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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

禁断の愛の結末〜終わり良ければ全て良し〜

作者: ミスマッチ

 太陽が沈み、夜も更けた頃だった。


 月明かりが照らすとある高校の屋上。


 そこに二人の人物が居た。


 一人は屋上の出入り口にほど近い位置に、もう一人はそこからさほど離れてもいない位置に向かい合う形で立っている。


 心許ない明かりの中、窺い知ることが出来たのはその人物らが男女であることと、何か揉めているのか険悪な雰囲気ということだけだ。


 一人は高校の制服なのだろうYシャツとスカートを、もう一人はスーツにネクタイといった物を着ているあたり、教師なのだろう。


 一つの風が吹き抜けた頃、今まで黙っていた少女がゆっくりとした口調で男性に切り出してきた。


「ねぇ……、私言ったよね? 私だけを見てって。私だけを愛してって」


「そうだな、だからそうしてただろ」


 少女の思い詰めたようなその言い方に、男性は大して気にした様子も見せずに返した。


 少女の言葉の通りにしてきただろう、と。


 だが、少女はその言葉に怒りが募ったのか、それを真っ向から否定する。


「嘘言わないで!! 私以外の女と和気あいあいと話して、挙げ句の果てには抱き合ってたじゃない!!」


「はぁ、話すのは仕方ないだろうが。仮にも俺は教師だぞ。生徒を邪険に扱えるか、馬鹿。それに抱き合ってたってのは何だ。知らねぇぞ、そんなこと」


 少女の怒りに満ちたような叫びに、男性はまたしても平然と受け答えをした。


 いや、今度は溜め息を吐いているあたり、呆れが多少混じっているかもしれない。


 ただ言えることは、男性は少女のそれを相手にしていないということか。


 その態度がいけなかったのだろう。


 少女の顔から怒りどころか表情という表情さえもが消え果て、瞳からは徐々に輝きが失われていった。


「ほら、また嘘吐いた。私、見たんだよ? 昨日の昼休みに、渡り廊下で私以外の女と抱き合ってたの」


「昼休み? 渡り廊下? ああ、あれか。ありゃ違うっての。あいつがふざけて抱き付いてきただけだ。見てたんなら、すぐに引っ剥がしたのも見てただろうに」


 そのことか、と男性は少女の誤解を解こうとしたが、それは既に手遅れだったと言わざるを得ない。


 そのことは、少女が後ろ手に隠していた物を取り出したことからも分かることだった。


 それは容易く人をも突き刺せるような、鋭く研がれた月明かりに煌めく包丁だ。


「もういいよ、言い訳なんて。私、もう決めたから。先生を私一人の物にするにはこうするしかないって、分かったから」


「おいおい。いくら何でも冗談じゃ済まねぇぞ、それは」


 流石に男性もこれには一歩、二歩と後ずさる。


 男性もここにきてようやく理解したようだ。


 少女が壊れてしまっているのだ、と。


 その時だった。


 表情を削ぎ落とされていた少女の顔が、不気味に歪んだ笑みを浮かべた。


「冗談なんかじゃないよ? 先生」


「流石の俺も怒るぞ、いい加減にしろ!」


「怒ってもいいよ。私に向けられる感情なら、何でも受け入れる。私一人を見てくれるなら、それでいいの」


 後ずさりながらも叫ぶ男性に、少女はその歪んでしまった感情を露わに一歩、また一歩と男性へ向けて歩む。


 少女は狂っていた。


 包丁の切っ先を男性に向けたまま、甲高い声で笑い続ける。


 そんな中、最早少女を止められないと判断した男性は、唯一の逃げ道である屋上の出入り口、扉に視線を向けた。


 それは近寄ってきていた少女にも分かった。


 だからこそ少女は嫌らしい笑みで男性のその希望を打ち砕き、絶望の淵に落とす。


「ふふ、そこの扉が気になる? 逃げようったってそうはいかないんだから。鍵は施錠済み。逃げ道なんか無いんだよ?」


 少女の思惑通り男性は後ずさることも忘れ、既に目と鼻の先にいる少女を絶望とともに見た。


 そして、少女は言った。


 その強く握り締めた包丁を男性に振り下ろしながら。


「だから、一緒に死のう? せんせ」


「よせ、やめるんだ! やめろ! やめ――――」


 男性の絶叫する声が、夜の校舎に響き渡る。


 男性の断末魔だった。


 その直後、少女の笑い声が男性の声を追い掛けるように校舎に響き渡っていった。


 それも数分後には止み、校舎はまた静けさを取り戻した。


 翌日、屋上にて男女二人の遺体が発見される。


 一人は惨たらしく切り裂かれ、何度も刺された状態で発見され、そこに覆い被さる形でもう一人も同じく発見された。


 覆い被さっていた方もまた無惨に切り裂かれ、何度も刺された跡があったものの、後に自殺と判定。


 事件は少女の無理心中で幕を閉じ、それで終わる、誰もがそう思っていた。


 だが、違った。


 この事件以来、被害男性の親しかった女性が相次いで不可解な死を遂げたのだ。


 それは男性が教師を勤めていた高校にも及び、教師や生徒が少なくない数亡くなった。


 高校はお祓いや慰霊碑を建てるなどしたが、全て無駄に終わり、更に信用を失った高校は数年後には廃校。


 呪われた高校、と人々の記憶に刻まれ、オカルト好きな人々には心霊スポットとして活用された。


 そして、一部の例外を除いて次第に忘れられていった。


 校舎には今もなお、少女の笑い声が響き渡っている……。








「って、ふざけるな!! 何よ、これ! ヤンデレとか鬱系の話かなって思ったら、ただの三流ホラーじゃない! それに名前出してないけど、明らかにこれって私と先生がモデルじゃん!!」


