男三人、東京へ行く
登場人物
渚 : 母
翔 : 父
昴 : 11歳・小学5年生
朔 : 7歳・小学1年生
「お母さん、ここ見て」
東京から帰ってきた昴が、膝をこちらへ向けた。
見ると、擦ったような傷ができている。
「どうしたの? 転んだ?」
「うん」
男三人で出かければ、まあ、そんなこともあるだろう。
今回は夫が息子二人を連れて東京へ遊びに行っていた。行きは新幹線、帰りは飛行機。どこで何をしてきたのか、私はまだ詳しく聞いていない。
「どこで転んだの?」
「空港」
「空港?」
「うん」
「走ってた?」
「走ってた」
「空港で走ったら危ないでしょ」
「だって、飛行機乗らないといけなかったから」
「飛行機に乗るのに、なんで走ってたの?」
「時間だったから」
「搭乗時間?」
「うん」
それなら急いでいたのも分かる。
「それで走ってたの?」
「名前呼ばれたから」
「名前?」
「放送で」
「……空港の?」
「うん」
「呼び出されたの?」
「うん」
「……お父さん、何してたの?」
「知らない」
一緒にいた昴が知らないのなら、留守番をしていた私にはもっと分からない。
「それで三人で走ってたの?」
「うん。お父さんが朔に『転ぶなよ』って言って」
「うん」
「俺が転んだ」
「昴が転んだの?」
「うん」
「どこで転んだの?」
「飛行機乗るときにつながってるところあるでしょ? そこ」
「ああ、タラップ?」
「そう」
「どんな転び方したの?」
「二メートルくらい滑った」
「二メートル!?」
思っていたより、ずっと派手に転んでいた。
「……それで、お父さんには何か言われた?」
「お前が転ぶのかよ」とか、「転ぶなって言っただろ」とか、そんな言葉が返ってきたのだろうと思った。
「言われた」
「なんて?」
昴は、そのときのお父さんを再現するように片手を上げた。
「うぇ〜い」
何をしてるんだ、あの父親。
※実話をもとにしています。
「うぇ〜い」も実際に言われたそうです。




