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隣りの家はマクルシファーさん

隣りの魔法学園 四月馬鹿

掲載日:2026/03/29

我が家の隣りには魔法学園がある。


毎年、いろいろな才能が集まってくる。


四月馬鹿をやりたくなった。


楽しめそうな子たちが、やってくるといいな!


掲示板に、張り紙が出ていた。


【四月馬鹿限定:嘘をつける者募集】


報酬:内容により変動(※現実になる可能性あり)


「……意味がわからない」

僕は思わず眉をひそめた。

「四月馬鹿だからでしょ」と隣で友人が笑う 。

「いや、それはわかるけどさ。この『現実になる可能性』って書き方、怪しくないか?」

「言葉でだましているのよ。可能性ってさ、たとえゼロだって可能性って言えるんだから」


友人はそう単純にいうと、さっさと応募した。僕は迷った。あぶないと思った。だけど、どうしても気になった。

お隣さんの菜園を覗いてみたいという好奇心もあったし、「嘘をつくだけ」なら僕にだってできるはずだ。


そんなわけで僕たちは、募集に応じた。


門の先には、いつも上から眺めていた家庭菜園が広がっていた。だが、同じ高さで見ると、その広大さに圧倒される 。

何より異様だったのは、地面に無数の「紙」が刺さっている光景だ 。


「ようこそ、嘘の収穫祭へ」

マクルシファーさんが、満足そうにうなずきながら僕たちを迎えた 。

「マクルシファーさん、これ、何ですか? 菜園っていうか、ゴミ捨て場に見えますけど」

「失礼な。これは嘘の種だよ。四月馬鹿に嘘を植えると、芽が出るんだ」

「嘘が……芽吹く? 植物学の常識が泣いてますよ」


マクルシファーさんは僕の皮肉を、柳に風と受け流し、のんびりと説明を続けた。

今日は特別な日で、ついた嘘が「現実になりかける」のだという 。

「完全にはならない。だが、半分くらいはなる。だから、うまく嘘をついてほしい」

「『うまく』って、どういう基準ですか? 失敗したらどうなるんです?」

「面白いことになる」 「……その『面白い』、僕にとっては絶望的な予感しかしないんですけど。やっぱりやめたいです」 「おや、お友だちはどう、言うかな?」


「慎重すぎるのは欠点になるよ。やるんだ」


「そうよ、可能性よ。可能性。単に可能性。難しく考えることないわ」


マクルシファーさんは、三日月のような目で僕を見て笑った 。


僕は仕方なく、一枚目の紙に投げやりに書いた。

『空を飛べるようになる』 それを地面に刺すと、間もなく「ひょこっ」と音がして、僕の背丈の半分ほどもある巨大な芽が飛び出した 。


その瞬間、僕の体がふわっと浮き上がった。

「うわっ!?」

浮いた高さは、わずか30センチ。

しかも、そこから移動するには普通に足を動かす必要があった。透明な踏み台に乗って歩いているような、なんともマヌケな姿だ 。


「……何ですかこれ! 全然飛んでない! 浮いてるだけだ!」

「嘘じゃないだろう? 地面からは離れている。半分は本当になったわけだ」

「半分ってそういう意味かよ! 効率が悪すぎる!」

「文句が多いね。残りの半分は君の努力で補いなさい」


他の学生たちも次々に嘘を植えていく 。

「テストが全部満点になる!」と書いた奴の芽が出た瞬間、遠くの校舎から「問題が簡単になりすぎだ!」という叫び声が聞こえた 。

「モテる」と書いた学生は、直後に三人の女子に詰め寄られ、「こわいこわい!」と悲鳴を上げている 。


「こわい。こわい!こわい! 助けてくれ、カイル!」


三人の女子に詰め寄られていた彼――確か同じ学年のリロイだったと思う――は、必死の形相で僕の浮いている足元に転がり込んできた。


「おい、自業自得だろ。自分で植えたんだから」

「そうだけど! こんなに距離が近いなんて聞いてない! しかも、この子たち……目が、目が笑ってないんだ!」


よく見ると、彼を囲む女子たちの表情はどこか虚ろで、それでいて情熱だけが異常に煮詰まっている。

マクルシファーさんが、お茶のカップを置かずに言った。

「当然だろう。感情まで完全に捏造するのは難しい。だから『モテる』という結果を出すために、彼女たちの脳内の『推しを愛でる回路』を強制的に彼に繋ぎ変えたんだよ」

「えげつないこと言わないでくださいよ!」


リロイは逃げ出そうとしたが、芽から伸びた目に見えない「嘘の根」が彼の足首を掴んでいるのか、一定の範囲から出ることができないようだった。

女子の一人が、うっとりと彼の腕を掴む。

「ねえ、リロイ。今日の放課後、空いてるよね? ……一生、空いてるよね?」

「重い! 愛が重すぎる!」


僕は30センチ浮いたまま、彼に同情の眼差しを向けた。

「半分だけ本当になるって、こういうことか。……『好意』じゃなくて『執着』が具現化しちゃったんだな」

「カイル、分析してないで助けて! 紙! 予備の紙をくれ!」


リロイは僕が持っていた紙をひったくると、震える手でこう書き殴った。

『僕は石ころだ』


彼がそれを地面に突き刺すと、ひょろりと頼りない芽が出た。