 少女は今まで黙って読んでいた原稿を勢い良く床に叩き付け、これを渡してきた人物の襟を掴んで揺すぶった。


 その様子はまさに怒り心頭と言った様で、立っていれば地団駄を踏んでいたことだろう。


 だが、襟を掴まれ揺さぶられている人物は、頭を前後に揺らされながらもその様子に大爆笑していた。


 少女に揺さぶられていなければ、腹を抱えて笑い転げていたかもしれない。


「いやいや、なかなかに面白かったでしょ?」


「面白くも何ともない! 何で先生とのこと相談しに来て、こんなもん読ませるのよ! 怖いわ!」


 揺さぶりが止んだ頃、未だににやけたままのその人物の軽口に、少女は否定の言葉を畳み掛けた。


 未だ襟を掴んだ状態を見る限り、事と次第によっては再び揺さぶることも辞さないようだ。


 しかし、その人物はそんなことは気にも留めず、言い訳も無しにぶっちゃけた。


「えぇ、だって惚気話聞かされるの飽きたんだもの。バカップルの話って大概、惚気なのよねぇ。嫌になるわ、ほんと」


 その人物は右の頬に手を置き、溜め息を盛大に零す。


 この言い草に少女は恥ずかしさからか顔を赤らめ、襟から手を離してしまうが、反論だけは忘れない。


「惚気じゃない! 愚痴よ、愚痴!」


「はいはい、惚気、惚気」


「ちっがーう!」


 だが、それさえもその人物に面倒臭そうな態度で返され、少女はつい勢い良く立ち上がって、それまでの比ではない叫び声を上げてしまう。


 少女の正面に居たその人物も、あまりの声量に思わず耳を塞いでいたほどだ。


 これは確実にご近所にまで響き渡ったことだろう、とその人物は心の片隅で密かに思うのだった。


 そんなことを思われているとはつゆ知らず、少女は決まりの悪そうな顔で座り直し、次いで落ち込んだような態度を露わにし始めた。


「いいから、ちゃんと聞いてよ」


「聞いてる、聞いてる。要はあれでしょ? 先生があんたに手を出さないのが不満ってことでしょ? なら、やることは決まってるじゃない」


 流石にからかい過ぎたか、とその人物も少しだけ反省し、今度は先ほどよりは真面目に相談に乗ることにした。


 ただし、この人物の真面目はかなり質が悪いのだが。


「何よ、やることって」


「まずは脱ぐ」


 少女からの問い掛けに単刀直入で答えたその人物。


 しかしながら、その答えはあまりに酷かった。


 その人物の自信満々の笑みを見せられても、それは変わりようのない事実だ。


 言われた張本人である少女の顔も引きつっている。


 だからこそ、少女が若干辛辣な物言いをするのも仕方がないと言うもの。


 いや、それで済んだのだ、穏便な対応だったと言えよう。


「冗談はその空っぽの頭だけにしてくれない? それともあんたの頭の中はお花畑でもあるの?」


「あんた、スタイルと顔だけは抜群なんだから、脱げば簡単に襲ってくるわよ。例え、あの冷徹冷酷って言われる先生でも一応男よ? 据え膳食わぬは男が廃るってね。鋼鉄の理性でも引きちぎられるわ、絶対」


