崩壊、差し伸べる手。
「……様、……ルシャ様。」
何だろう遠くから何か聞こえる。もう、何なの、今眠たいのに……
「エルシャ様!」
「ハッ!」
朦朧としていた頭が一気に回転をはじめてぐわんぐわんして目が回るような感じがする。いや、気持ちが悪いのはそのせいだけじゃないな。
あちこちから悲鳴の声が聞こえる。さっきまできれいな夕日が見えていたのに今はもう空には暗雲が立ち込めてていた。
落ち着いて、今すべき優先順位は何?
とにかく、動かないことには何も始まらない。それにさっき私の名前を呼んだのはアンドレだ。どういう状況なのかわからないけど近くにいる。
「アンドレ?どこにいるの?返事して!」
「こ、こ、です……」
今にも消え入りそうな声だ。それでも近くにいる。早く見つけないと。
両手の平でうつぶせになった上半身をやっとのことで起こして周りを見渡す。花屋も、周りの建物もほとんど跡形もなく崩れ落ちてしまっていた。
ん?あれ、アンドレが買っていた花束じゃないの?
ここからアンドレは目視できない。ただ、花束ががれきの山の中からただ一つ顔を出しているだけ。それでもいまは小さな確証にすがるしかない。
「アンドレ!花束、見えた!今行くからもうちょっと耐えて!」
返事はない。
ほふく前進のような形でがれきから抜け出す。まだ、下半身の感覚は戻らない。
「あぁぁぁぁぁぁ」
思わずうめき声が出る。単純な腕力だけで全身を少しずつアンドレのもとへ向かう。あぁ、くそっ、こんなとき魔法が使えたら……。
どれくらい時間がかかったかわからない。時間なんて概念気にしてるリソースなんて今の私にはなかった。やっとのことでアンドレのもとに着く。
「アンドレ!!聞こえるなら返事して!」
返事は、ない。
「アンドレ!、アンドレ!」
くそっ、くそっ。アンドレがどんな状況かも把握できない。ただ私の目の前に見えるのはがれきの山から飛び出したアンドレの手とその先に握られた花束だけ。
私に何ができる?
「シーラ……」
アンドレの今にも消えそうな声が聞こえた。
「アンドレ!今助けるから……!」
「この花束は、おまえ、のために、買ったんだ……」
話がかみ合わない……、もしかしたらアンドレは幻覚を見ているのかもしれない。
「アンドレ!一緒にシーラを探しに行こう。その花束渡すんでしょ!ここで死んだら渡せないじゃないの!ぜったい死んじゃダメ!」
返事はなかった。そこにあるのはベゴニアの花束だけだった。
とまらない嗚咽が降ってきた雨にかき消される。雨に濡れて服が全身にまとわりついてくる不快感は冷静さを取り戻すには十分だった。
アンドレの手から花束を抜き取り、起き上がる。もう下半身の感覚は戻っていた。
シーラにとにかくこの花束を渡す。ぜったいに。
しばらく街を歩いて中心部まで戻ってきた。
どこかしこもひどい状況……。街の建物は見えるかぎりほとんど消し飛んでいるし、けがをした人もあちらこちらにいる……。
いったいあの瞬間に何が起こったのかさっぱりわからない。たった一つわかるのは、今この状況はいつもの、日常の延長線上にはない異常事態だということ。
そもそもあんなに近くにいたのに何で見つからないの?もしかしたらどこかで見逃したのかもしれない。がれきの表面は注意深く見たけど、もし、アンドレみたいにがれきの下に埋もれていたりしたら……。
嫌なことを考えてしまった。忘れよう。
「敵襲だぁ!。急いで怪我人を担いで逃げろ!」
背後から突然怒号と鼓膜を破らんばかりの「ダン、ダン、ダン」という轟音が聞こえた。
何?いったい次は何が起こっているの⁉
後ろを振り向くと黒服を着た人たちが見たこともないものを構えながらこちらに向かってきている。
「おい!市民は殺してもいいが領主とその家族は殺すな!拘束してリパブリカに連れ帰る!まぁ、もっとも、先刻の爆撃で一家もろとも死んでいるかもしれんがな」
リパブリカ⁉なんで共和国の首都に??いや、そんなことよりこいつらの目的はわたしとわたしの家族なのか。大丈夫……、両親は二人とも遠方で開かれているパーティに出向いているから命の心配はないはず。
とにかく私も逃げなきゃ。ここで捕まったら一生シーラに会えないかもしれない。
黒服たちに背を向けて全速力で走る。
「シュバッ」
「グヘァッ」
右のふくらはぎに感じたことない痛みが走って倒れこむ。
痛ッ。なにこれ……足が、足が燃えるように熱い……。これは魔法……なの?少なくとも私の人生でこんな魔法は見たことがない……。
患部には焼けるような痛みが走り、赤黒い血液があふれ出した。
このままじゃ、歩けない……。
半ば諦めかけて目線を前に向けると見覚えのある姿があった。シーラだ。
大丈夫だ。シーラはちゃんと逃げられている。希望、希望を持つんだ。多分、わたしは殺されない。生きていれば絶対にどこかで会える。そしたらこの花束を渡そう。
「シュパッ」
耳元を何かが掠めた。その音の正体はそのままシーラの背中を貫いた。
希望が一瞬で崩れ落ちる音が聞こえた。
「あ゛あ゛ぁあぁぁぁぁぁ!」
その後、私は拘束された。
「ガコンッ」
馬車の車輪が大きめの石に乗り上げた音がする。
もう何日も馬車の中だ。
あの後のことはほとんど覚えていない。黒服たちはなぜか私の顔を知っていてすぐに拘束されたことだけ。シーラは……どうなったかわからない。あとこれは馬車を引く黒服から盗み聞いた話だけど、共和国が何者かによるクーデターで倒れたらしい。それで各国、各領の長を至急、首都リパブリカに連行するように命令を受けたと。
まぁ、どうでもいいけど。
これからなにをして生きてけばいいのかわからない。あの日、私のすべてが壊れてしまったから。
無意識にもうとっくに萎れてしまっている花束を握りしめていた。
「おい、お前降りろ」
黒服から声がかかる。どうやらさっき乗り上げた石のせいで車輪が壊れてしまったらしい。
馬車の外に出ると深い森特有の体にまとわりつくような強い湿気を感じる。
「お前、魔法使えるだろ。さっさと車輪直せ」
そう、一般的に領主や貴族、王族は魔法が使える。この世界の常識だ。だから長い間、共和国も広大な土地を治めることができた。
でも私は使えない。
「ごめんなさい。無理です。私、魔法が使えないんです。」
「はぁ?お前、この期に及んで逆らうのかよ。まじでめんどくせぇなクソガキが。」
殴られそうになったその時、馬車が炎の渦に包まれた。
魔法⁉どこから?
「おい、燃えてるぞ何やってんだ!」
「私じゃないって!」
「クソッ、今ここで俺を殺す気だな!受けて立ってやるよ!」
黒服は腰の片手剣を抜いた。一方、私は丸腰。
あぁ、私は死ぬんだ。
そう悟ったとき、黒服の背後から飛ぶように向かってきた剣士が黒服を後ろから貫いた。そして私に手を差し伸べた。
「君は何を望むんだい?」
私の頭がその言葉を理解するより先に私の体はその手をつかんでいた。
初っ端から投稿が滞てしまい申し訳ありません。
書き貯めがなくて……。とにかく早く投稿できるように頑張ります……。




