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……確かに俺を侮辱されてみんなが激怒している……
それに俺単品の激怒など今のみんな一斉に激怒している姿を見ると、ショぼく感じてしまう。
でも違うんです、受付嬢さん! そんな、俺に触れるとみんなが怒るぜ! みたいなチーム名にしたかったわけじゃないんです!
そう思いながらもどういう状況かはわかった。
パン! パン! と二度手を叩き、こちらに視線を向けさせる。
「話はわかったから、そちらのリーダーと俺が、リーダー以外とチカが戦ってみればいい」
俺がそういうとむさい男達が下卑た笑いを浮かべてくる。
「戦ってもいいが俺たちになんか得あんの? お嬢ちゃん達を貸してくれるとか? あははは〜〜」
死ね!
「死ね! 俺に勝てば、俺のランクダウンとお前のBランク昇格の話をギルドに聞いてもらえるんじゃねぇの?」
「死ねぇダァ? 上等だ! ぶっ殺してやる!」
挑発ではなく、本気だったが乗ってきた。
「じゃあ、まずばチカ頼んだ、本当は殺してもいい、というか殺してほしいんだけど……」
受付嬢が青ざめて首を横に必死に振っている。
「うーん、四肢の一本千切れるぐらいは問題ない? これもダメなの? 四肢の骨を折るのは? え、これもダメだといい加減にこっちで勝手に暴れるよ! え、ギリギリセーフ? はい、言質取った! チカ、手足を千切らないように骨だけ砕け!」
「わかりました、ユーしゃま」
「お前らなめてんだろ! こんなガキ、四人で囲めばそっちの骨が砕けるわ!」
「やっちまえ!」
ということでチカ対Cランク四人、青ざめた顔の受付嬢が審判です。
「ルールはどちらかが動けなくなるまででいいか?」
こんなルール、念の為鑑定して相手がレベル30代ばかりじゃなかったら怖くてできないな。
「はぁ? 何お前、幼女が虐げられてる姿に興奮する変態? 」
「黙れ! 戦えばわかる、自分の見る目のなさを、この娘たちに下卑た発言をしたことを苦しみながら後悔しろ!」
「……その条件でいい、ぐっちゃぐちゃにしてやんよ! お前こそそんな条件にしたことを後悔しな!」
「あ、あの条件は変えられた方が……」
青ざめた顔ながらそんなことを言う受付嬢だったが、両陣営に睨まれて黙った。
「は、始め!」
やけくそ気味に叫んだ受付嬢。
まあ試合結果は特に言うこともない。
チカが盾で四人とも吹き飛ばし、手加減しながら四肢を杖で叩いていっただけだ。
なんか涙を流しながら謝ったり、降参と叫んでいた奴がいたが、降参はルールに含まれていないんだよ。
ということで四肢の骨を折った後、動かなくなるまで腹に杖が降り注いで模擬戦終了。
周囲が静まり返っている気がするが知らない。
「チカ、お疲れ様! あ、みんな次の試合があるから邪魔なの片付けて」
俺の言葉を受けて、みんなが競うように邪魔なのを蹴り出した。
ストレス、溜まってたんだね。
「あぅ、蹴れなかったぁ!」
「……ツギ、ケる……」
ライカは次、リーダーを視界に捉えていた。
そのリーダーはというと、なんか涙を流しながら震えていた。
最初はチカの行動を止めようとしていたのだが、無表情で淡々とこなしていくチカに恐れを抱いたようだ。
「さて、次は俺とお前の模擬戦だな」
俺的にはニコッと笑って言ったつもりだ。
「ヒィィィィ……」
なぜか怯えられた……
「ルールはさっきと同じでいいよな?」
凄まじい勢いで首を横に振られた。
「こんだけ俺たちの恨みを買っておいて、ここ以外のところで出会ったらどうするつもりだ? こんな生やさしいもんじゃないぞ。それに焚きつけたくせに一人だけ無事だったら仲間はどう思うだろうな?」
その言葉に更に震えだす、リーダーと受付嬢。
「大丈夫だって、俺はチカより弱いよ。能力値もチカの三割から二割程度しかないからな」
「そ、そうか、それなら……」
そうホッとした様子で条件を飲むリーダー。
「始め!」
「う、ウラァァァ〜〜!」
少し尻込みしながらもやけくそ気味に木剣で切り掛かってきた。
「くぅ〜〜!」
痛い! だが朝練で胴打ちが外れて急所を叩かれた時よりも痛みは少ない。
「な、なんだ、こいつ弱いじゃねぇか! びびって損した……」
一般的なCランクの攻撃が俺のHPだとどれくらいのダメージなのか知りたくて受けてみたのだが、また調子付かせてしまったようだ。
「これが40レベル代の攻撃、なんだこの程度か」
こういう相手に挑発は基本だろう。
「効いてねぇはすがねぇ……ど、どうせやせ我慢だろう、やってやる!」
さて、俺も攻撃しよう。
「う、うぐぅ……」
「……」
相手が呻きながら地面に横たわっているのを見つめる。おそらく俺の視線は冷たいものになっているだろう。
俺がしたのは相手の動きに合わせて喉と四肢のどれかがぶつかる場所に木刀と木剣を設置することだけ。
あとは勝手に突っ込んできた相手に当たり、喉や四肢を痛める結果となった。
そうして動けば当たるということを理解し、蹲っている。
これは心眼(擬)に頼った戦い方だが、弱点も見えてきた。
このスキル、時間を掛ければかけるほど相手の情報が集まり、精度が増すかと思っていたのだがそうでもないらしい。
いつもは精度が下がる前に倒すか倒されていたので問題が見つからなかったが、相手の動きの鈍りなどがあるとその都度修正しなければならないようなのだ。
これだけでもこの模擬戦をした価値があったと思う。
だだ、こいつの動きは単調すぎた。よくこれでBランクになれると思ったものだ。
迷宮のみで強くなった冒険者なのかもしれない。
外でなら対人戦やらの対応も必要なはずだからな。
迷宮ばかり潜っていてもダメだってことだな。
さて、色々と考えていたがリーダーはもう立つ気力はないらしい。
まだまだやろうと思えば立てるはずなのにな。
まあいい、受付嬢に目を向ける。
「止め」
「……かたづけ……」
「あぁ!?」
受付嬢が言った瞬間、ライカが走り込んでリーダーの男を蹴り飛ばした。
リンカが短く悲鳴をあげる。
……悪は滅びた。
「ユーさんにとっても妹さん達は逆鱗のようです、要注意とギルドでも話しておかなきゃ」
よし!
そうして俺たちはランクが皆上がった。
Bランクは縁が橙色だった。
さて、今日こそ階段を見つけてダンジョンの十五階層に行きたいな。