表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/104

102

 ぶつかった場所を触れてみると壁のようなものがある。

 それがずっと続いている。

「マスター、たぶんだけど別の空間に連れ去られたみたいだよ!」

「わかるのかリュミス!」

 俺の言葉にうーんと唸りながらも答えてくれる。

「この壁みたいなものが空間を切り離しているんだと思う。空間魔法なのか、結界魔法なのかわからないけど相当な実力者の仕業だと思うよ」

「それはどの程度の?」

「……あの白刃(しらは)って人ほどじゃないとは思うんだけど……」


「白刃より下にされるのはさすがになぁ」

 !? 突然、俺たち以外の声が響いた。

 そちらを見れば真っ白な男か女かわからない中性的な子どもがいた。

「あはははは、こんなことってあるのかねぇ。なんで君を見て白刃はわからないんだろうねぇ、ああ、そういえば白刃は直接会ってはいなかったね」

 突然俺を見て白い、何もかもが白い子供が笑い出した。

「何者ですか?」

 みんなが武器を抜き構えるが子供は平然としている。

「無駄なことはしない方がいいよぉ、なにもできずに空間ごと切り取られるような君たちじゃ僕の相手にはならないよ。僕がその気になれば指先を動かすくらいの気安さで君たちを消せるしねぇ〜。まあそんなつまらないことはしないけど」

 またなんというか白刃とは違う意味で凄いのが出てきたな、俺もう伯爵家絡みで疲れているんですが……

「あ、佑衣斗(ゆいと)君お疲れのところごめんね。でも今じゃないと間に合わないかもしれないんだよぉ」

 何に?

「君の大事な子の危機にさ」

 子? 俺に子供はいないぞ。

「そもそも君はなんなんだい?」

「あ、いっけなーい! 忘れてたよ、僕に名前はないけどよく神とか白神とか呼ばれているよ。友達にはねぇ、自称神とか呼ぶ人もいるんだよぉ。それと白刃が言ってた隠しボスってのは僕のことかな」

 ……思ったより大物が出てきたぞ!

 いや、ちょっと待て、こないだのバレンタインのときに自称神とか男の声が言ってなかったか?

「そうそう、彼が僕の友達で世界創造者(ワールドメーカー)なんて痛い名前で呼ばれたりもする奴で暇なときにこの世界の管理もしてくれてるんだよ。彼が君を見つけたから調べてみたら、君の知り合いがこちらの世界に来るみたいなんだよね、それも危ない場所に」

 ! 俺の知り合いで、大切な子、もしや!?

「気がついたようだね、僕はね長谷川佑衣斗に一つ借りがあってね、だから君が後悔しないように聞きに来たんだ」

 ……? 俺に借り?

「長谷川佑衣斗に借りさ、それで君に与えられる選択肢は二つ。一つはその子を救わない、これは本来の流れで、まあその子はボロボロに利用されて最後には自殺しちゃうかな。でも君たちには一切の危害がない」

 ……軽く言ってるけどかなり重いよ……

「もう一つは僕の力で彼女の転移時期をずらし、君のところに転移させる」

「それだけじゃないんだろう、続きを言ってくれ」

 と言うとちょっと驚いた顔をした。

「あれ、わかっちゃった?」

「お前は与えるだけってことはないような気がした。それにわざとさっき危害がないと明言しただろ」

 ふざけてやがる、それを言ったらこっちには俺たちに危害があるってわかるだろうよ。

「まあそうだね、こっちは本来なら君たちが出会わない、もしくは出会う前に倒されているような敵と戦うことになるだろうね。それも相当な難敵に、ね」


 その話を聞き、悩まされることになった。

 正直に言えば、どの子かはわからない、おそらく彼女ということからあの子だとは思う、まあたとえその子じゃなかったとしても助けたいとは思っている。

 こちらの世界に一人で転移してきたとすればそれは心細いし力もそんなにないはず。

 ミオがいた俺のように知り合いである俺が近くにいれば安心感も与えてあげられるかもしれない、本来の死を回避できるかもしれない。

 だが、みんなに危険が降りかかる。俺だけならそれでもよかった。

 俺には大人として元の世界の繋がりとして、義務とは言わないまでも助けなければという使命感を持っている。

 だから俺だけの命ならばたぶん賭けられた。

 そんな風に忌々しく自称神を睨んでしまう、お前がこの世界に連れてこなければそもそも……

「あ、怖い目付き……僕を恨むのは筋違いだょ。彼女がこの世界に来るのは自殺したいほど追い詰められていたからなんだしぃ。そもそもここには人生を諦めたような人間しか転移されないようになっているんだから」

 は? 俺は? あの日、ゲームデータ消失で不貞腐れてただけだと思うんだが……いや、それ以前にその子はなぜそんなにも追い詰められているんだ!?

