ちょっとイラっときたが仕方が無い。
少し調べていると
「え⁉︎ あの、ウルフを倒されたんですよね?」
「息も絶え絶えのウルフ八匹と黒いウルフ二匹を倒したぞ」
さらに見て、後ろで作業していた男に話しかけた後、こちらにギルドカードを渡してきた。
「ここを見てください、ここにクエストの欄があるのですが」
うむうむ、真ん中ちょっとした辺りに受注クエスト欄があるな。そこにウルフの討伐、北の草原、(2/10)と書いてある。
え、二匹?
「確認されましたね。 さらに下の討伐欄を見てください」
えーっと、下からブラックウルフ2、ハイルフ4、ウルフリーダー2。かなり経験値あるなと思っていたら違う種だったらしい。
こちらが確認したのを見て
「ウルフリーダーは、群れのボスとその子供のオスがなる種です。ハイルフはウルフが進化した上位種です。これらの種は基本、人前に現れません。群れに何かあった時、戦いに赴くとされています。
そして、ブラックウルフですが資料に記載はありませんでした。名前からウルフの亜種だと思われます。使った魔法もこれまでにブラックと名のつくモンスターの情報から闇魔法だと思われます」
今更だけどあのウルフ達でかかった気がする。個体差だと思っていたが。
「まだ推測ですが、ブラックウルフが突然変異で現れ、群れを率いて今までの群れを襲撃したのでは、と考えられます」
「上位種も居たのに、ブラックウルフに勝てないものなの?」
「亜種は身体も大きくなりやすく、魔法を使うので上位種と同等かそれ以上と言われています」
説明を受けているとさっき話しかけられた男が近づいてきた。
「ギルドマスターが面会を希望しておられます」
またこのパターンですか、はい行きましょう。
部屋に入り、ソファーに座る。二回目なので緊張しない、ったらしない。
「こんにちは ユーさん、ミオちゃん、リュミスちゃん。今回のこと聞きました、報告ありがとうございます。どうやら草原の優占種の入れ替えがあったようですね。それと、ユーさんの昨日の報告、東にいたウルフ達はブラックウルフから逃れてきたのでしょう。交戦したという報告が、あの後幾つかありました」
俺みたいな新人の情報まで頭に入っているのか。目をつけられていないことを祈ろう。
「それでお呼びした理由なのですが、北の草原の調査を依頼したいのです。実は他の冒険者からも北の草原でウルフがいなくなったとの報告はあったのですが、誰もそれ以上のことが掴めませんでした」
ミオの気配察知でも探れなかったしな。
「そこでブラックウルフも討伐可能で、調査能力の高いあなた方にお願いしたいというわけです。ギルドへの貢献であなた方のランクはDに昇格、Cランククエストとして依頼します。内容は今受けているウルフ討伐のついでに何かあれば報告という程度で構いません。重要なことがわかれば金貨10枚、参加で金貨3枚が報酬となります。お願いできますか?」
どうせウルフ討伐に行くのだからついでか、欲張るとブラックウルフの群れに囲まれるかもしれないが。まあ俺たちの目的はあくまでウルフとしておこう、後八匹も見つけて狩らないといけないし。
「はい、お受けします。でも本当にウルフを探すついでにという形です。報酬には釣られませんよ」
一応釘を刺す。
「それは大丈夫です。幾つかの冒険者パーティーに同様の依頼をしてあります。どこかが頑張るでしょう」
冒険者は自己責任だし、釣られる奴が悪いのか?
「では、まずブラックウルフ討伐金は銀貨3枚と決まりました。後で受付で受け取ってください。また亜種の第一発見者報酬で金貨1枚です。ドロップアイテムと引き換えになりますので一つ頂いても構いませんか?」
そんな報酬もあるのか。
「はい、どうぞ」
とブラックウルフの毛皮を渡す。
「確かに黒い毛皮でウルフと違いますね。はい、金貨1枚です、お受け取りください」
受け取る。
「では調査の方よろしくお願いします」
頭を下げられ見送られる。
受付に戻ると
「おかえりなさいませ。事情は聞いておりますのでギルドカードをお願いします」
三人分手渡す。
「はい、ランクDに昇格されました。これからも頑張ってください。こちらが今回の討伐金、金貨1枚と銀貨4枚となります、お確かめください」
ギルドカードは縁が青色だったのが緑色に変わっていた。お金を受け取り、買取窓口に向かう。
窓口でウルフ達のドロップアイテムを渡す。
「これが、亜種の毛皮かい、これは数が集まるまで銀貨1枚で買い取るよ」
ということで合計銀貨3枚、銅貨60枚受け取る。
ギルドで美味しい飯屋を聞いてから外に出た。人化したらご馳走をという約束を守ることとする。
約束といえば、あの糞爺の首をもらいにいくというのもあったな。でも騎士の捜査とかあるらしいし、何よりここの快適な暮らしから離れたくない。
恨みはあるが騎士が晴らしてくれるだろうし。
まあ会うようなことがあれば躊躇せず、斬ってやろう。
あとは、逆恨みの商人とかの手下が襲撃に来るかと思ったが、今のところそれもない。逃げたのか? わからないがまだ注意しておこう。
とりあえず今はお腹が空いたのでご飯にしよう。
「ギルドで聞いた飯屋に行こう! リュミスが大きくなった記念だ!」
本当は人化のお祝い
「きゅー! あの硬いパンはある?」
嬉しそうに言うリュミスから目を逸らしたらミオと目があった。
「おいしいりょうりたのしみなのです! ますたーはやく、はやく!」
俺が答えなくていいように手を引っ張って連れて行ってくれる。
「ミオ慌てなくてもいいのに。リュミスついてこないと置いて行っちゃうよ」
「きゅ、きゅー!」
慌ててリュミスがついてきた。
店は少し古く、民家に見えた。間違えたかと思ったが聞いた通りの場所だ。
意を決して入る。
「ごめんください」
「はいはい、いらっしゃいませ」
50代くらいのおばさんが笑顔で迎えてくれた。
「ギルドで聞いたんですが、飯屋でいいんですよね?」
「はいそうですよ。お兄さん新人さん? 新人さんはあまりここは紹介されないのに気に入られたのかね?」
え、そういったギルド御用達のお店なの?
