ファーストモーメント3
今回の登場人物
秋吉 慶子 中学2年生。大人しいが案外物好き。身長
高くてスレンダー。 179㎝
「はいはい、暑苦しいからやめなさい」
そんな恥ずかしいことになっているとは知らない僕たちを見下ろす謎の女子。
程よく焼けた肌に長い黒髪。背は僕らより高くすらっとした風貌、くりっとしているはずの目は冷たく細い目にモーションチェンジされている。
「ぐっ……すまん。秋吉」
皆人はこのクラスメイト、秋吉 慶子に謝った(僕をギロッと一瞬睨んでたが)。
「分かればいいのよ、分かれば。私はそういうの好きだけど、周りの視線は怖いわよ」
フッと皆を見る。しかし、そんな冷たい視線の人はいない。
僕は秋吉に言い返した。
「そんな怖い目してるの秋吉ぐらいだぞ」
『そうだそうだ』といわんばかりに激しく頷く皆人。
「……はぁ。あなたたち、鈍感ねぇ」
『『ひどいぞ! 僕ら(俺ら)は鈍感なんかじゃない!』』
そう言った僕らを『ダメだこりゃ』と言わんばかりにため息を吐く秋吉。
「……もういい。好きにやってちょうだい」
そう言い残し、秋吉は自分の机に戻っていった。
「……さっぱり、わかんね」
「……そうだよな。なんで僕ら怒られたんだ?」
……確かに鈍感な僕らだった。
今日は数学、理科、英語、古文、IT、歴史といういたって普通の授業。
数学は今はまだ二次関数だし、理科は無脊椎動物、英語は受け身文法、古文は徒然草、ITはネットでこっそりワイワイ(矛盾してるが、つまるところのツイッター)、歴史はWWⅠ。授業スピードもいたって普通。受験前のピリピリさもなし(ちょっとのんびりし過ぎか)。
そんなためになる授業をこなして、帰る支度をする僕。
僕は文化部で、入っている部活は歴史研究部。しかし、今日は部活がない。
何をしようかと考えていた僕は突然の襲撃を防ぐことが出来なかった……あ、既視感。
「とおぉりゃあっ!」
重い鞄を『ズシャ!』と僕の頭に振り落す遥と前のめりになる僕。
そのまま僕は重力に任せて倒れた。
「あぁっ! ご、ごめん!たっくん大丈夫!? ……ぴ、ぴくりともしない…… ……お、おーい!おーい!」
……頭がポーッとしている。これ、死んだか?
「たっくん……死んじゃった! ど、どうしよう…… あっ、でもあたし逃げないと警察に捕まっちゃう!」
「いや、逃げたらあかんやろ」
思わず口に出た、ややネイティブな関西弁で突っ込んだ僕。
「たっくん、生きてた!」
どうやら声が届いたということは生きているらしい。そう思ったと同時に少しずつ覚醒する僕の意識。まだ頭はガンガンするが、立てそうだ。
遥の力を借りて立つ僕。僕はキッと遥を睨んでこう言った。
「殺す気か、おい」
「や、やばい、声にドスが効いてる……」
「なんか言った?」
「い、いえ、何でもないです! 拓海君、ごめんなさい」
……なんか反省してそうなので許してやろう。
「ったく、今回はやりすぎだ」
「ごめん…… 思いっきり振り落した……」
「はぁ。 ……まぁいいや。で、どうしたの」
「あ、そうそう。たっくん一緒に図書館行かない?」
「図書館ってどこの?」
「駅前のおっきな図書館だよ」
「めったに行かないな…… まぁ、暇だし行くか」
友人も誘おうと思い、教室を見ると鞄を背負って帰ろうとする皆人の姿が目に入った。
「おーい! 皆人! 一緒に駅前の図書館行かないか?」
僕の声に気付いた皆人はこちらにやってくる。
「駅前の図書館に行くのか?」
「あぁ。一緒に行かないか?」
「おう、行くか ……ってお前、美郷ちゃんも行くのか?」
「うん! あたしもいくよ!」
「あ~、そういや用事思い出した! タクミ! 『二人で』行って来い!」
『二人』を強調して、ニヤニヤしながら去っていく皆人。 ……なんなんだ?一体。
「ま、いこ! たっくん!」
「そうだな。行くか」
……この時は知る由もなかった。
……この、何気ない一コマが。
……とてつもないフラグを巻き込んだことに。