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第2章(2)




 スフィルカールとフィルバートが落書きをしたことによって、炎と共に近くの龍を転移させる魔法に書き変わっていたらしい。




 偶然とはいえ、あまりにあまりな結末に、さらに三人はシヴァとリュスラーンに呆れられたのは言うまでもない。




 「なんで、ただの炎の呪文が、炎と共に龍を転移させる呪文に変わっちゃうんだよ・・。」

「近くということは、公都内ですかね?」

「そうらしいな、今のナージャの力ではその程度の範囲だということだ。」


 この歳でもう公都内に力が及ぼせるのかと他の宮廷魔術師がこっそりと言っていたのは、まだスフィルカールの胸の内にとどめておくことにした。



 その日の夜の事である。

 ナザールとフィルバートの私室で、三人は広間に敷かれたラグの上でだらだらとくつろいでいた。

 大体、夕食後はスフィルカールもここに居て、もう寝なさいと侍官や女官が呼びに来るまでは三人で何やかやと話したり勉強をしていることが多い。


 何事か考えていたナザールは急に顔を上げた。



 「・・てことはさ、公都内に傷ついた龍が居たってことになるよな?」




 スフィルカールとフィルバートは顔を見合わせた。


 「当然そうなるな。」

「そうですね。」

「そうですね、じゃねぇよ。」


 ナザールが居住まいを正したことで、スフィルカールとフィルバートも同じく背を伸ばす。

 三人はラグの上で膝を突き合わせた。



 「・・・・各国との取り決めで、龍は、保護動物だって前にリュスが言ってたじゃないか。 どうして眼に矢が突き刺さって魔力も消耗しきった龍が公都にいるんだよ? 自然死した龍の鱗を採取する許可業者の仕業じゃねえだろ?」

「・・・・あ、そうか!」

「密輸か。」



 三人の顔色が急に変わる。



 「・・・・非合法で、龍の血や鱗を得ている者が居るということか。」

「それを捌くルートもあるってことですね。」

「生きたまま、血を抜いたり、鱗をはがそうとしてたみたいだよ。師匠に眠らされてから近づいて見たけど。鱗が幾つか剥がされてて、そこから血が出てた。・・あいつ、可哀想だよ。眼にはぐっさり矢が突き刺さって、血が固まってるし、首とかたくさん切り傷あって、翼もだいぶぼろぼろだった。すっげー痛かったんだろうな。」

「ウルカが大分ショックを受けていましたね。パニック起こして元の姿に戻りかけたからシヴァ様が慌てて外に連れ出してましたけど。・・・もう大丈夫かな。」

「ナージャ、お前は、動物にすぐに情がわくな。」


 スフィルカールがやや呆れ気味につぶやく。


 「城の裏の子猫にもすぐ餌をやるし。猫にしろあの龍にしろ、お前が一頭そこら同情したところで、他にもごまんと似た境遇の者はいるだろうに。」

「・・お前な、それ俺に言う?」


 ずい、とナザールの顔がスフィルカールに迫る。


 「お前は、あの施設で満足してるだろうけど。孤児数人助けたくらいで、良い気になるなよ。他にも似た境遇の奴はごまんといるぜ? 公都だけじゃなくて、この公国だけでもどれほどの人間が生きる方法もなくて、親に傷つけられて、捨てられているかって考えたことないのかよ? ・・せめて自分の手が届く範囲でくらいなんとかできないかって思ったって良いじゃねぇか。」

「そういうのを自己満足というのではないのか?」

「なんだって!?」


 おもわず、手が出かけたナザールの腕をフィルバートの手が押さえた。



 「はい、そこまで。そもそも話がずれています。」

「なんだよ、お前どっちの言い分に味方するんだよ?」




 ナザールの言葉に、フィルバートはため息をつく。




 「どっちもどっちです。」

「そういうのを、八方美人というのだ。」



 スフィルカールのセリフに、一瞬だけ、フィルバートはガラス玉のような瞳を少しだけゆがめ。




 「八方美人と言われようが構いません。どちらの言い分にも利もありますが賛同しかねる点もあります。」




 肩をすくめ、ため息をつく。




 「・・・・こんなことで言い合いしないでくださいよ。」




 フィルバートの冷静な声に、二人はお互い視線をはずした。





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