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街に入る前にポケットに入っているリュミスに大人しくしといてね、と頼むのを忘れない。リュミスは見つかると危ないし。
「きゅー」と了解の一鳴き。
一応、リュミスの方を見ながら
『鑑定』
スウェットスボン
説明 汗を吸い取りやすい未知素材のスボン
よし、リュミスの情報は出なかった。
ポケットなどは調べられる可能性が高いのでミオの左手に穴を開けてもらい、リュミスにはそこに隠れてもらった。
念のため、俺とミオにも鑑定をかけてみる。
『鑑定』
名前 ユー
種族 ヒト♂ Lv2
名前 ミオ
種族 ???♀ Lv11
あっぶねー! 念のため、確認しといてよかった……。種族が鑑定不能とか怪しすぎるよな。どうすればいいんだろう?
「ミオの種族は、ヒトだよな。うん、ヒトだよ。ヒトだと思おう」
「ま、ますたー? どうしてしまったのですか? みおはすら」
最後まで言わせず、口を塞いだ。
「ほら、リピートアフターミー! 種族はヒト! ミオはヒト! ヒト族!」
「しゅぞくはひと! みおはひと! ひとぞく!」
訳がわからないとヤケクソ気味に言ってくれた。こんなんで上手くいくとも思ってないんだけど、やってみないとね。
『鑑定』
名前 ミオ
種族 ヒト♀ Lv11
⁉︎ 成功している! 隠蔽スキルの効果かな? ただ隠すより、他の物で覆い隠す方が隠し方としては上だと思うし。
「ミオ、種族がヒトになったよ。これで鑑定されても大丈夫になった」
「さっきのはそういうことだったんですか。さいしょにおしえてください」
ジト目で言われた。初日以来のジト目だ! とも思ったが
「ごめんミオ。上手くいくかわからなかったから」
謝りつつ言い訳を口にする。
この空気から逃げるように人が並んでいる場所にそそくさと移動した。
他の人が話しているのを盗み聞きしたところ、やはり門があり、そこで身分証などを調べるらしい。またこの街の名前はオリエというらしい。それに異世界定番の冒険者もいるみたいだ。
嬉しい情報ではあるが、同時に気をつけなければならない。リュミスはドラゴンなので命を狙われる危険性が高いだろう。ミオは俺の望みを叶えて生まれたスライムなので、他には居ないであろう。珍しさや人に化けられる有能性、様々な理由で狙われるかもしれない。
大切な仲間を守るため、頑張らねばと決意を新たにした。
しばらく待つと俺たちの番になった。
「はい、次の方身分証出して」
門番が聞いてくる。金属製の鎧に大きな盾と槍、とっても強そうです。
『鑑定』
名前 ガンモ
種族 ヒト♂ Lv21
レベルも今まで見てきた中で一番高い。問題など起こす気はなかったが、対応には気をつけることにしよう。
「初めまして ユーと申します。こちらは妹のミオです。身分証なのですが、失くしてしまいました」
「失くした? なにかあったのか?」
「はい。私たちは旅の途中で立ち寄った村で騙されて奴隷として売られそうになり、なんとか逃げ出したのですが荷物は盗られてしまいました」
「そんなことが……。ちょっとこっちにきてくれるか? 少し確認したいことがある」
真剣な表情になった門番に付いていき、小屋のようなところに入って行った。
「すまないがこの水晶に触れてくれないか?」
意味はわからないが触れてみる。
「よし、色が変わらない、犯罪を犯してはいないな。さっきの話を詳しく説明してくれ」
そう言われたので話せないことをなんとか抜かしながら、説明した。
「なるほど、水晶に反応もないし、本当のことを言っているようだ。とりあえず君たちには滞在許可証を渡しておく。本来は有料だが領内での不祥事が原因なので、今回は無料だ。領内を取り締まる騎士の一員として謝ろう。すまなかった」
と神妙な顔で謝られた。
なるほど、騎士にとってこの不祥事は、自分達の監視不足となるようだ。
「私たちは、こうして無事でしたが他にも騙された方がいると思います。あれは常習犯の態度でした」
「情報提供ありがとう。身分証は、冒険者ギルドでギルドカードを作るのが一番手っ取り早い。もし良ければ今から書く手紙をギルドマスターに届けてくれないか?」
「身分証のためにギルドには寄ろうと思っていましたから別に構いませんがなぜ自分たちが?」
「いや、被害にあってるとしたら街から移動する冒険者が多いと思ってね。もしかしたらギルドでも問題になっているかもしれない。そこでギルドマスターに直接説明してもらえると嬉しい、手紙にも書くが実際に被害にあった君たちが説明する方がいいだろう」
なるほど、それは被害を抑えるために必要かもしれない。
「それに、今回はこちらの不祥事に巻き込んでしまったので当分の生活費は与えられるが少なめになってしまう。ギルドに情報を売ることで報酬も得られるだろう。その事も手紙に書いておくから」
この門番さんは良い人のようだ。騎士団からの情報としてギルドに渡す事も出来るだろうに。
「ありがとうございます。手紙をギルドに届けることにします」
「それは良かった。ちょっと待っててくれ、手紙と生活費を用意するから」
他の騎士を呼び寄せ、何やら指示を出している。少しすると手に布の袋と封筒のような物を持って来た。
「これが当面の生活費と仮の身分証だ。両方布の袋に入れてある。生活費は、銀貨五枚と少なく、申し訳ないがこれ以上規則で出せない。こっちは手紙だ、報酬は色を付けるように頼んでおいたからそっちを期待してくれ」
申し訳なさそうに言われた。
銀貨の価値がわからないがそう高くないのか。最初からアイテムボックスに50枚入ってたしな。
お礼を言い、冒険者ギルドに向かうことにした。
ギルドに着く前に見かけた大きなカバンをアイテムボックスを誤魔化す為に購入した。
遠くから見てわかっていたが大きな街のようだ。歩いているとヒト以外の種族もいることが分かる。動物の耳が頭の上に付いている獣人と思われる人や完全に二足歩行の獣という容姿の人もいた。少し歩き冒険者ギルドに着いた。
剣と杖が重なった看板が目印の大きな建物だ。
扉を開けて入ってみる。
なるほど、酒場がないタイプか。まあ酒場付きだと利益が有るんだろうが、酔っ払いの迷惑行為やらで冒険者の名を落とすことになるだろうから、最終的には不利益になりそうだと思うしね。
あとはこちらはやっぱりというべきか、怖い顔のおっさんばっかりだ。うん、日本だったら組事務所かと思うわ。
てか、ジロジロ見んな。怖いだろうが! ミオなんて俺を守る為に臨戦態勢だぞ!
「ミオ、怖いのは分かるけど短剣をすぐ抜けるように構えないでね」
とりあえず抑える。
「でも、ます……に、にいさまきけんです。ここはあぶないひとのしゅうかいじょうですか?」
その言葉を聞いて何人ものおっさん達が俯いたり、目線を逸らした。純粋な子供にそんな事を言われ落ち込んだらしい。わからなくもない。
そんな事よりもするべきことがあると思い出し、受付に向かった。特に絡まれるようなことはなかった。ミオのさっきの言葉が牽制になったのかもしれない。
受付嬢は美人だった! 美人だったよ! 男なんて単純だから美人置いて働かせろってことですね。わかります。
野郎も居たがそちらには向かわず、美人の受付嬢の下に向かった。