第1章:天高く・・・な秋(4)
“まぁ、あの惚れっぷりは御稚児さん扱いととられかねんな。”
「勘弁してくれよ。冗談じゃない。外務卿も“そんなことはない”と援護してくれて、フェルナンドとか他の騎士の話を聞いて、ようやく納得してくれたけどさ。・・・ランド伯はあと数年は手元に置いてから留学させるなりなんなりしようと思ってたんだって。父親に似てちょっと危なっかしいところがあるから、今はまだ早いって思ってたらしい。」
「フェルヴァンス人の父親か。」
ウルカの言葉に、リュスラーンは頷いた。
「今のフィルの年頃に最前線で衛生兵してるところに出会ったらしいんだけど。まー、純粋のフェルヴァンス人だからさ。異国風の綺麗な顔してて、それこそお人形さんみたいだったんだって。すでにトラブルに会いそうになって、魔力で相手を殺しかけた事があって“魔女”って兵士から呼ばれてたらしいよ。一目でこりゃいかんと思ったらしい。魔術もかなり巧みだったらしくてね、病院に置いておくのも惜しかったし、第一あんなの最前線でほうっておいたら、そのうちどんな騒ぎになるかわからんぞって、医官を説き伏せて自分のとこの特殊部隊に入れたってさ。まぁ、しばらく自分がビミョーな目で見られたから困ったとは言っていたけど。」
“フィルは草原の民との混血という話だから、まだ多少周囲から浮いてるという程度だが。純粋なフェルヴァンス人はめったに会わないから、それは目立つだろうな。”
「二三年したら、身長も伸びて、男っぽくなったからホッとしたって言ってたけど。・・そういうわけで、女の子よりむしろ男に気をつけてくれって頭下げられて頼まれちゃったよ。」
まいったまいったと頭を軽くたたいたリュスラーンにぽそりとウルカがつぶやく。
「・・・すでに、この間売られかけているが。」
「それ、外務卿がうっかりしゃべっちゃってさぁ。もう、ほんと、帰してくれって言いかねない様子だったんだよ。・・・あの年頃の子供って大変・・。」
“まぁ、世間慣れしているナージャはともかく、カールとフィルにはすこし気をつけるよう言う必要があるな。なにせ、世間知らずの公王に綺麗な男の子だ。ちょくちょく三人で病院に遊びに行っているから、街に出る事が増えたし、うっかり声でも掛けられて妙なことにならんとも限らん。”
「それだけどさ。施設に行くのは良いんだけど。・・公王がほいほい街に出ていいのか?」
“お前のおかげで、最近はあそこの治安も良くなったし。まぁ、この間の事もあるから、余計な寄り道はせず、ちゃんと自重しているようだよ。・・・自分が動かしている仕事の結果がどのように人々の生活に反映しているかを見せるには一番だと思うが?”
そのやり取りに、ウルカがくくと笑みを漏らす。
「まるで、父親と母親だな汝達。」
「えー。勘弁してくれよ。俺、こんな奥さん持った覚えないよ。」
“どうしてそこで自分が父親役だと信じて疑わないんだ”
「だって、三人が何かしでかしては、ガミガミ言ってるのシヴァじゃないか。そういうのってお母さんの領分だと思うけど。」
で、そのお母さんの素性だけどさ。とリュスラーンが笑う。
「動ける範囲で調べたけど。何処にも行方不明の貴族の噂がなかったなぁ。」
「汝は・・。いい加減にしないか。しつこいぞ。」
「だってさ、気になるじゃないか。シヴァの素性。絶対、どこかの貴族の子弟だって。あまりあちこちで聞いて回ると噂になってまずいからそんなに調べられなかったけど。」
“いくら調べても、記憶がない以上はどうしようもないだろう。あまり詮索されるのは好まぬから、これ以上は止めてくれるか?”
その言葉に、リュスラーンはすこし申し訳なさそうに首をすくめた。
「そっか。ごめん。気悪くしたか?」
“心配してくれているのはわかるから。・・・・さて、あの馬鹿共の顔でも拝んでくるか。”
立ち上がる隣にリュスラーンが並ぶ。シヴァを挟んで、ウルカも歩き出した。
「しかし、うっかり魔法誤爆させて厩焦がしたって・・・・。一人一人はかなり利口なのに、三人そろうと毎度毎度馬鹿しかやらないのってどういうことだ?」
“わたしが聞きたい”
「先日は、三人で料理長の目を盗んで魚を失敬して城の裏の猫にやっていて、最高級の魚が毎日盗まれるという怪奇現象騒ぎだったな。」
「言えばいいのに。・・この間は、道に放置された箱を邪魔だからってうっかり持って帰ってきちゃって、病院で開けて吃驚、密輸品だったとか。」
“・・・本当に馬鹿しかやらんな。”
呆れ気味のシヴァに、リュスラーンはいやいや、と笑う。
「そういう、子供じみた馬鹿な時間を満喫してこそ、大人になった時に力を発揮するんだって、俺に言ったのはシヴァだよ?」
からからと笑う声に、シヴァもウルカも肩をすくめた。
“こいつは一本取られた”
うすく笑みを見せたシヴァに、リュスラーンは少年たちの行方を尋ね、ウルカの返答にまた爆笑した。
「で、その子供たちってどうしてるの?」
「厩の掃除をさせておる。」