「今日Dランク冒険者になりました。よろしくお願いします」
「受け答えが丁寧だし、問題を起こさないと判断されたみたいだね。ここに座っておくれ」
案内された席に座る。
俺の右にミオ、左にリュミスだ。
メニューを渡されて見るがよくわからない。金額はちょっとお高め。ここは一度お店で言ってみたかったあの台詞の出番だ。
「お姉さん三人前お任せでお願いします!」
お世辞を言うのも忘れない。
「お姉さんだなんて、もう、いやだよ。ちょっと待ってておくれ」
おばさんの照れるところなど見せられ、心が揺さぶられたのでミオとリュミスの手を握った。ああ、落ち着く。お世辞言って自分にダメージとかおかしいだろう……。
「ミオ、リュミス食べたい料理があったら頼んでいいからね。食べた料理で追加したいのがあったらおばさんに言えばおかわりくれると思うよ。今日は記念だから遠慮しなくていいからね」
遠慮しなくていいと言ったら二人の目が輝いた。少し寒気がしたが大丈夫だろう、きっと。
少し待つとテーブルにはたくさんの料理が並べられた。山積みのパンに赤いスープ、野菜と肉の炒め物、川魚の煮物、何かを丸めた団子のようなものなどたくさんあった。
これ、三人分ですか?
「このヒンドーフとシャバミソは、サービスだから。いっぱい食べておくれ」
赤いスープがヒンドーフ、川魚の煮物がシャバミソらしい。たぶんサバミソが訛っているのかな?
食器を見ると箸、スプーン、フォークがあった。箸! と驚いて掴むと
「あら、珍しいわね。それは勇者様が使っていた食器で慣れれば使いやすいってことで流行ったんだけど、若い人はあまり使いたがらないのに」
ああ、勇者様か。不思議そうな表情をされたが気にせず食べることにする
「「「いただきます」」」
シャバミソを食べてみる。うん、サバミソです。久しぶりで美味しい。ヒンドーフは、唐辛子たっぷりの豆腐スープだった。なるほど火から訛ったのかな?
ミオもリュミスも美味しそうに食べている。
夢中になって食べていたらあんなにあった料理がみるみる減っていく。
「おばちゃんこれおかわりおねがいするのです!」
「おばちゃんこっちもよろしく!」
とどんどん二人が追加していく。
「パンって硬いのある?」
リュミスは諦めないなぁと思っていると
「硬いの? これでいい?」
フランスパンのようなパンを持ってきた。
「きゅー、ありがとう!」
お礼を言って受け取り頬張る。
「もっと硬くていいけど美味しいよ!」
少し満足そうなのでよかった。
ある程度食べてお腹が膨れたのでミオたちを見ている。
しばらく食べ続けて、最後にデザートもおかわりして食事を終えた。
なんとなくでしかわからないが厨房は大変そうだった。
「ごちそうさま、お会計お願いします」
かなり食べたので少し怖い。
「よく食べるお嬢ちゃんたちだね。兄さんはもっとお食べ。じゃあお会計は銅貨350枚ね」
肩を叩かれながら言われる。金額は銀貨3枚半か、あの高級宿? 7日分か。まあかなり美味しかったし、あの量食べたもんな。
会計を済ませて店を出る。
「ミオもリュミスもあんなに食べてたけどいつもの食事って足りてたの?」
そうそこが心配だった、まさか俺の稼ぎを心配していつも我慢していたのだろうか?
ミオとリュミスが抱きついてきて、二人とも耳元で
「ますたーもんすたーはしょくじをとるひつようがありますがりょうはひつようではありません」
「ほとんどは嗜好品として食べるみたいだよ。だからいつもの量で大丈夫だよ」
と小声で話してくれた。
その言葉を聞いて何か良いことがあったときだけにしようと心に決めた。
二人を抱きかかえたまま歩きだした。




