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アウラは一見素手に見えた。
だが違った、彼女は暗器使いだ。
正直何処に仕舞っていたのかわからない暗器が出てきて、いつの間にかまた仕舞われている。
それらの攻撃をミオは左右の木短剣で弾いている。
暗器の攻撃も奇想天外で捌きにくいというのに、アウラはさらに魔法をも使い出した。
それだけは木短剣で受けること叶わず、避けなければならない。
そしてミオは押され出した。
俺には二人の戦力差は速さがミオ、それ以外はアウラの勝ちのように感じる。
アウラはおそらく突き抜けたものはない。獣人たちには身体能力で負けるし、魔法ではウィリデに負けてしまうだろう。
だが、彼女たちと一対一での勝負をすればアウラが勝つだろう。
そのぐらいの総合力を持っていることがわかる。
そして彼女には必殺技を使う様子は窺えない、しかしその理由はウィリデとは違っている。
アウラの場合、その一挙手一投足が本来なら必殺の威力を秘めているのだ!
ここまで木製の暗器を使っているが、本来ならこれには刃などもついている。そして暗器と相性の良い毒だって付加されているだろう。
ここまで鮮やかに扱えるのだ、毒が使われないわけがない。
まあその場合でもスライムであるミオに通用したかはわからないがそれでも恐ろしい。
暗殺者対策には自らがそれになった方が対処しやすいということなのだろうか。
ある意味でミオと相性が悪いアウラだが、ステータスの面では相性が良いとも言えるようだ。少しずつミオが押されてきている。
ミオ自身が速さと短剣の技量で守りを主体とするのだが、アウラの暗器というトリッキーな攻撃に振り回されている。
一つ一つの対応が異なるのだからそれも仕方がない。
特に今は服を纏っている。まだ肌の露出面積の多い服なら良かったのかもしれないが、今着ているのは肌をほぼ覆い隠してしまうメイド服。
高級品とはいえ、それがミオの知覚を鈍らせていた。
それらと合わせて地力で負けているということで反撃の糸口も見出せないようだ。
これは厳しい、だから俺は許可を出した。
いいよ、そう心のなかで思うだけでミオには伝わったはずだ。
対人戦でのこの経験はこれからに役立つはずだ、よし! 試合が動いた!
ミオはアウラの攻撃を防ぎながら、大きく距離をとって
「分身の術!」
と唱えた。
その瞬間、ミオの身体が二つに分裂した!
対面しているアウラもそうだが、ツナ伯爵陣営は皆が驚いている。
動揺しながらもアウラの行動は早かった。
近い方へと斬りかかった、しかしそのミオは攻撃を避けていく。
そしてもう一方のミオが近づき、アウラへと攻撃をし始めた。
そうなってくると今度はアウラが防戦一方となる。
二人のミオは素早く動き回り、攻撃を加えていく。
たまにアウラへと攻撃が当たっているのにダメージがないような様子が見られるが、幻影の方も攻撃しているからだろう。
だが、高速攻撃と隠蔽術によってどちらが幻影なのか悟らせない。
まあ攻撃によって片方が幻影だとバラしてしまっているが、そのあたりはメリット、デメリットが存在する。今後は相手次第で臨機応変に対応していかなければならないのが見えてきた課題かな。
ミオの忍術はまだ一種類しか使えない。現在使えるのは分身の術で、己の気配のある分身(幻影)を作り出せる。
これだけならある程度したら分身の方は見破られてしまう。
しかし、隠蔽の達人であり、素早さ特化のミオが使えば話は変わってくる。
気配を消したり、濃くしたりと、自身と幻影の気配を大きく変動させ相手を混乱させたり、高速で戦いながら入れ替わり、その度に気配まで入れ替えたりとそんなことをして相手を惑わすのだ。
それにより気配察知に優れるものほど泥沼にはまっていくだろう。
そして、どうやらアウラもそのタイプだったようだ。
幻影だと気づいてしまったが故にそれを看破して模擬戦を好転させようとしてしまった。
そこからは徐々に暗器の扱いにも精彩を欠き、遂にはダメージが積み重なり膝を折った。
「止め!」
そうしてミオは勝利を収め、俺たちの仕事は終わりを迎えた。
……今回、俺なにもしてない……
「兄様、勝ちました!」
そう言って近づいてくるミオを撫でつつ
「忍術がバッチリ決まったね、おめでとう。お疲れ様」
模擬戦の疲れをねぎらう。
「あにサマぁ、つぎはぁ! つぎはぁ! リンカもかつやくするよぉ!」
「……おめい、へんじょう……」
そう言ってリンカとライカに両手を掴まれブンブンされた。
ライカはいつの間にか俺の胸から離れ、顔も綺麗に拭いていた、いつの間に……
そんな風に慌しくしていたらツナ伯爵が近づいてきていた。
「ユーさん、お兄さんは大変ですな。今回は依頼を受けてくださりありがとうございました。こちらでギルドの方に依頼達成を報告しておきますのでギルドの方で報酬はお受け取りください。もしよろしければこの後の夕食も食べて行ってください。おい、ソラ! お前もお礼を言わないか!」
怒鳴られて嫌そうに近づいてきたソラだが不機嫌そうにしている。
「……またな」
そう言って去っていった。
「こら! ソラ! 全く困った奴です……では夕飯までゆっくりと過ごしてください」
そう言ってミミルだけ残して去っていった。
ミミルの案内に従い俺たちの休憩室に割り当てられた部屋に向かう。
「……兄様」
喋りかけたミオの口に指を当てて静かにさせた。
そしてわかっていると目で伝える。
もし俺たちに彼女たちの視線が向かっていれば注意するのだが、なぜか彼女に向かっている。
そうやってことの成り行きを見守っていたら、人気が少なくなったところで彼女たちが動いた!
三人の獣人が襲いかかったのだ! ミミルに。
「にゃ!?」
だがさすが猫の獣人で高レベル者、三人の攻撃を察知していたような動きで躱していく。
叫んだから察知してはいなかったようだが。
それでも三人がなんとか足を押さえた瞬間、魔法が放たれた!
それにミミルは本気を出したのか三人を吹っ飛ばし、ギリギリで避けた。
だがギリギリではダメだったようだ、先ほどよりも強い魔法がすでに彼女を捉えており、なすすべなく一撃を受け吹っ飛んでいった。
ミミルを見るとどうやらメイド服のおかげで怪我などはなさそうだが、獣人という魔法防御が弱そうな種族ということもあって気絶しているようだ。
そんなミミルの動きを止めるために、牽制として魔法を放ったアウラがこちらに一礼してにっこりと笑った。
「ソラ様がご歓談をご希望されております。どうかお受け頂けませんか?」