 だがしかし、その人物は少女のそれをあたかも聞いてなかったかのようにスルーし、尚且つ続きを語り出した。


 これには少女もその人物の頭をひっぱたいて、無理やりその妄言を止めさせた。


「いや、聞けって。やらないからね、絶対」


「ええっ!? やらないの?」


 少女がもう一度、今度は回りくどい言い方をせずに否を唱えると、その人物もようやく話を聞いて驚きを示した。


 少女としては、そこで驚きが出てくる方が驚きだったが。


 何故驚く、と。


「やるか、馬鹿! 歌穂、何であんたは私が絶対やるって決めつけてんのよ!」


「いや、奈緒だし?」


「可愛く首傾げられてもやんないっての! てか、私だからって理由になってない!」


 少女改め奈緒は、その人物改め歌穂の言動に最早頭痛すらしてきていた。


 この時、奈緒は今更ながらに思った。


 相談する相手を本当に間違えてしまった、と。


「ちぇ、ケチ」


「ケチじゃないから! そう言う問題じゃないから!」


 歌穂の拗ねたような言動に、奈緒は思わず手の甲を歌穂に向け、ツッコミを入れてしまう。


 次いで、奈緒はそんな状況に陥ったことに際して本格的に頭を痛める。


 自分は何をやっているんだ、何でこんな事になってしまったんだ、と。


 だがしかし、そんな奈緒の気持ちなど気にしない歌穂は、更なる境地へと突き進む。


「それじゃあ、こういうのは? 裸エプロン!」


「あんた本当に死ね! 今すぐにでも、そこの窓から飛び降りろ!」


 ナイスアイディアでしょ、と歌穂が人差し指を立てる中、奈緒は部屋の東側にある窓を指差し、いきり立つ。


 最早、額には血管が浮き出て、はっきりとした青筋を立てているのが窺える。


 ここまでくると、流石に歌穂も態度を改めるのかと思いきや、全くそう言うことはない。


 逆にその提案に上乗せする形で、自身の妄想をにやついた顔で繰り広げる。


「何でよぉ。良いじゃない、裸エプロン。あれにお帰りなさいとか言われたら、私なら躊躇なく襲うね。むしろ、食べ尽くすわね」


「勝手に襲ってろ! むしろ、あんたが襲われてろ! このド変態!」


 聞きたくもない妄想を語られ続けることと、それに際してあまりにもだらしない顔をする歌穂に、奈緒は生理的な嫌悪感を否応無しに覚えさせられた。


 そんな人物に相談しに来た者が言えた義理ではないのだが、それでも奈緒には許容範囲外だった。


「まったくもう、あれも駄目、これも駄目って奈緒は我が儘過ぎるわよ」


「そもそもの提案内容が可笑しいからじゃない! あんたの方が明らかに我が儘だっての!」


 歌穂の非難するような眼差しを受け、奈緒は意味もなく叫びたい衝動に駆られた。


 奈緒の自制が崩壊した暁には、奈緒は迷わず歌穂を再び全力で揺さぶったことだろう。


 それはもう、鞭打ちになろうが何だろうが関係なしに。


 一方、その原因たる歌穂は奈緒の心の内の葛藤を知ってか知らずか、渋々仕方無さそうに三度にして最後の提案を告げる。


「もう、仕方ないわね。なら、これで最後よ。プレゼントはわ・た・しハート大作戦! これは全裸にリボンを結んだだけの状態で」


「ふざけるな!! あんたの頭の中には裸しかないのか!?」


