聖女様が召喚されたんだって
「聞いたか? 異世界の聖女様が召喚されたそうだぞ」
「それは安心だな。これで魔族たちも大人しくなるだろう」
いつものように街に買い物に来ると、街の人たちのそんな話し声が聞こえてきた。その言葉を聞いて、私は小さく安堵の息をついた。
異世界に転生して、ステータスに聖女って書いてあったから、魔族と戦わなきゃいけないかと思って怯えてたけど、聖女様が召喚されたならよかった。聖女様には悪いけど、きっと豪華な食事に素敵な王子様に囲まれてるんでしょう? 単なる平民の私が聖女になんてなったら、使い壊されてポイされるのが関の山。やっぱこういうのは異世界から召喚された方に任せるのが一番よね。
教会に近づかないように気をつけて過ごしてきた生活もこれで終わり。私はそう思っていつものように肉屋のおじさんに声をかけた。
「おっちゃん! いつもの肉ちょうだい!」
「おう! エリーア! 聞いたか? 聖女様が召喚されたんだと」
「めでたいことじゃん! じゃあ、めでたいついでにおまけしてよ!」
「はっはっは! エリーアは相変わらず面白いな」
気持ち分厚めに切り分けてもらった肉を籠にしまい、八百屋に向かう。足りない野菜を買って、森の奥にある家に帰るのだ。両親はすでに亡くしている。天涯孤独は聖女鑑定から逃げるのにちょうどよかったのだ。
「え、あたし聖女? じゃあ、ビームとか撃てるわけ?」
ビームと言いながら王宮を破壊しようとする聖女を鑑定した聖職者は、顔色を悪くして国王に耳打ちした。
「聖女でなく、魔王だと!? ……確かに素行はかなり悪いが」
「本人が魔王と自覚しないように、聖女として崇めましょう」
聖女のフリをした魔王に国の中枢が振り回されている中、本物聖女のエリーアは森の中で幸せに暮らしたのだった。
「平民として生きてきたから、たまに襲いに来る魔族の怖さはわかってる。そんな私が魔族と戦うとか怖いし、平民としてこの森の家で暮らしていくんだ。本当にお強い聖女様が召喚されたらしくて、よかったー」
前世の知識を使って紅茶を作り、紅茶を楽しみながら新しい嗜好品を考えるエリーアが本物の聖女だなんて、誰も思わなかったのだった。