次の瞬間、女子たちの熱狂が急速に冷めていく。

「……あれ? 私、なんでこんなところで油を売ってたのかしら」

「さあ? 帰って予習しましょう」

彼女たちはリロイを、文字通り道端の石っころでも見るような、一瞥もくれない冷淡さで去っていった。


「……助かった……」

リロイは地面に大の字になって、枯れかけた「モテる」芽の横で荒い息を吐いた。

だが、異変はすぐに起きた。


マクルシファーさんが、ニヤリと笑う。

「おや、そっちも『半分』叶ってしまったね」


リロイが起き上がろうとしたが、彼の体はびくともしなかった。

「……カイル。体が、動かない。というか、すごく……硬いんだけど」

彼の肌の色が、どことなく灰色っぽく、無機質な質感に変わっている。


「『石ころ』の半分……つまり『動けない重い塊』になっちゃったのか」

「嘘だろ!? 今日、これからバイトがあるんだぞ!」

「大丈夫、嘘をつけるのは今日だけだから。明日になれば、ただの『少し体が重いリロイ』に戻れるさ」


僕は石のように固まった友人を見下ろしながら、少しだけ優越感に浸って空中を散歩した。

マクルシファーさんは、そんな僕らを見て「若者は極端だねえ」と楽しそうに笑っていた。




「先生が優しくなる」という嘘には、教師が「君たちがいい子すぎて感動したぁ……」と号泣する結果が待っていた 。

「宿題を消す」と書けば、宿題の「紙」だけが消滅し、提出期限のデータだけが残る 。


「マクルシファーさん、これ、みんな不幸になってませんか?」

「そんなことはないさ。現実とのバランスを楽しんでいるんだよ」

彼は、混乱する畑を眺めながら優雅に茶を啜っていた。


僕は、透明な三十センチの台の上で畑を見渡した。


すると紙がふるふる震えていた。芽がまだ出てないようだ。


じっとみているとびょこんって感じで大きな芽が出た。


僕の頭より高い芽だ。


「……ねえ、あれ。あのデカすぎる芽は何です?」

「今日一番の嘘だよ。誰かが植えて、そのまま逃げ出したようだ」


紙には、こう記されていた。



『この世界は全部、嘘だ』


「だめだ!」 僕が叫ぶのと同時だった。「ぱきん」と乾いた音がして紙が光り、周囲の空気が激しく揺らぎ始めた 。

畑の色がみるみる薄くなっていく 。


「え……?」

自分の手を見ると、向こう側が透けて見えた 。

「ちょっと待ってください! 消えてる! 世界が消えかけてますよ!」 「おや、半分以上、現実になりかけているね。この世界が嘘なら、形を保つ必要もないわけだ」 「他人事みたいに言わないで! 戻るんですよね、これ!?」 「戻るよ。……たぶんね。君の『嘘つきの才能』次第かな」


僕は必死に考えた。嘘を止めるには、嘘を重ねるしかない。

僕は別の紙をひったくり、殴り書きした。

『この世界は本当だ』 地面に突き刺し、祈るように叫んだ。「出ろ、芽よ出ろ!」


……出た。

芽が弾けた瞬間、視界に鮮やかな色が戻ってきた。手がはっきり見えてきた。

頬をなでる風の音を、僕ははっきりと聞いた 。


「……戻った。助かった……」

僕はその場にへたり込んだ。


マクルシファーさんが、僕の肩をポンと叩いた。

「いいね。君がちゃんと終わらせてくれた。素晴らしい嘘だったよ」

「……笑えません。結局、この世界は本物なんですか?」

僕の問いに、彼はどこか遠くを見るような目で微笑んだ。


「四月馬鹿はね、『嘘をつく日』じゃないんだ。どこまでが嘘で、どこからが真実か。それを確かめるための日なんだよ」


夕方、庭を出るときに振り返ってみたが、そこにはいつも通りの、静かな家庭菜園があるだけだった。




「……本当に戻ったよな?」

試しに、僕は少しだけ地面を蹴ってみた。

すると体は一メートルほど軽やかに浮き上がり、そのまま歩くことなく、ふわふわと空中を滑るようにして学園へ戻ることができた 。


「……マクルシファーさん。これ、戻ってないじゃないですか」



四月一日に芽吹いた嘘のいくつかは、今もこうして、僕らの現実にこっそりと溶け込んでいる。

いつも読んでいただきありがとうございます!


誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。

とても助かっております。

楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。

それからもう一つ、ページの下部にあります、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイントを入れていただけると嬉しいです。


どうぞよろしくお願いいたします。



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― 新着の感想 ―
ものすごく好みです。書いてくださってありがとうございます。星新一先生の本が読みたくなりました。
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