「君の場合は、まあ特別さ、引き寄せられちゃったんだろうね。彼女の場合は君に関係している、となると間接的には僕が悪いのか? うーん……」

 何やら言っているが頭に入ってこない。俺が関係して自殺に追い込まれている? そう考えた瞬間、激しく心臓が動き回り、身体中から汗が噴き出してくる。


「マスター、その子を救いましょう!」

 焦ってパニックになりかけた俺は、いつの間にかミオに抱きしめられていた。

「ここでその人を救わないと心優しいマスターは一生後悔してしまいます。だから救いましょう! マスターの前に立ち塞がる困難は私たちが振り払います。私たちを信じてください!」

「そうだよマスター、私たちに任せてよ! こんなときのために龍の力はあるんだよ」

「あるじサマのためならがんばれるよ〜!」

「ご主人様の障害を取り除くのもメイドである私の役目です。ご主人様は御心のままに動いてください、それを全力でサポート致します」

「あんしんして、トノのテキはぁ〜やきはらうよぉ〜」

「……トノのヤリは、テキをツラヌキ、ミカタをマモる……」

「ユーしゃまをお守り致しましゅ」

 そうみんなに励まされ、抱きしめられる。

 そうして俺の心は決まった、みんなとなら乗り越えられると信じよう。

「みんな、ありがとう。俺はその子を救う道を選ぶ!」

 そう自称神に叫ぶとブツブツ呟いていたのをやめてこちらを見た。

「本当にいいの? 後悔しない?」

「ああ、みんなが背中を押してくれた。ならあとはみんなを信じ、協力して困難に立ち向かうことにするよ」

 その言葉を聞いた自称神は何やら目を瞑って懐かしそうに呟いた。

「やはり長谷川佑衣斗はいいねぇ! じゃあ僕は神様じゃないけどそれらしく君たちを見守ることにするよ、じゃあね」

 そういって白い子供は去ろうとするが、途中でこちらに振り向いた。

「忘れてたよ、異世界初心者応援イベントはレベル10までの人を対象にしているからもうすぐレベル10になる君はもう受けられなくなるみたいだ。異世界人でレベル10以下なんて現れたことがなかったから世界創造者も焦ってたよ」

 なにぃ!? もうチョコやらプレゼントやらを受け取れないのか!

「うん、まぁそういうことぉ。でもチョコはどこかの特産になってたと思うよ、興味ないから覚えてないけどねぇ〜」

 それを聞いて色めき立つみんな。女の子は甘いものが好きなんですね、男だけど俺もです。

「そんなわけでじゃ、あね〜」


 そうして白い子供は消えた。

「兄様、生命反応が戻ってきました」

 そうか、ありがとうとミオの頭を撫で、ぐったりしながら宿の方でご飯を食べた。

 執事服だったり、メイド服だったりで注目を集めてしまったが、たくさん食べてから逃げた。

 完全に忘れていたよ、いろいろありすぎて。

 だからすぐに寝ることにした。

 みんなの温かさに包まれて即落ちした。


 着るべきか、着ないべきか、俺は悩んでいる。

 朝練前、普段の革鎧をつけるか執事服で行くか俺は悩んでいた。

 はっきりと執事服の方が防御、魔法防御で優れていることが鑑定で判明しているだけに悩む。

 着ればこいつの良さから貴族との繋がりを予想させてしまうだろう……だが身の安全を第一に考えたら着ないわけにはいかない。

 ツナ伯爵の思惑通りに動かされている気がしてならないので回避したいところだが……

 目先の安全と後々の面倒ごとか今まで通りと後々の面倒ごと回避、こう見ると後者で安定なのだが、目先の安全が必要なこともあるんだよなぁ。

 さらには目立つというデメリットも存在しているがミオやクオンは俺が執事服を着るのに賛成らしい。

「良い服なのです、執事服なのは気に入りませんが素材は確かに良いものなのでマスターを着飾るのに相応しいものです」

「ご主人様の服が私たちと同ランクになるのも問題ですが、確かに良いものです。それにご主人様がこちらを着ない場合、私たちの服の方がランクが高くなってしまいます、それは許されないことです」

 ということで俺が着ないとみんな着れない、防御力が下がってしまう。

 はい、逃げ道など最初からなかったのですね。

 まあ問題が起こったら逃げよう、そう俺たちは冒険者なのだから。

 そう決めて執事服を身に纏った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