第2章(3)
夜中に、ふと眼を覚ましたフィルバートは、隣の寝台に何時もある気配が無いことに気がついた。
身を起こし、隣に声をかける。
「ナージャ?」
寝台から降り、隣に近づいてみれば、そこは空。
すこぶる寝つきがよく、一度寝付いたら朝まで正体なく寝ているはずの少年が居ない。
「何処に行ったのかな。」
手水だろうかと毛布の下に手を入れてみれば、だいぶ冷えている。
「城内が安全だとは言い切れないといわれているはずなのに。」
スフィルカールを狙う者は、歴然として存在している。
この城の内側でどこかで何者かが好機を待って息をひそめているかもしれない。
いくらシヴァや宮廷魔術師による防御の魔法が強固とはいえ。
警備の兵士がひっきりなしに見張りをしているとはいえ。
夜中の一人歩きはあまりよろしいとは言えない。
似た年頃の子どもというだけで狙われる可能性もあるのだ。
「ナージャは不用心すぎるな。」
あのスフィルカールですら、夜に一人で行動することは絶対にしない。それどころか城内は必ず誰かと一緒だ。部屋の入り口には常に警備が張り付いている。
むしろ、街中の方が開けっぴろげに行動するのだ。
城の中が一番「公王」として目立つんだ。
ぼそりと言ったことがあった。
街の中で少々無茶なことをしたがるのは、その反動かと思うときもある。
つい数か月前まで孤児として街の中を自由に闊歩していたナザールにその辺りの危機意識はない。
それは無理もない。
「仕方がない、か。」
フィルバートはため息と共に、夜着を脱ぎ、シャツとズボンという軽装に着替え、長靴を履く。
何時も枕の下の置く短剣をとりだすと腰に結わえ、寝台脇に立てかけた長い剣を帯びる。
ひょっとしたら、あの白い龍のところかもしれない。
あのあと、シヴァが龍の治癒能力を高めるための術を厩に施した。馬は臨時的に別の厩に入れられているはずだ。
まずはそこへ行ってみよう。
フィルバートは音を立てぬように注意しながらそっと部屋を出た。