笑顔の裏の嫉妬。
「失礼します、宮前 裕海です。
藤堂先生に用事があってきました。」
私が挨拶をした瞬間、
藤堂先生がはっとしてブンブン手を振る。
「裕海~っ!!今日も来てくれたね!!」
にこやかに目を細めて手を振りながら
こっちを見る先生は人懐っこい猫のようで
可愛い。
「藤堂先生、元気ですね~」
「最近毎日授業楽しいし、
裕海が来てくれるからね!元気いっぱい!」
心臓部分がぎゅっと締め付けられる。
お世辞だとわかってるものの、
藤堂先生のことを好きな私としては
天に登ってしまいそうなくらい嬉しい。
やばい、顔赤くないかな...。
「お世辞でもそんなこと言ってもらえると
嬉しいですね~。
私も先生が元気だと元気になります!」
なんとか、声も裏返らずに言うことが出来た。
良かった...。
先生の方はというと笑顔が更に満面の笑みに変わった。
イメージ的には
【(゜∀゜)→ (*゜∀゜*)】こんな感じかな。
「裕海にそう言ってもらえると嬉しいね~!
I’m very very happy!!
oh!!そうだ!雛のことなんだけど...」
雛は、例の私の部活の後輩だ。
真面目に聞かないといけない、
今、私の耳と口はきちんと藤堂先生と
会話しているのだけれど
脳にある思考のほうは全く話を飲み込んでない。
いつも、そうなのだ。
私と藤堂先生が話すのは、雛のことで。
藤堂先生が心配しているのも雛で。
藤堂先生が雛の担任だから仕方ないけれど
正直羨ましい、妬ける。
雛と授業以外私と藤堂先生が繋がる話題はない。
ましてや、授業が終わって話すのは
全部全部全部全部全部、雛のこと。
雛は、もちろん大切な後輩だけど
私と藤堂先生が雛以外の話をしたことなんて
今までない。
醜い嫉妬の感情は私の中をぐるぐると
真っ黒に支配していく。
駄目だ、汚い、こんな汚い感情。
自己嫌悪と嫉妬で苦しい。
「.......ひろか.....裕海!!」
先生に呼ばれて私は我に返った。
「えっあ、すいません!!えっと........」
「裕海、どうした?」
「いや、大丈夫ですよ!?」
先生は私の目を見つめる。
目どころか私の奥底まで見透かされているような...
思わず背筋が伸びる。
私は、ちゃんと笑えているかな?
「ん、それなら...いいけど...」
「ごめんなさい、もう時間なので
また後日、お話できますか?」
「OK、大丈夫よ〜!」
「では、失礼しますね。」
足早に先生のところから離れて教務室から出る。
嫉妬と自己嫌悪、先生が見つめていた時の表情、
部活のこと全部がぐるぐる回る。
下駄箱からローファーを取り出して床に落とした。
ローファーは軽い音を立てる。
ため息がこぼれた。