 それはある意味、今までの提案の中でも一番馬鹿げたものであり、また、突き詰めれば先程までの提案と代わり映えしないものだった。


 だからだろうか、奈緒が歌穂に最後までそれを言わせなかったのは。


 そんな奈緒に不満を持ったのは、言うまでもなく歌穂だ。


「酷いわね、そんなわけないじゃない。それ以外もあるわよ、もちろん。スク水とか、破られた制服の見えそうで見えないチラリズムとか、調教とか、ボールキャップから滴る涎とか、手錠プレイとか、縄で縛られて三角木馬に」


「ごめん、悪かった! あんたは超ド級の変態だった! てか、前半もヤバいけど後半明らかにおかしいでしょ! あんたのSMに対する欲望じゃない!」


 話を終わらせる為に言った奈緒の発言は、しかし、歌穂のよく分からない琴線に触れてしまったということだろう。


 虚ろな目で涎を口の端から垂らし、恍惚とした表情を浮かべる歌穂によって次々に挙げられていくそれは、奈緒の顔を赤々と赤面させて早々に白旗を揚げさせた。


 まだまだ初な奈緒には、それは聞くに堪えない内容でしかなく、歌穂に共感など持てるはずもなかったということだ。


 少なくとも、今はまだ。


「そうよ?」


「そんな不思議そうな顔されても私が困るわ! ……はぁ、もういいや。疲れた」


 何を言われても動じない、変わらない歌穂のそのマイペースさに、疲れ果てた奈緒は仰向けに倒れた。


 そして、そのままぐったりと寝転んでしまった。


 このままいけば、人の部屋など関係なくふて寝を始めそうな様子だ。


 歌穂は奈緒のそんな様子に、今までの態度とは打って変わった、優しげな表情を浮かべてみせた。


「お疲れ様。まぁ、私の意見はさて置いて。結局のところね、奈緒、あんたがどうしたいのか。それなのよ。正直に今の気持ちを伝えて先生と話し合ってもいいし、色仕掛けで攻めるのもいい。奈緒次第でどうとでも転ぶの。自分がしたいようにしてみれば、結果は自ずと着いてくるわよ」


 歌穂は微笑みながら静かな口調で諭すように語りかけ、寝転ぶ奈緒の傍らに寄った。


 そして、奈緒の頭を撫でたあと、その柔らかな頬を人差し指で数回ほどつつく。


 奈緒は抵抗する気が無いのか、歌穂にされるがままだ。


「うぅ、やっぱりさっきまでのは冗談だったのね」


「ううん、あれもかなり真剣に考えた結果よ? 結構本気だったわ、裸シリーズ」


 その後、奈緒が恨めしそうな目で歌穂を見つめるも、歌穂は少しだけ意地の悪い顔をするだけだった。


「あんた、本当に質が悪いわ」


 奈緒の拗ねたような言葉が呟かれる。


 それに歌穂は微かに笑みを浮かべるだけ。


 晴天の日曜日、歌穂の部屋、奈緒と歌穂のいつもと変わらない日常がそこにはあった。



 いや、短編小説って意外と難しいですね。どう纏めようか悩んでしまい、思いのほか大変でした。

 それでも、楽しんでいただけたなら幸いです。



 ちなみに、奈緒と歌穂のじゃれ合いはまたちょくちょく書いていくと思います。この二人の話が結構思い浮かんできちゃうので、需要なくても書いちゃいます(笑)



 拙いものではありましたが、これであとがき終わりです。

ありがとうございました。



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